令和4年度障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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第8節 その他の障害者態を指します。遂行機能は非常に高度な能力のため、日常生活を送る中では障害が目立たない場合もあります。就職(復職)して初めて問題が明らかになるということも少なくありません。 遂行機能障害は、職業生活の様々な場面で影響します。例えば、一週間後までに資料の作成を依頼されたとします。依頼を受けると、通常は、時間の見積もりを立て、他の仕事との優先順位も考えて遂行します。また、途中で順調に進んでいるかどうかを評価しながら、もし順調に進んでいないと感じた際には、仕事の仕方や優先順位などを再考し、取捨選択などの問題解決も図りながら遂行していくことで、締め切りまでに、一定の水準の成果を上げることができます。ここに挙げた、時間の見積もりを立てる、優先順位を立てる、よりよい問題解決策を検討する、臨機応変に遂行している計画を変更するといった能力は、遂行機能によるものです。したがって、これらが上手くできないと、締め切りに間に合わない、要領が悪い、計画性が無い、融通が利かないといった印象をもたれることがあります。 基本的には、できる限り臨機応変な判断を本人が行う場面を減らすため、ルール化、マニュアル化、ルーチン化することが効果的です。普段と違うことがあったら〇〇に相談するというルールを決めるなど、イレギュラーなことが起こったときの対応も含めてルール化しておくと良いでしょう。オ 社会的行動障害 対人場面においてみられる障害を総称して社会的行動障害と呼びます。高次脳機能障害の影響により、感情のコントロールや相手の気持ちの読み取りが苦手、場面にふさわしくない言動をとってしまう、周囲に依存的になる、自分から進んで行動を開始できないなどの特徴が生じる場合があります。 このような対人場面での特徴は、個人の性格や気持ちの問題とみなされ、職場での問題に繋がりやすいのですが、受障後に起こっている場合には障害特性の影響の可能性を考える必要があります。 基本的な対応として、どのような状況で、問題となる特徴が見られやすいのかということを把握することが必要です。例えば、忙しい場面、慣れない場面、疲労が蓄積したとき、特定の作業場面などで見られるといった傾向がつかめる場合があります。把握する際は、様子を観察するだけでなく、本人と話し合ってみると、きっかけが理解できる場合もあります。なお、話し合いをする際は、職場のルールを一方的に説明するのではなく、本人の気持ちや考えをよく聴き、一緒に対応策を検討する姿勢で対応することが望まれます。 このようにして傾向を把握した上で、できる限りそのような状況が起こらないようにスケジュールの変更や環境調整を行うもしくは本人にこれらの状況を避けるための工夫を検討してもらうといった対応を行います。ただし、職場での対応では手に負えない場合や、メンタルヘルスの問題が疑われる場合には、医療機関や就労支援機関などに相談することが必要です。カ 失語症 言語を話す、聴く、読む、書くことが困難になる障害です。いくつかのタイプがありますが、代表的なものとして、発話は流暢だが理解が上手くできないタイプと、理解面は良好だが発話が上手くできないタイプがあります。 職業生活場面で言語を扱う場面は非常に多く、様々な場面で影響が考えられますが、コミュニケーションの取り方を工夫することで、仕事に適応できる可能性があります。 多くの場合、長く複雑な言葉や文章でやり取りするよりも、単純で短い単語や文章でやり取りした方が上手く意思疎通できます。また、なるべくゆっくり話しかけ、返答にも十分な時間を与えること、はい・いいえで答えられる質問をすることでやり取りしやすくなります。また、話し言葉よりも絵や文字を使った方が理解しやすく、話し言葉を使う際はジェスチャーを交えた方が理解しやすい場合が多いようです。キ 失認症 視覚・聴覚などの感覚そのものに異常はないのに、対象となる物が何なのかわからなくなる障害を指します。視覚失認では、見えている物が何なのか分からない、顔が認識できない、ものの位置や配置、距離が分からないなどの特性が、身体失認では触れたものが何なのか分からないなどの特性が、聴覚失認では聞いた音が何の音なのか分からないなどの特性が見られます。 失認の種類や職場環境によって問題が生じる場189

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