令和4年度障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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4知的障害者雇用の課題と取り組み第5節 知的障害者157本的なマナーや金銭管理、健康管理などの基本的労働習慣を身につける必要があります。職場内ではこうした生活面の指導は障害者職業生活相談員をはじめとした企業内のキーパーソンが中心となりますが、必要に応じて外部の職場適応援助者(ジョブコーチ)の活用の検討も必要となります。また、遅刻や無断欠勤、体調不良等の本人の変化を早期に察知し対応するためにも、家庭との連絡を密にすることが長期の継続雇用に不可欠です。「障害者の就業状況等に関する調査研究」(2017)によると、一般企業における知的障害者の職場定着率は、3か月の時点では85.3%で、1年の時点では68.0%と大きく低下しています。3か月未満で離職した知的障害者の具体的な離職理由として、「業務遂行上の課題あり」(21.9%)が最も多く、「労働条件があわない」(15.1%)、「人間関係の悪化」(9.6%)、「障害・病気のため」(8.2%)と続いています。また、3か月以降1年未満の具体的な離職理由として、「人間関係の悪化」(16.3%)が最も多く、「障害・病気のため」(12.8%)、「基本的労働習慣に課題あり」(10.5%)、「業務遂行上の課題あり」(9.3%)となっています。全体的に離職の理由として「業務遂行上の課題あり」、「人間関係の悪化」の割合が高いことがわかります。こうした離職理由の課題に対応するためには、企業独自の取り組みだけでは十分な対応が難しく、問題が大きくなる前の早い段階で地域の就労支援機関との連携・協力が不可欠です。地域障害者職業センターでは、離職の主な理由となっている作業遂行力、人間関係をはじめとした基本的な労働習慣等の向上を目指した職業準備支援を行っています。さらに、企業に職場適応援助者(ジョブコーチ)を派遣し、職場内で発生する様々な課題に対して支援を行っています。また、障害者就業・生活支援センターでは、日中の就業面の支援とあわせて、生活面における支援を、地域の関係機関と連携しながら行っています。こうした支援サービスを効果的に活用したいものです。⑴ 企業における課題⑵ 定着支援の強化と就労支援機関との連携このように採用前の段階で障害者の適性や能力をじっくりと見極め、企業側と障害者側がともに納得した上での雇用が、その後の安定した雇用継続の大きなポイントとなります。④ 生活面の配慮と家庭との連携知的障害者の場合、職場における指示理解や職務の遂行能力は比較的高くても、身辺処理や社会生活面が未熟なことがあります。就労を継続していくためには、挨拶、返事、報告などの社会人としての基大企業の障害者雇用においては、特例子会社制度の活用を中心に知的障害者の雇用を伸ばし成果を上げてきました。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の「多様化する特例子会社の経営・雇用管理の現状及び課題の把握・分析に関する調査」(2012)から、知的障害者を多く雇用する特例子会社の課題としては、「職域の拡大」、「作業能力の向上」、「本人の健康状態」等があげられています。今後は、さらなる障害者法定雇用率の引き上げに伴う障害者雇用の促進とあわせて、上記の課題の解決が必要となります。加えて、雇用管理や能力開発面の支援が整備され、柔軟な勤務体制が可能である等、大企業ならではのメリットを活用しながら、障害者の働く「質」の向上を目指していく取組みが求められます。また、中小企業については、大企業に比べて障害者雇用率が低調であることから、知的障害者雇用を進めるためには、実習制度や職場適応援助者(ジョブコーチ)など地域の就労支援機関との連携・協力を最大限活用することが必要と思われます。採用までの意思決定や受け入れ態勢の整備など、大企業とは異なるきめ細かな小回りが利くメリットを活かして、それぞれの企業にあった人材の採用を積極的に進めていくことが期待されます。前述のとおり、近年知的障害者だけではなく、障害者全体の雇用者数が大企業を中心に年々増加しています。反面、採用後に短期間で離職する障害者も多く存在し、その対策が課題となっています。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の

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