R3障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト(デジタルブック版)
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187第8節 その他の障害者す。⑦ 失認症視覚、聴覚、触覚などの感覚機能自体に問題はないが、感覚が捉えた情報の意味を把握しにくくなる症状で、それぞれ視覚失認、聴覚失認、触覚失認と言います。比較的稀な症状です。失認がある感覚とは別の感覚を用いることで、日常生活上の困難をある程度は補うことができます。例えば、人の顔の見分けがつかない症状(視覚失認の一種である相貌失認)がある人は、声を手掛かりに会話の相手が誰であるかを区別します。ただし、このような場合でも営業職など対人対応が多い職種では困難が予想され、何らかの手立てが必要となると考えられます。職業生活のどのような場面で困るかについて本人の話をよく聴き、状況に応じた対応をすることが望まれます。⑵ 認知機能障害と心理的反応の両方が関係する  状態像① 社会的行動障害社会的行動障害は、対人場面において特に影響がある特徴や行動の総称と捉えられます。例えば、怒りっぽい、自己中心的な行動をする、周囲に依存的であるなどの特徴があれば職場で問題となりやすいと考えられます。人の性格は元来多様であり、対人的な行動は前後の状況や相手の反応にも影響されるものであるため、どこまでがその人の元々の個性で、どこからが障害なのか明確に区別することはできません。しかし、脳損傷を境に明らかな行動パターンの変化があり、そのことで本人または周囲が困りごとを抱えているとすれば、高次脳機能障害の症状、あるいは症状が関連する行動の変化と捉えて対応策を考えると良いでしょう。対応策を考える上では、問題となる行動が起こりやすい背景や条件について、本人から話を聴いたり観察をしたりして把握することが重要です。怒りっぽさの背景には何らかのストレスがあるかも知れません。例えば、記憶障害がある人にとって、覚えていない事柄を何度も質問されることや、忘れたことによる失敗を周囲から責められることは非常につらいものです。また、注意障害のある人が職務に集中しようと努めているときに、周囲が騒がしいことはイライラにつながりやすいと考えられます。自己中心的(に見える)行動の背景には、他者の考えを推測する力が低下していることや、その状況に関連する重要な情報を忘れていることがあるかも知れません。依存的(に見える)行動は、自分でも予期しない失敗を繰り返してきたことに起因する不安の現れであるかも知れません。こういった個別の状況に応じて、周囲の関わり方を変えることや環境を整えることで問題が軽減できる場合は少なくないと考えられます。ただし、気分の極端な変調(うつ、興奮)や、自傷・他害などの暴力行為がある場合は、職場内だけで解決しようとせず専門的な医療や支援につなげた方が良いでしょう。社会的行動障害がある人を職場内でフォローする人は、問題解決の方法に行き詰まりを感じたり、心理的な負担を感じたりすることがあるかも知れません。一人で抱えず複数人で協力してサポートすることが望まれます。職場内外の産業保健スタッフや職業リハビリテーション機関を活用することも有効であると考えられます。② 障害に対する本人の受け止め職業的能力についての本人自身の評価と周囲の評価にギャップが見られることはしばしばあります。高次脳機能障害者は、どちらかと言えば、自身の能力を高めに評価する場合が多いようです。このようなギャップが生じる背景として、大きく分けて三つの要因が考えられます6)。第一には、認知機能障害の影響です。自分の行動やその結果を客観的に捉えたり、記憶する力が低下していたりするため、発症・受傷による能力の変化を、自身で正確に把握することが難しくなります。また、「○○が難しかったので、(類似した課題である)△△も難しいだろう」というような類推が苦手になっている場合もあります。第二は、心理的な反応です。自身の障害を直視することは心理的な負担が大きいため、意識的、あるいは無意識的に直視を避けている状態です。特に、発症・受傷から間もない時期においては、心の健康を守るための自然な反応であると言えるでしょう。どのくらいの時間をかけて向き合っていくかには個人差が大きいものと思われます。第三は環境要因です。例えば、退院後の自宅での生活において、家族が先回りして身の回りの世話をしていたりすると、自身の能力変化を実感する機会が少ないかもしれません。また、障害に対する偏見や差別が強い環境であれば、障害をできるだけ伏せておきたい気持ちになるのは当然のことと言えます。自己評価と他者評価のギャップが職場での課題につながっている場合、上述のような点を考慮に入れながら対応を考える必要がありますが、簡単な解決策はな第3章 第8節

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