令和4年度障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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128の人の予定が分かっていれば、電話の取次ぎも行えますし、話しかけるタイミングをはかったりすることができます。重度視覚障害者の場合、周囲の状況の把握がうまくいかず、どのタイミングで話しかけてよいのかわからずに、知らず知らずのうちにコミュニケーション不足に陥ってしまうことがあります。社内での情報伝達と、普段からの会話によるコミュニケーションが重要になります。視覚障害者に物や場所を指し示す場合には、「ここ」、「そこ」あるいは「これ」、「あれ」といった指示代名詞ではなく、具体的に何がどこにあるかを伝えます。また、食器の配置を示すのに、「時計の何時の方向にある」という説明のしかたもあります。1990年代以降のIT(情報技術)の進展と普及により社会は大きく変化し、就労環境も大きく変わりました。視覚障害者の職種と職務内容もその影響を大きく受けています。従来、重度視覚障害者の職種の一つであった電話交換手は、ダイアルインサービスの普及により雇用の場が狭くなってきています。従来、全盲者の職種の一つであったコンピュータプログラマーについても、コンピュータの利用環境が、キーボードによりテキストを主体に扱うCUI(キャラクター・ユーザ・インタフェース)から、マウスにより画面上のオブジェクトを操作するGUI(グラフィカル・ユーザ・インタフェース)に変わり、視覚的な処理の比重が大きくなったため全盲者がコンピュータプログラマーとして活躍できる場が狭くなっています。一方、インターネットの普及に伴いホームページの利用が進み、Webアクセシビリティの診断という職種が全盲者の職種の一つとして広がり始めています。ここでは、Webアクセシビリティ診断、事務的職種、ヘルスキーパーの職場と職務内容について述べていきます。① Webアクセシビリティ診断インターネットが普及し、多くの人がWeb(ホームページ)を利用するようになりました。今や仕事の上でも日常生活の上でもWebの利用は欠かせないといえます。Webが一般に普及するに伴い、障害者を含めすべての人がWebを利用できるようにする取り組みとしてWebアクセシビリティの概念が提唱され、そのための規格が整備されてきました。わが国においても、2004年6月にWebアクセシビリティがJISの規格として制定されています。Webアクセシビリティとは、高齢者や障害者がWebのコンテンツ(ホームページの内容)にアクセスし、そこから情報を取得し、操作することができることをいいますが、実際には高齢者・障害者が情報取得しづらい、操作しにくいというページも少なくありません。このようなWebページに対して、Webアクセシビリティの達成度を診断し、その結果、WebアクセシビリティのJIS規格を満たすWebページに作り替えるのが、Webアクセシビリティ診断の職務となります。JIS規格には強制力はありませんが、工業標準化法により国や地方公共団体はJIS規格を尊重しなければならないと定められているので、府省や自治体がウェブサイトを外部から調達する際にはWebアクセシビリティのJIS規格に対応している必要があります。このことによりWebアクセシビリティの診断とそれに基づくWebページの修正という業務が形成されました。現在では、このJIS規格への対応が一般企業にも広がってきています。Webアクセシビリティの診断業務は、JIS規格等の取り決めが守られているかを診断し、その結果に基づきWebページに改良を施すという手続きをとります。診断プログラムにより自動で処理できる部分はありますが、どうしても人間が確認しなければならない箇所もあります。特に、スクリーンリーダーへの対応としてJIS規格で制定されている項目についての診断は、スクリーンリーダーに精通している全盲者が適しています。このような職務を遂行するにあたっては、Webアクセシビリティに関する知識を持つことは当然として、その他に、Webページの記述言語であるHTMLや動的なWebページの構築に用いる言語であるJavaScriptなどWeb関係の言語の習得が必要となります。Webアクセシビリティの診断業務における全盲者の就労はまだ広がり始めた段階ですが、ITのさらなる進展や高齢化により、これからの成長が期待されます。② 事務的職種オフィスのIT化が進んだ現在では事務的職種においてもPCの利用は必須です。ワープロソフトや電子メール、インターネットの利用はもちろんのこと、Excelなどの表計算ソフトやPowerPointなどのプレゼンテーション用ソフトも業務の上で利用する⑶ 職場と職務内容

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