令和4年度障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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188スを防ぐ方法を本人に実践してもらうことがカギとなります。例えば、周囲の気になる刺激(騒音、人通りなど)が少ない場所で仕事をしてもらう、休憩をこまめにとれるようスケジュールを設定する、複雑な作業は集中しやすい時間帯(人により異なるが、例えば午前中)に行うようにするなどの環境やスケジュールの設定の工夫で課題が軽減することがあります。作業内容に関しては、同時並行作業を少なくする、他の人のチェックが入る作業を担当してもらうなどの方法があります。また、本人には、チェックリストを活用してもらい手順の抜けを防ぐ、入力した文字は必ず声に出して読んでもらう、逆からも読み上げてもらうなどのミスを防ぐ具体的な確認方法を実践してもらうことが有効です。イ 半側空間無視 左右どちらかの特定の空間方向に対する注意の障害です。多くの場合は、左側のみ注意が向かなくなります。このような場合、本人から向かって右側にある物や情報は認識できても、左側にある物や情報を見落としてしまうという問題が生じます。なお、本人は注意が特定の方向に向けられていないということに気づいていない場合も多いです。 職業生活場面では、作業台の左(右)側にあるものを見逃し忘れてしまう、書類の左(右)側に気が付いておらず読み飛ばしているなどが考えられます。 基本的な対応として、重要な物や情報を、注意が向けられなくなった方向(左あるいは右)と逆の方向(左側の注意障害の場合は右側)に配置するよう工夫することが重要です。手順書や道具は本人から向かって右(左)側に置くなどです。ウ 記憶障害 記憶とは、日々の出来事や情報を「取り込む」→「頭の中で保持する」→「必要な情報を思い出す」という一連の過程を指します。記憶障害とは、脳の損傷によりこの一連の過程が上手く機能しなくなる障害です。すなわち、日々の出来事や情報を「取り込めていない」、「忘れる」、「思い出せない」といった状態が生じます。なお、多くの場合は受障後の出来事や情報を覚えることが苦手になりますが、受障前の出来事や情報を(部分的に)思い出せないという場合もあります。障害の程度は様々で、全く覚えていないという場合もあれば、曖昧ではあるが覚えているという場合もあります。 職業生活場面では、仕事の手順やルールを覚えられない場合があります。指示や説明の内容を記憶することが苦手なため、「何度指示しても同じところを忘れてしまう」、「何度説明しても同じ質問を繰り返してしまう」、「以前依頼したことを忘れている」という例があります。 基本的な対応は、覚えなくてもできるように工夫することです。大きく分けると、高次脳機能障害者本人ができる工夫と、周囲の人ができる工夫があります。 本人ができる工夫として、メモを取ることがあります。しかし、必要なことを自発的にメモが取れるようになるまでには時間がかかることから、何度も周囲から言葉をかけ習慣をつけてもらう必要があります。また、メモした場所や、メモしたこと自体を忘れてしまうこともあり、せっかくメモを取っても参照できない場合があります。したがって、メモの書き方のルールを決めることやメモを見るための工夫をする必要があります。メモを参照するための工夫として、普段から必ず見るところにメモをするという方法や、スマートフォン等の電子機器を使用するという方法があります。電子機器は、アラーム機能等を活用することで、必要なタイミングで本人に気づかせることができるため、有効な場合があります。 周囲の人ができる工夫として、覚えなくてもできるような職場環境の配慮があります。例えば、本人の1日の作業スケジュールをホワイトボード等に書いて示す、連絡事項はメモやメールで渡す、重要事項は普段から見るところに貼っておく、マニュアルを作成する、仕事で使う道具の場所が分かるように保管場所にラベルを貼りできるだけ変更しないようにするなどが考えられます。エ 遂行機能障害 遂行機能とは、目的を持った一連の活動を適切に行うための能力です。私たちは、物事を成し遂げる際、目標を立て、計画し、実行した上で、その結果が上手くいっているのかどうか評価しつつ行動を修正するということを頭の中で行いながら物事を遂行しています。遂行機能障害とは、これらの一連の手順が上手く出来なくなってしまう状

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