R3障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト(デジタルブック版)
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186第3章 障害別にみた特徴と雇用上の配慮ための職場環境の整備も重要です。④ 失語症言語の理解と表出の障害です。以前は自由に操ることができていた母国語が、外国語のように不自由になった状態を想像すると近いものと思われます。会話だけでなく、読み書きにも困難が生じます。ほかの症状と同様、重症度には幅があり、日常会話での意思疎通にも苦慮する場合から、日常会話には不自由はないが職場での会議や文書作成といった複雑な言語活動には困難があるといった場合があります。職場での配慮としては、失語症のある人に対して情報をわかりやすく伝えるための工夫が重要です。一度に多くを伝えようとせず、短い文でゆっくりと話しかけることが基本です。視覚的な情報は理解の助けになるため、口頭だけでなく、文字や写真、絵などを併せて用いると良いでしょう。特に、日付などの数字に関するやり取りは、文字を用いることが行き違いの防止になります。文字で伝える場合は、通常漢字で書く語については漢字で、仮名で書く語については仮名で書いて伝えます(仮名ばかりにすると、かえってわかりづらくなる場合が多いためです)。作業手順を伝える場合は、一連の手順を実際にやって見せたり、写真入りの手順書を用意したりすることが役に立ちます。失語症の人が伝えたいことを汲み取るための工夫も重要です。本人の発話をゆっくりと待つことが基本ですが、言葉を見つけることに苦慮している場合は、聞き手が推測を働かせることも必要です。「○○に関係があることですか」といった大まかな質問から始めて、徐々に話題を特定していくと良いでしょう。その際、先回りして誤った決めつけをしないよう留意し、質問の仕方を変えながら丁寧に意図を確認することが重要です。失語症の症状の一つに、錯語(言い誤り)があります。「電話」と言いたいときに「テレビ」と言ってしまうというように単語が丸ごと入れ替わる場合と、「鉛筆」と言いたいときに「エンツピ」というように一部の音を誤る場合があります。錯語に対して、指摘をしたり、正しい言葉に言い直させたりすることはあまり意味がありません。その言葉を知らなかった訳ではなく、知っていても誤ってしまう症状であり、指摘したからといって次の機会に正しく言えるとは限らないためです。言い間違いを都度指摘されることは、失語症のある人にとってストレスになりがちです。前後の状況から何を伝えたかったのか十分にわかる場合は、メッセージの内容に対して応答すると良いでしょう。何を伝えたかったのかが不明確な場合は、「○○のことですか」と確認します。⑤ 遂行機能障害遂行機能は、自分の行動とその結果を把握し、それらを踏まえて次の行動を計画・調整するといった複雑で高度な判断に関わる認知機能です。遂行機能障害がある人は、簡単でパターン化された作業はこなすことができても、複数工程のある職務の計画を立てることや、臨機応変に問題解決する必要がある状況で、合理的・効率的でない行動が目立ちます。例えば、いくつかの担当職務があるときに(客観的には)優先順位が低いものから始めてしまう、同じような状況で同じような失敗を繰り返すといったことです。周囲から見ると不可解な行動に見えたり、「行きあたりばったり」「要領が悪い」といった厳しい評価になったりしがちです。遂行機能障害が軽度の人では、就職や復職後に初めて職業上の課題が明らかになる場合があります。リハビリテーション施設のような構造化された環境では問題が目立たず、心理検査でも検出しにくい場合があるためです。「以前と何かが違う」「なぜか上手く行かない」と本人が感じていても、言葉で説明することは難しいと考えられます。職場内の支援者の観察が重要であると言えるでしょう。遂行機能障害のある人への職場での配慮としては、作業マニュアルの整備や作業スケジュールの固定などを通して、臨機応変な判断が必要な場面を少なくすることが考えられます。パターン化しにくい職務内容の場合は、職務の計画を紙に書きだして、よく整理してから作業に取りかかるように助言すると良いでしょう。やるべきことを言語化・視覚化することで混乱が減り、より適切に行動できる場合があります。自身で整理することが難しい場合は、周囲が整理を手伝ったり、適切な計画になっているか一緒に確認したりすると良いでしょう。⑥ 失行症主に手を使う動作に関する障害で、運動麻痺などの身体障害によらない場合を言います。使い方を知っているはずの道具が上手く使えなかったり、ジェスチャーなどが上手くできなくなったりします。道具を巧みに操作する必要がある職種では支障が大きいと考えられます。道具の工夫や練習で解決できる場合と、職務内容の見直しが必要な場合があると考えられま第3章 第8節

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