令和4年度障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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4聴覚障害者の職業適性136て大切な要素です。逆光であると、手話や読話が難しくなります。相手と顔を見合わせることが必要で、例えば、朝礼や研修の際、話し手が下を向いたり、黒板で字を書きながら話したりすると、聴覚障害者の視野からはずれてしまい、その瞬間、コミュニケーションが成立しなくなります。同時に、手話や相手の唇を読み取り続ける聴覚障害者の負担も相当なものです。適宜、休憩を入れるなど長い間、聴覚障害者は木工、機械、印刷、理容、縫製などの職種に多く従事していました。特別支援学校(ろう学校)の高等部のコースを見てもこれらの職業に就くための訓練をしているところが少なくありませんでした。しかし、これらの職種が特に聴覚障害者に合っているということではなく、コミュニケーションをさほど必要とせず、手に技術をつけるといった観点からの結果といえましょう。よって聴覚障害ゆえに作業遂行上不可能な職種はほとんどないということができます。障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく障害者雇用の歩みを見ても、雇用義務化が導入された1976年の改正以降、聴覚障害者については大企業を中心に雇用が進んできました。特に、通勤手段の確保、トイレの改造、エレベータの設置などの配慮が必要ないことから、雇用の機会はほかの障害者に比べると多くなっているといえます。例えば特別支援学校(高等部)卒業者(2019年3月)の就職率を状況別に見ると、聴覚障害(49.0%)、知的障害(34.9%)、視覚障害(13.4%)、病弱・身体虚弱(18.1%)、肢体不自由(5.9%)と、聴覚障害が他の障害よりも高くなっています(「学校基本調査(文部科学省)(令和元年度)」)。一方、聴覚障害者の雇用が進むに従い、障害についての理解やコミュニケーションの困難さからくる職場の人間関係の問題や、教育訓練の問題が生じてきています。それは、また聴覚障害者が職場において昇進・昇格の機会に恵まれないことや、新技術が職場に導入されたときに研修を受ける機会が少ないといった問題にもつながっています。さらに、産業構造の変化に伴い聴覚障害者も事務職やサービス産業部門に就職先を求めていく必要が生じ、これまで以上に情報集約的な仕事への移行が進んの配慮が必要です。さらに、内容の確認方法の工夫も大切で、「わかりました」とうなずいたからといって本当にわかったかどうか、違う方向から確認します。例えば、確認のために復唱してもらうとか、実物や絵で確認してみるという方法が考えられます。相手の表情を見て話が正しく通じているのかどうかも確認していく必要があります。でいきます。逆説的ですが情報を獲得することに障害のある聴覚障害者が、ますますコミュニケーションや情報収集の必要な仕事に従事していかなければならないという場面が多く発生しています。最近では、特別支援学校(ろう学校)を卒業したあと、大学に進学したり、特定の職業技術よりも一般の学習を進めていくコースを希望したりする聴覚障害者も増えてきました。コンピュータの発達・普及なども事務系の職種を希望する聴覚障害者の増加に拍車をかけています。このように、聴覚障害者の雇用は、社会的な条件の変化により、その内容を大きく変容させられているといえます。その中で、一般的な職業特性をまとめてみることにします。身体運動機能について障害の影響はほとんどありません。健康管理や体力の点でも雇用上の問題になることは一般的にはありません。作業現場において危険を知らせるパトライトの設置や非常時の退避手段の確保などを除けば、作業を進めるうえでの特別な設備改善などもあまり必要としません。作業面でも、聴覚障害に起因して遂行できないものは、ほとんどないといっても過言ではありません。しかしながら、音声言語としての日本語を扱うとなると、文章の読み書きなどが苦手な場合も多く、そのために実際よりも学力面で過小評価されてしまうことがあります。動作的な能力は高いのに、言語的な能力は試験などでは十分に評価されないことがあり、多面的に能力を評価していく必要があります。面接などでも表現や言葉の使用方法などだけで評価してしまうと、その聴覚障害者のもつ本来の力を見落としてしまうこ⑴ 身体面での特徴⑵ 作業面での特徴

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