令和4年度障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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5就労支援利用状況からみた事例(広汎性発達障害・自閉症スペクトラム障害を中心に)第7節 発達障害者177〈注〉 障害者手帳を所持していない発達障害や難病のある人をハローワーク等の紹介で雇用する事業主に対し、特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)が支給されます。支給要件等詳細はハローワークにお尋ねください。下記の事例では、いずれも旧基準による診断名が示されています。現在、診断名は「自閉症スペクトラム障害」に統合する方向が示されていますが、一方で、就職の際の支援制度の利用の仕方や職務の選び方、事短大卒40代Aさん(自閉症(アスペルガータイプ/知的に遅れを伴わないタイプ)・診断5歳・障害開示)短大卒業にあたり両親が学歴にこだわらず対人関係の少ない「モノ相手の仕事」を探すことを勧め、障害を開示したうえで、縫製工場で採用となった。入社当初、社員らは自閉症への対応がわからず接し方に悩んだが、熱心で専門的知識のある両親(母親が特別支援学級の教師)と頻繁に連絡を取ることで関わり方や指導方法を探索した。6年のOJTを経て社員らも関わり方のコツを共有し、Aさんも作業に慣れたことでベテランとして勤続30年に至っている。高卒30代Bさん(高機能自閉症・診断5歳・障害非開示)経済的な自立に関心の高いBさんは高校卒業後、親の強い勧めもあり対人関係の少ない工場を選んだ。ところが、Bさん自身は障害を受け容れておらず、あくまで一般扱いでの職であった。会社都合で離職の後、親から勧められた地域障害者職業センターの職業準備支援を利用することになった。障害者対象の支援であることに戸惑いながらも職場のルールやマナーの学習等は再就職後、役立っていることを感じたという。再就職の活動は本人の強い希望で一般扱い(障害非開示)で行われ、食品工場の在庫管理として採用となった。企業による障害に対する合理的配慮はないものの職業準備支援で得た学びが対人関係のトラブルを回避する基礎となっている。大卒40代Cさん(高機能広汎性発達障害・診断38歳・精神障害者保健福祉手帳を利用) 就職活動で大卒後の仕事を決めたが、人の視線が気になったり仕事を覚えられないなどで不安が昂じて離職に至った。正社員として再就職するもうまくいかず20社以上の離転職を繰り返した。精神的に不安定になり精神科を受診し、発達障害と診断される。精神科のデイケアを利用しつつ、配送事務・実務の仕事でトライアル雇用を経て再就職、ジョブコーチ支援を活用し、仕事と気持ちのコントロール方法を学び、自信を持つことができた。平日を休業日として通院に充て、土日に働く勤務体制がCさんのニーズと一致している。同僚・上司の理解も進み、特段の配慮はなく安定して仕事をしている。高卒40代Dさん(自閉症(知的に遅れを伴わないタイプ)・診断35歳・療育手帳を利用) 高卒後、就職したものの、カっとなる自分をおさえられず離職に至った。福祉作業所に通うことになったが、作業所ではなく事業所で働きたいという希望を保ち続けていたという。その後、就労支援機関を利用する中で「感情コントロールの方法」を学んだ。診断時に療育手帳を取得して就職を目指すこととし、ジョブコーチや障害者就業・生活支援センターの支援を得て、商品管理の仕事に採用された。20年間の福祉作業所経験が今を支えている(Dさんの居住地では自閉症の診断により知的障害を伴わないケースにも療育手帳を交付している)。特別支援学校卒30代Eさん(自閉症(カナータイプ/知的な遅れを伴うタイプ)・診断2歳・療育手帳を利用)特別支援学校の紹介により、物流倉庫の管理業務で就職した。当初は、経験がない作業に混乱が大きかったが、「職場での動線」を床に貼ったテープで確認することにより作業に慣れた。工程を明確化、単純化することでEさん自身、担当作業を理解でき、次第に慣れて仕事に自信を持てるようになった。さらに、貴重な戦力として評価され、意欲的に仕事をしている。業所への障害開示の有無、特性といった状況は多様です。ここでは、支援の利用について特徴的な4つのタイプを示しました。各個人の選択に応じた対応を検討していくことが重要といえます。…(知名 青子)⑴ 一般扱いの就職をした事例⑵ 障害者雇用で就職をした事例

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