令和4年度障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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⑴ HIVの基礎知識8ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害第4節 内部障害者149ヒト免疫不全ウイルス(HIV:…Human…Immunodefi-ciency…Virus)は免疫機能を担う白血球を破壊しながら数年~10数年をかけて増殖し、重篤な免疫不全の原因となります。しかし、1980年代の治療法のなかった時代や、現在でも発展途上国等で治療を受けられない状況とは異なり、わが国では1990年代後半以降、治療法の進歩により感染者でのHIVの増殖を抑えることができるようになり、服薬や通院を続けることで職業生活が可能な人が多くなっています。現在では血液中にHIVを検出できない程度に抑える治療も一般的になり、その場合、感染の危険性もほとんどなくなっています。その一方で、病気への誤解や偏見への心配から、職場に配慮等を申し出にくく、心理的なストレスを抱えている人が多いことも明らかになっています。平成10年からは内部障害に追加され、医療費の自己負担が軽減されるとともに、障害者雇用率制度の対象にもなっています。病気についての正しい理解に基づき、安定した職業生活を送れるような支援が求められます。HIVはウイルスですが、インフルエンザ、風邪、下痢等のウイルスとは異なり、普通に生活している同居者にも感染しない非常に感染力が弱いウイルスです。HIVは感染者の血液、精液、膣分泌液、母乳に含まれますが、空気中や水中では死滅してしまうため、直接傷口や粘膜に接触しないと感染しません。また、少し触れただけでは感染しません。また、服薬を継続しているHIV陽性者(発症の有無にかかわらずHIV抗体検査が陽性であった人として、このように呼びます。)の血液や体液中のHIV量は検査で検出できる限界未満となっている場合が多く、その場合、感染の危険性はないとされています。HIV感染についての不合理な「万が一」の心配は、結果として、HIV陽性者の雇用差別につながります。主な感染経路は、「性的感染」、「血液感染」、「母子感染」となっています。コップの回し飲み、握手、涙・汗、キス、同じ鍋をつつく、風呂やプール、トイレ、せき、くしゃみ、シーツの共有等で感染することはありません。血液感染といっても蚊やダニを介してHIVが感染することはありません。通常の職業生活では、HIVが他人に感染することはなく、食品の取り扱い、美容師やマッサージ師など顧客に接触する仕事でも制約はありません。職場の出血事故で直接傷と傷が接触するという稀な事態にも、後述の出血事故への適切な対処によって、感染の可能性を限りなく少なくすることができます。社員寮等の共同生活でも、衛生管理(カミソリ・歯ブラシ等の血液がつきやすいものを共用しない等)や一般的な安全・健康指導で十分です。免疫機能とは一種の「防衛体力」です。空気中、食べ物、様々な物には、細菌、カビ、ウイルス等が多く存在しますが、人々が何の問題もなく生活できるのは、免疫機能がこれらの異物を排除しているからです。HIVは、ヒトの免疫機能の中枢であるヘルパーT細胞(血液中やリンパ節にある白血球の一種)に入り込み、その内部で増殖を続け、これを破壊します。免疫機能の低下は、ヘルパーT細胞の数(「CD4数」と呼ばれる)の検査の他、日和見感染症(通常の免疫力があれば問題を起こさない非常に弱い病原体による感染症)の発症によっても分かります。エイズ(AIDS)とは、HIV感染による重度の免疫不全症候群のことを言い、後天性免疫不全症候群(Acquired…Immunodeficiency…Syndrome)の略です。通常の免疫力があれば発症することはない特定の疾患が確認された時点でエイズと診断されます。現在、わが国では、エイズが発症した場合でも1~2ヶ月の入院後、多くの場合、適切な治療を行うことで職場復帰が可能な例が多くなっています。治療を継続することで、免疫機能は障害のない人と変わらないレベルまで回復し、血液中のHIVも検出できない程度に低下している人も多くなってきました。免疫機能障害は、エイズ発症の有無や、血液検査のデータを含む12の指標項目を総合的に判断して認定され、おおまかに1~2級がエイズ発症、3~4級がエイズ発症前の免疫機能低下のレベルに相当します。前述のように、適切な治療により免疫機能は回復しますが、現在HIVを完全に消失させる治療方法はないた⑵ HIVによる免疫機能の低下⑶ HIV感染症の治療と障害認定

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