令和4年度障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
151/360

150め、治療を中断するとHIVは再増殖し、免疫機能は低下してしまいます。このため、服薬によって免疫機能が回復している人も障害認定は継続しています。実際の免疫機能低下の程度については、エイズの診断や障害等級ではなく、免疫機能の検査値等での個別の確認が必要です。抗HIV薬は複数の錠剤を組み合わせて、各人の免疫状態やライフスタイルに合ったものが選択されます。かつては複数の錠剤を仕事中にも服薬する必要があるなど負担が大きかったのですが、最近では服薬回数が一日に1回~2回と、仕事中の服薬の必要がなくなってきています。また、HIV陽性者自身の健康管理も取り組まれています。通院は、特に体調に問題がない場合でも、予防的な意義もあり、月1回から数ヶ月に1回、定期的に必要です。職場において、同僚の科学的に根拠のない恐怖や誤解、偏見による差別や混乱が生じることを防止するために、本人とのコミュニケーションや、情報管理、啓発に慎重な対応が必要です。また、疾患管理と職業生活の両立の支援、衛生管理や出血事故対処の一般手順に留意します。① 病気についての情報収集既述のように、HIVによる免疫機能障害あるいはHIV感染それ自体では、通常、職務遂行のための適性と能力に直接関係しません。労働安全衛生法上の「病者の就業禁止」にはあたりませんし、HIV感染それ自体は解雇の理由に該当しません。HIV感染を本人から告げられた場合に、それで過剰反応を起こすことなく、あくまで本人の適性と能力に焦点をあわせ、病気により不利な扱いをしてはいけません。そのことを明確に本人に示すことで、本人の安心にもつながります。また、HIV感染のことを明示することを望まない人もいることから、一般的に採用選考時等に、HIV感染についての情報の収集は行うべきではありません。健康診断も、HIV抗体検査証明が必要な国での勤務といった、合理的・客観的な理由がある場合等を除いて、HIV感染の検査は行わないことが原則であり、また、検査を行う場合には内容と理由を本人⑷ 服薬・通院について⑸ 雇用上の注意点(合理的配慮を含む)に事前に周知すべきです。② 情報の取り扱いHIV感染については、本人の意思を確認し、情報がむやみに拡大しないように関係者の秘密保持を徹底します。健康管理に関する情報は、産業医等必要最小限の担当者にとどめ、関係者の守秘義務を徹底します。上司等による定期的通院への配慮等については「持病」、「内部障害」とだけ伝え、プライバシーや人権を最大限尊重します。また、後述の衛生管理や出血事故対策は一般的な手順であるため、職場全体にHIV陽性者がいることを伝える必要はありません。その他、人事や産業医、健康保険を扱う部署などからの情報漏洩を不安に思うHIV陽性者が多いことから、これには法的な処罰規定があることを再確認し、情報管理を適正に行えるよう関係者の認識を高めておく必要があります。③ 正しい知識の啓発HIV感染については誤解や偏見が根強いことから、もし上司や同僚に病名を開示する必要があるならば、一般の健康をテーマにした研修等で、HIV感染についての正しい知識を職場に啓発しておくなどの配慮が必要です。開示しない場合でも、できれば一般の健康教育の一環としてHIV感染症の現状についての啓発をしておくことが望まれます。事前の啓発が行われず、パニック等の過剰反応が起こった場合でも、HIV感染症についての専門家を招いての説明会や質疑応答で沈静化できた例があります。HIV感染症の治療の状況は近年大きく進歩しているため、最新の情報に基づく啓発が重要です。④ 疾患管理と職業生活の両立の支援服薬や定期的通院がなされていれば、HIV陽性であること自体が仕事上で問題となることはほとんどありません。HIV陽性者の職場での健康管理や安全配慮に必要なことは、産業医等の専門の担当者が相談や支援にあたることが、情報管理上からも適切です。一方、「病気がありながら働くこと」への職場の理解について、本人の不安が大きいことから、仕事の進め方について上司等が相談に乗る、職場の同僚との親睦等で人間関係を向上させるといった一般的な職場の取り組みが重要です。また、一般的に、少し疲れた時に休憩でリフレッシュしやすくすることは、HIV陽性者が仕事を安心して続けやすくするの

元のページ  ../index.html#151

このブックを見る