令和4年度障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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190面が異なるため、まずは問題が生じる場面を特定し、1つ1つ対応策を検討する必要があります。基本的には、障害されていない感覚で補う方法を検討します(例えば、視覚失認がある場合は、触覚や聴覚で理解できるよう工夫する等)。ク 失行症 運動障害があるわけではないのに、動作が稚拙になる、道具が上手く使えなくなるなど、受障前はできていた行為が上手く行えなくなる障害です。職務内容や環境によって問題になることが異なるため、医療機関や就労支援機関と相談して対応を検討すると良いでしょう。できない動作にはあまりこだわらず、できる方法や現実的な職務内容を検討することが重要です。⑤ 受障後の様々な経験や環境の影響 高次脳機能障害は後天的な障害であり、自身の障害を受け容れていくには、本人が様々な経験をとおして自身の現状を理解していくことに加えて、周囲の人々に受け入れられているかどうかといった環境的な側面が大きく影響します。 受障時の年齢によっても事情は異なります。例えば、幼少期に受障した場合、社会人になるころには、障害と付き合いながら社会経験を積んだ期間が長くなることから、障害について自分なりに受け入れ、必要な対処法などが身についている場合もあります。一方で、障害者として生活する中でネガティブな経験を積み重ね、自信や意欲の低下を招いている可能性もあります。 社会人になってから受障した場合でも、長年のキャリアを積んだ時期に受障した場合と、入社後まもなく受障した若年層の場合では、状況が異なることが考えられます。例えば、キャリアを重ねてから受障した場合、就職(復職)の際に、これまで経験した職種(業務内容)を継続するのか、転換するのかという課題への対応が重要になります。一方、若年層の場合、積み重ねてきた職業的なスキルの積み重ねが少ないことから、受障後に新しく積み重ねなければならないところが大きく、職場適応に苦労する場合もあると考えられます。 これらは一例であり、必ず示したとおりの経過をたどるというわけではありませんが、受障前と受障後の経験が状態像に大きく影響することを理解しておくことは、本人の特性をより深く理解することに繋がります。⑵ 支援制度① 障害者手帳 高次脳機能障害者が取得できる可能性がある障害者手帳は、精神障害者保健福祉手帳、身体障害者手帳、療育手帳です。同じ高次脳機能障害者であっても、個々の障害特性や状況、事情により、異なった種類の手帳を所持している場合があります。 まず、「行政的」な定義による高次脳機能障害に該当する場合は、精神障害者保健福祉手帳の申請ができます。ただし、申請に必要な主治医の診断書は、発症・受傷(初診)から6ヶ月以上経過してから作成することとされています。 身体障害者手帳は、失語症がある場合や、重複障害として片麻痺、視野障害などの身体障害がある場合に申請ができます。 最後に療育手帳ですが、発達期(概ね18歳まで)に受障しており、日常生活に支障が生じているという場合には対象になる場合があります。 なお、障害者手帳は本人の意志により申請を行うものです。本人に取得を奨める場合には、そのメリット・デメリットを丁寧に説明する必要があります。② 医療機関・支援機関ア 医療機関 高次脳機能障害を受傷した直後は必ず医療機関にかかっていますが、継続的に通院をしているとは限りません。なお、受傷直後は外科手術が可能な医療機関にかかりますが、リハビリテーションの段階では当該施設のある機関に転院しているケースが多く見られます。また、脳血管障害等が原因の場合は、生活習慣病に係る治療を受けるため、内科等の機能のある医療機関を受診している場合もあります。医療的な知見から職場での対応について相談したい場合には、本人を通して主治医に相談してみると良いでしょう。イ 就労支援機関 地域障害者職業センターや、障害者就業・生活支援センター等の就労支援機関で、高次脳機能障害のある従業員に関する相談をすることができます。高次脳機能障害者本人がもともと利用している場合はもちろんですが、現時点では利用していない場合でも職場定着又は新規雇い入れ、復職に係る雇用管理等の相談をすることができます。た

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