令和4年度障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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6コミュニケーションあふれる豊かな職場を第3節 聴覚・言語障害者(朝日 雅也)139度合いが高まります。② 要約筆記聴覚障害者においては、必ずしも手話を使用する人ばかりではありませんので、要約筆記が用いられることも多くなっています。基本的には音声情報を即時に文字情報に要約して提示する方法です。従来、講演会等では、話しの内容を要約しながら、同時に透明のOHPシート等に書き込んでいき、オーバーヘッドプロジェクタによってスクリーン等に提示する方法が用いられてきましたが、近年では、パーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という。)をプロジェクタに接続し、音声情報をテキスト変換して映し出す方法、すなわちパソコン要約筆記が主流になっています。入力には通常のワードプロセッサのみならず、専用のソフトウエアの利用によって入力速度の向上が図られています。入力にあたっては、パソコンならではの単語登録機能を活用して、講演やプレゼンテーションの内容等に合わせた作業効率のアップが期待でき、従来の手書きによる要約筆記に比べて情報提供量が確保できるのも特徴です。入力にあたっては、複数のパソコン要約筆記者が分担して1文を完成させる方法等が取り入れられています。③ ノートテイク少人数の会合や、手話通訳、要約筆記などの手段が取れないときに、聴覚障害者の横で、音声情報の要旨をメモする方法です。場所を選ばすに利用できることも利点の一つです。すべてを手書きでメモするのには限界がありますので、内容を要領よくまとめるかがポイントになります。ノートやホワイトボードに手書きする代わりに、パソコンに入力をして、聴覚障害者が画面を見るという方法もよく行われています。前出のパソコン要約筆記と同様、事業所内で頻繁に用いられ聴覚障害者のコミュニケーションや情報の保障を考えるうえで大切なことは障害のある人、ない人のどちらか一方のみに無理や負担を強いないということです。最近では、聞こえない人が音声言語の世界に無理に自分を合わせるのではなく、聞こえない人たち自身の音声言語によらない豊かな文化を見直していこうという動きも活発化しています。聞こえることを前提に形成されてきた職場では、直ちに受け入れられにくいかもしれませんが、このような考え方は、コミュニる用語や固有名詞等を登録しておけば、入力速度が向上し、その負担も軽減されます。④ ICT(情報通信技術)の活用FAXの普及によって聴覚障害者の連絡、特に緊急時の連絡手段が確保されたように、電子情報機器やデジタル機器の普及は、聴覚障害者のコミュニケーションや情報獲得に大きな影響を与えています。職場では、電子メールを利用してのコミュニケーションや情報交換が次第に普及してきており、電話を使用できないが、音声言語としての日本語を十分に使いこなせる聴覚障害者にとっては有効な手段となっています。携帯電話についても文字情報のやりとりによって出先の聴覚障害者との連絡が可能になっています。欠勤などの突発的な連絡などの場合にも、携帯電話のメールやSNSを利用することで対応が可能になっています。加えてタブレット端末やスマートフォンの普及により、聴覚障害者と健聴者との会話をサポートするアプリの活用も有効な手立てのひとつです。また、社内での情報交換にメールを活用する例も多く見受けられます。重要な連絡事項や情報については、事前に配信しておくことで、会議などの場での情報保障を進めている事業所も少なくありません。このように、先端技術の進展には大きな期待が寄せられますが、その利用方法の学習機会などが保障されないと聴覚障害者は恩恵が得られないことはいうまでもありません。さらにこれらの情報保障の手段に加え、偏った情報のみが提供されるのを防ぎ、聴覚障害者の内面的な問題や悩みに応えることのできる場として、職場の手話サークルや職場定着のための組織化が効果的と思われます。ケーションの基本を見つめ直すうえで多くの示唆を与えてくれます。人と人のコミュニケーションが不足しがちといわれる現代社会。聴覚障害のある人に配慮した職場は、だれにとってもコミュニケーション豊かで、情報が行き交う働きやすい職場であるといえるのではないでしょうか。

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