令和4年度障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
188/360

第8節 その他の障害者検討していくことが重要です。① 高次脳機能障害の定義 医療等の領域で高次脳機能障害とは、脳の損傷や機能不全によって生じる認知機能(言語、思考、記憶、行為、学習、注意、判断など)の障害全般を指します。ここには失語症、失認、失行症が含まれ、認知症、発達障害を含む場合もあります。 一方、「行政的」には、それまで福祉サービスの活用ができなかった高次脳機能障害者を支援することを目的に、「高次脳機能障害支援モデル事業」により作成された診断基準に基づく定義があります。その診断基準には「現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である」と記されています。身体障害として認定可能な失語症や、他の枠組みでの支援が推奨された発達障害、認知症等が除外されているところに違いがあります。 このように、高次脳機能障害には医療的な定義と行政的な定義があり、用語が示す範囲に違いがあることから、注意する必要があります。② 高次脳機能障害の原因 高次脳機能障害の原因は様々ですが、代表的なものは、脳血管障害、脳外傷、低酸素脳症脳炎、脳腫瘍などになります。この中でも多いのは、脳血管障害と脳外傷です4)。 脳血管障害は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血であり、中高年齢者に多くみられますが、若年者でもみられる場合があります。脳外傷は、事故や転倒が原因で脳に損傷を受けたものを指します。誰にでも受障の可能性があり、場合によっては、幼いころの事故が原因という場合もあります。③  高次脳機能障害の発症から就職(復職)までの経過 高次脳機能障害の原因である脳血管障害や脳外傷等を発症した際、多くの場合は入院治療や緊急手術を受けます。生命を取り留めた後も、しばらくは意識がぼんやりとして意思疎通が難しく、生活の大半に介助が必要であることが珍しくありません。時間の経過やリハビリテーション治療により、少しずつ心身の機能を取り戻していきます。 このように、治療やリハビリテーションを受け、主治医と相談をしながら就職(復職)を目指します。活用可能な社会資源がある場合には、医療リハビリテーションの後に職業リハビリテーションを受ける場合もあります。リハビリテーションにかける期間は、障害の程度や活用可能な社会資源の内容、復職先の就業規則等の規定、本人の家計の事情等によっても異なります。 なお、リハビリテーションに時間をかけたとしても、脳の損傷がごく軽微であった場合を除き、発症・受傷前の身体機能や認知機能を完全に取り戻すことは難しい現状があります。大半の人は後遺症とつきあいながらその後の社会生活を送っていくことになります。苦手になったことを補いながら職業生活を始める/再開するためには、本人の努力だけではなく、周囲の理解に基づく環境の整備と適切な配慮が必要です。④ 様々な障害特性 高次脳機能障害において比較的多く見られる認知機能の障害特性を以下に示します。いずれも、外見からは分かりにくく、本人自身も自覚しにくい特性のため、本人も周囲も戸惑うことがあります。同時に、職業上の代表的な課題と基本的な対応についても記述します。これらの障害特性は、どれか1つだけが特異的に生じることよりも、いくつか組み合わさって広範に見られることが多くあります。なお、どの障害特性がどの程度生じるのかというのは、脳の損傷部位や受傷の程度、周囲の環境によっても異なるため、一人ひとり違います。本人を通して医療機関や就労支援機関からの情報を得るなどし、理解を深めることが重要です。ア 注意障害 注意障害があると、注意を「続ける」、「適切に向ける」、「切り替える」、「配る」ことに障害が生じます。職業生活上の場面では、集中力が続かずミスが生じる、必要な情報に注意を向けることが苦手で説明のポイントが押さえられない、注意を上手く切り替えることが苦手なため言葉をかけられても気が付かない、注意が次から次に切り替わるため話題が点々としてまとまらない、複数の情報に上手く注意を配ることが苦手なため人の話を聞きながら要点をメモすることができない、などの課題が生じます。 脳機能の障害ですので、「気を付けるように」と注意を促すという対応だけでは上手くいきません。注意力を適切に維持できる環境やスケジュール及び作業内容を見つけ出し調整することや、ミ187

元のページ  ../index.html#188

このブックを見る