令和4年度障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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108かせるということにつながると考えられます。なお、この「繰り返し」はやりすぎると、かえって話を聞いていない印象を与えることにつながってしまうことや、また相手の発言のどの部分を繰り返すのか(なるべく相手が重要だと感じていると思われることのほうがよい)について留意する必要があります。「要約」は「繰り返し」と似ている機能がありますが、「繰り返し」がクライエントの発言の一部をそのまま繰り返すのに対し、「要約」は相談員が聴いたことを相談員なりにまとめて確認をするという点が異なります。この「要約」も、クライエントの話を整理し、クライエント自身に話について再認識してもらうこと、また相談員が理解したことについて確認し、次の話に進めていく、という役割があります。相談を求める人の中には、問題が複雑に絡み合い、混乱している場合もあります。相談員が相談中、要所要所で要約をすることで、解決には至らないものの、少し頭の中が整理されるというクライエントもいることでしょう。③ 開かれた質問、閉ざされた質問クライエントの話をさらに探る必要があり、質問をする必要がある場合もあるでしょう。質問には「開かれた質問」と「閉ざされた質問」とがあります。一般的には、開かれた質問の方がクライエントにとっては自由に話すことができるため、多めに使用した方がよい、とされています。ただし知的障害や精神障害のある人にとっては、開かれた質問ばかりではどう答えたらいいのか分からなくなり困惑したり、混乱したりすることも少なからずあると思われます。もちろん、閉ざされた質問ばかりでも、「取り調べ」や誘導尋問のようになってしまうこともあるので、望ましくはありません。クライエントの認知的な能力や、話の内容などを勘案しながら、開かれた質問と閉ざされた質問とのバランスを取っていくことが必要でしょう。なお、開かれた質問のうち、特に「なぜ~?」とある行為などの理由を相談員がクライエントに聞きたくなることもあるでしょう。この「なぜ」の質問もあまりに多用するのは望ましくないとされています。クライエントに限らず一般的に人は、自分の行動の理由を全てわかっているわけではありません。また、「なぜ〇○した(○○しなかった)?」という問いかけを多くしてしまうと、「責められている」と感じることもあります。「なぜ」の質問は使ってはいけないということではないのですが、その使用方法には留意が必要です。④ 感情の反映相談場面でのクライエントの発言の中には、不安、怒り、悲しみなどのネガティブな感情的な要素が含まれていることが多いです。また、単純に一つの感情だけではなく、関心がある反面不安もあるといった、複数の感情が含まれていることも少なくありません。このようなクライエントの感情について相談員が確認しフィードバックしていくことは重要です。相談を進めようとすると、その内容・事実の確認に相談員は焦点を当てがちです。相談内容の確認も確かに重要なのですが、最終的にはクライエントの意思を探り、決定していくことが重要です。感情の反映をすることは、共感をすることになりますので信頼関係の構築が促進されます。また、その感情が言語化されることで、クライエントの感情が外在化され、自分の感情を客観的に捉えることにつながります。例えば、モヤモヤした気持ちが「悲しんでいる」「怒り」というネーミングを与えられることで明確化され、クライエントから再認識されることになります。さらに、その感情に関連する思考などを掘り下げることにもつながり、自己理解を進めることにもつながります。以上のことから、相談の内容・事実確認だけにとらわれず、感情にも十分に焦点を当てて、クライエントの感じ方・見方を尊重した相談を行っていくとよいでしょう。⑤ その他の相談技術ここまで紹介した技術は基本的なものであり、これ以外にも様々な技術があります。ここでは、「解決志向アプローチ」というカウンセリングの一派で用いられる技術の一部を紹介します。いずれも、問題の解決に向けて、クライエントのモチベーションを高めること等を目的としています。・…スケーリングクエスチョン(これまでの経験内容や今後の見通しなどについて数値に置き換え評価してもらう質問。例:「最高の時を10点、最低の時を0点としたら、今は何点くらいでしょうか?」→「3点くらいです」→「0点ではないんですね。よくないけれど3点ではあるという理由は?」「もう1点上げるにはどうなるといいのでしょうか?」)・…例外探し(クライエントにとっての「例外」を引き出す質問。例:「そのような問題が起きていない時というのはどんな時でしたか?」)・…コーピング・クエスチョン(今までの困難な状況

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