R3障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト(デジタルブック版)
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19第2節 障害のとらえ方⑴ ニーズのとらえ方最初に述べた「働くことの二面性」は、「ニーズ」の違いを示しています。つまり、ニーズは個人の側ばかりでなく、組織や集団それ自体にもあります。集団のニーズは、家族、職場、学校あるいは地域社会などの様々な社会集団そのものが、その存続のために集団を構成する個々人に働きかけます。個人はそれに応えることで、集団の中に自己の位置を確立して様々な満足感を得ます。しかしながら、集団のニーズは、時には障害のある人の社会参加を排除するということにもなりかねません。それゆえ、個人のニーズを集団がどのように満たすかという視点のほうが重要です。個人のニーズはいろいろな視点から見ることができます。先ほどの障害分類で示した、「機能や構造の変調」「活動の制限」「参加の制約」のそれぞれの側面に応じてニーズをとらえることもできます。ここでは、マスロー(Maslow)の「欲求の階層構造」をもとに考えてみます。これは、次の五段階から構成されています。① 生理的欲求:生命を維持するための基本的な欲求とされます。いわゆる、衣・食・住そして性に対する欲求です。② 安全欲求:自分の身に危険が及ぶこと、あるいは、生理的な欲求が邪魔されることなどから逃れたい欲求です。また、直面している様々な現実に対して自分を守ったり、将来を心配することも含まれます。③ 連帯欲求:様々な社会集団に所属して、その集団に受け入れてもらいたいという欲求です。他の人たちと意味のある人間的な関係を保ちたいという願いでもあります。④ 自尊欲求:他の人に自分の価値を認めてもらいたいという欲求です。様々な集団の中にあって、他の人から認められて尊敬を受けたいという願いであり、自分自身に対して高い自己評価をして自負心を満足させたいという欲求でもあります。⑤ 自己実現欲求:自分の可能性をできるだけ伸ばしたいという欲求です。自分が「こうありたい」と思う方向に努力して、それを実現したいという願いでもあります。3ニーズと障害の受容これらのキーワードのそれぞれに対応して個人のニーズを分析すると、より的確にその全体像をとらえることができるでしょう。例えば、働いている知的障害の人の場合には、次のとおりです。まず、衣食住に対する「生理的欲求」は、自分でそれらを手に入れたいという願いです。したがって、自分のお給料で好きな物を買うことの喜びにつながります。「働いて、お給料を稼いで、それで好きな物を買う」といった一連の流れを自分で経験することで、働くことの意味も十分に理解することになります。また、知的障害があるから「安全の欲求」がないとは考えられません。「連帯欲求」や「自尊欲求」もそうです。一般に、知的障害が軽度の人のほうが、職場の定着率が低いといわれます。いろいろな原因があるとしても、その一つに、自分では仕事を一人前にしていると自負していても、職場の上司や同僚がそれを認めなかったり、仲間として受け入れてくれないことに対する不満が原因となっている場合もあります。「自己実現欲求」は、自分の将来像を実現したいという希望であり、その中身が問題になるのではありません。したがって、喫茶店のホール係として働いている知的障害の人が、やがてはレジ係になりたいと思うのも、立派な自己実現への欲求です。⑵ 中途障害と障害の受容人生の中途で病気や事故などで障害者となった人は、それまでの発達の過程で獲得されてきた、個性や対人関係や課題遂行などの「特性や技能」、身体感覚や価値観や自己有用感などの「自己イメージ」、職業的な面を含む人生の様々な「目標」などが破壊されることになります。受障は、直接的には「特性と技能」の低下を招き、それが「自己イメージ」や「目標」の変更を余儀なくします。ですから、中途障害から回復する過程では、①受障で無力化した特性と技能を「復旧」したり「置換」し、②自己イメージを「再統合化」し、③達成困難となった目標を「再組織化」するとともに、④実際の物理的及び社会的な環境を「再構造化」することが必要です。特に、「自己イメージ」の回復が高いほど、より深刻な「特性と技能」の損失に耐えて人生の「目標」を立て直すことができるでしょう。その再統合化の過程第1章 第2節

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