R3障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト(デジタルブック版)
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185第8節 その他の障害者(騒音などの気を散らすもの)やその時々の本人の疲労の程度にも影響を受けるため、同じ職務でも作業の正確性や能率にムラが生じる場合があり、こうしたことが誤解につながりやすいものと推測されます。注意障害がある人に対する職場の配慮としては、集中しやすい作業環境づくりと、ミスをチェックして自己修正できるしくみを整えることがポイントといえるでしょう。前者に関しては、人の出入りや騒音の少ない作業環境にすること、作業は一つずつ指示すること(並行作業を避ける)、集中を要する細かい作業は疲れていない午前中に行えるようにすることなどが考えられます。小休憩をこまめに入れることが却って作業能率を高める場合もあると考えられます。後者に関しては、見直し用のチェックリストを用意すること、見直しをルーティンに組み込むことなどが考えられます。③ 半側空間無視半側空間無視は、左右どちらかの空間への注意力が特に弱くなる症状で、多くの場合は左の半側空間無視であるため、以下は左半側空間無視について述べます(右の半側空間無視は比較的稀であり、あっても軽症の場合が多いようです)。症状の具体的な現れ方としては、通路上の左側に置いてある物に気づかずぶつかる、左に曲がる角を見落として道に迷う、左側に置いた持ち物を置き忘れる、書類などに記入する際に左端の空欄を見落とすといったことがあります。見落とすのは必ずしも左の半分ではなく、例えば、「15,000円」の値札を「5,000円」と見間違えるというように、左側の一部であることが多いようです。半側空間無視の症状がある人の中には、左側に見落としが多いことを自覚し、慎重に見直すことを習慣にしている人もいますが、見落としを完全に防ぐことはなかなか難しいようです。疲れているときや、他のことに気を取られているときには特に見落としが起きがちです。高次脳機能障害のほかの症状についても言えることですが、本人の意識や努力だけで解決できる問題ではないことがわかります。職場での配慮としては、左側に注意を喚起すると同時に、注意が向きやすい右側を活用することがポイントです。例えば、連絡事項を書いたメモは本人のデスクの右側に貼る、作業道具の置き場所を右側に固定する、道順を伝える際には右側にあるものを目印として伝えるといったことが考えられます(往路と復路で別の目印が必要です)。見落としによる事故を予防する顔や名前は少しずつ定着することが期待できますが、健康な時に比べると、覚えるまでにたくさんの繰り返しや工夫が必要になります。予定や約束を必要なタイミングで思い出せないことは、社会生活上の失敗につながりがちです。メモを取ることは記憶障害を補うために役立ちますが、記憶障害がある人は、メモをしたこと自体やメモした場所を覚えておくことが難しい場合が多いため、工夫が必要です。例えば、いつも同じメモ帳を使うこと、「どこに」「何を」書くかが決められた様式(メモリーノート)を使うこと、メモの内容を確認するタイミングを決めておくことなどが工夫として挙げられます。メモを確認するタイミングとして、例えば、「始業時と休憩時間明けに確認する」というように職場のスケジュールに沿って決める方法もありますし、スマートフォンなどを活用して決まった時刻にアラームを設定し、確認のきっかけにするといった方法も考えられます。職場環境の配慮は非常に重要です。職業生活を行うためには、日々、非常に多くの情報を管理する必要があり、メモの取り方の工夫だけでは限界が大きいためです。メモの管理に多くの時間と労力を費やし、肝心の職務に力を発揮できない場合もあるでしょう。記憶障害のある人が安心して職務に注力するためには、「覚えなくても見ればわかる」環境を整えることが重要です。例えば、作業スケジュールや作業手順を見やすい場所に貼りだしておくことや、連絡事項は口頭だけでなくメールや書面でも伝えるといったことが挙げられます。作業手順や作業道具の置き場所はできるだけ変更が少ない方が良いでしょう。職務上の安全などに関する特に重要な情報は、目で見て分かる形にしておくことに加え、繰り返し伝えることが望まれます。② 注意障害集中力を長時間維持することや、物事の細部に注意を払うことが苦手になる症状で、職務上では、手順の抜けや見落としなどの、いわゆる「うっかりミス」が生じやすくなります。複数の対象に同時に注意を向けることや、状況に応じて注意を切り替えることが難しい場合が多く、複数作業を並行して行うような状況では作業の正確性や能率が低下しがちです。注意障害は高次脳機能障害者に広く見られる症状ですが、周囲にとってはわかりにくいところがあり、周囲が「やる気がない」とか「手を抜いている」といった誤解をしてしまう場合があります。注意力は環境第3章 第8節

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