R3障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト(デジタルブック版)
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192第3章 障害別にみた特徴と雇用上の配慮⑵ 若年性認知症者の雇用の現状65歳未満で発症する若年性認知症は現役世代特有の課題を抱えることがあります。それは、本人や家族の問題であるだけでなく、勤労者や社会人としての役割を果たす上で社会に対する影響が大きいことです。疾患の進行により退職すると経済的問題が生じるだけでなく、居場所がなくなり、社会的な役割が果たせなくなるなど個人の尊厳に関わることにもなります。認知症は進行する疾患であり、治療薬はあるものの根本治療にはいたっておらず、診断されれば、仕事ができなくなると考える人も少なくありません。しかし、一旦退職してしまうと、再就職ができたとしても、同等の収入額を維持することは困難であることから、可能な限り現在の職場で継続して勤務することが望ましいといえます。一方、雇用する企業側の若年性認知症に対する理解や就労継続する上での配慮等については、十分であるとは言い難い状況です。著者らは、愛知県内の産業医に対して行った調査で、57人の若年性認知症の人を把握し、診断方法や診断後の対応等について明らかにし、報告しています3)。また、田谷らは、国内の上場企業上位3,100社を対象に調査を行い、9名の該当者を把握しています4)。しかし、これら以外には、同種の調査の報告はなく、企業における若年性認知症の就労状況は不明な点が多い状況です。そこで、著者らは、平成29年度、全国の従業員500人以上の企業6,733か所に対して、「企業等における障害者(若年性認知症を含む)の就労継続支援に関する調査」を行い、938件(有効回収割合:13.9%)の有効回答を得ました(表1、表2、図2、図3)5)。若年性認知症に関する認識は、「知っていた」と「聞いたことはある」を合わせると96.2%と高く、そのうち、「聞いたことはある」が半数以上でした。業種別では、製造業+卸・小売業で「知っていた」の割合が他の2業種に比べ低く、従業員数別では大きな違いはありませんでした。従業員に「若年性認知症」「若年性認知症の疑い」「軽度認知症障害❶」の人がいる企業は、以前にいた企業が39社(4.2%)、現在いる企業が26社(2.8%)であり、合わせて63社(6.7%)(2社で重複)でした。業種別では、公務が最も多く23社(2社は重複)、次いで製造・卸・小売業15社でした。従業員別では2,000人以上の企業が最も多く、31社(2社重複)でした。③ 原因となる疾患前2回の調査では、原因疾患の中では脳卒中が原因である血管性認知症が最も多いとされましたが、今回の調査では、アルツハイマー型認知症が最多でした(図1)。次いで、血管性認知症、前頭側頭型認知症、外傷による認知症、レビー小体型認知症/パーキンソン病による認知症となりました。アルツハイマー型認知症と血管性認知症の順位が入れ替わった要因としてはいくつか考えられますが、1)脳血管障害に対する予防啓発が進んだこと、2)アルツハイマー型認知症をはじめとする神経変性疾患による認知症の診断精度が向上したことなどが挙げられます。さらに、脳血管障害に基づく若年者の認知機能障害を認知症としてではなく、高次脳機能障害として取り扱い、そのための制度やサービスにつなげる傾向にあることも影響しているかもしれません。④ 老年期認知症との違い若年性認知症は、65歳以上で発症する老年期認知症と、医学的にはほぼ同じですが、いくつかの特徴がみられます。すなわち、1)発症年齢が若い、2)男性に多い、3)異常であることには気がつくが、認知症と思わず受診が遅れる、4)初発症状が認知症に特有でなく、診断しにくい、5)経過が急速である、6)認知症の行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)が目立つと考えられている、7)経済的な問題が大きい、8)主介護者が配偶者である場合が多い、9)親の介護などと重なり、重複介護となることがある、10)子供の教育・結婚など家庭内での課題が多いことです。図1 若年性認知症の原因疾患の内訳その他12.6%レビー小体型認知症/パーキンソン病による認知症 4.1%外傷による認知症4.2%前頭側頭型認知症9.4%血管性認知症17.1%アルツハイマー型認知症52.6%第3章 第8節

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