令和4年度障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
192/360

第8節 その他の障害者だし、本人への直接的な支援を必要とする場合には、本人の同意が必要です。 個別の障害特性に対する対応は前述しましたが、高次脳機能障害全般に共通する配慮事項もあります。① 脳疲労の影響を考慮する 脳損傷の影響により身体の疲労ではなく、脳が疲れやすくなっている場合があります。程度は様々ですが、高次脳機能障害に広く見られる特性です。 脳が疲れると、ボーっとする、あくびが多くなる、全体的に普段より行動が遅くなる、注意力散漫になりミスが増える、いらいらした様子になるなどの問題が生じることがあります。高次脳機能障害は脳の障害ですので、脳が疲れると様々な症状に影響します。したがって、普段と比較して障害特性の影響を強く感じたときには、まず脳疲労を疑い対応を考えると良いでしょう。 基本的な対応として、疲労の原因となっている事柄を見つけ、取り除きます。例えば、仕事内容の難易度が疲れの原因になっていると考えられた場合は、休憩を入れる、違う仕事を任せるなどの対応を取ります。その他にも、周囲の雑音等の環境的な要因が疲労の原因になっている場合もありますので、その場合は可能な範囲で集中しやすい配置などを検討します。  脳疲労が普段から生じやすい場合は、休憩のタイミングや時間を検討すると良いでしょう。作業に集中していると疲れに気づかないこともあります。疲れを感じてから休むのではなく、定期的にとるよう工夫が必要です。また、休憩の取り方を工夫することで変わることもあります。休憩時間に深呼吸やストレッチをしてみる、昼休みに短時間の睡眠をとるなど試してみるのも有効な手段となり得ます。 なお、悩みや不安などから睡眠や食事が十分にとれていないといった可能性もありますので、そのような兆候を感じた場合には、本人に主治医や就労支援機関、家族等との相談を促す等の対応が必要です。② 障害を補う方法を一緒に考える 高次脳機能障害の最も基本的な対応は、障害を補完する方法を検討して実行するということです。障害を補完する方法は、本人が努力して補う方法もあれば、周囲の者ができる方法もあります。詳細は前述した障害特性に対する対応のとおりですが、例えば、記憶障害を補完する方法は、本人がメモを取り参照するという方法もあれば、周囲がスケジュールを書いて渡すという方法もあります。このように、お互いにできることを見つけて対応していくということが重要です。また、本人1人だけでは適切な方法が見つけられない場合もありますので、一緒に考える姿勢で相談を行うと効果的です。③ 自他評価のギャップの生じやすさを理解する 高次脳機能障害者と働くと、本人の自己評価と周囲の評価にギャップがあるとしばしば感じるかもしれません。この原因の1つは、自身の考えや行動を第3者の視点で評価するという脳機能の損傷の直接的な影響と考えられます。このため、自身の障害にも(部分的に)気づいていない場合があります。例えば、記憶が苦手であることは自覚していても、不注意であることには気が付いていないということがあります。また、障害があること自体は理解していても、実際に生じている(または生じるであろう)現象と結び付いていないという場合もあります。これは、例えば自身に記憶障害があると開示しているにもかかわらず、仕事の説明内容を忘れていることに気づいていないということがあります。または、自身に記憶障害があり、メモを取る必要があると開示しているにもかかわらず、仕事の手順の説明を受けるときにメモを取る様子がないといったことが起こります。 このような自他評価のギャップや障害に対する気づきの問題が生じる理由には、心理的な影響もあります。高次脳機能障害を受障すると、急に以前できていたことができないという現実に直面することになります。このような状況下で心理的に強い不安を引き起こすため、無意識的に障害を否認するという場合があります。このような否認の状態を解消するには、周囲に受け入れてもらい、障害があっても認められるという肯定的な経験を積むことが必要です。 もう1つ自他評価のギャップを生じさせる要因として社会環境的な要因があります。例えば、受障後の社会経験の少なさや、周囲の反応などが考えられます。高次脳機能障害を受障してから就職(復職)する直前まで、長らく家庭と病院を行き来する生活を送っていたというケースも多々あります。そのような生活環境の中だけでは、仕事に必要な能力の変191⑶ 職場でできる基本的な配慮

元のページ  ../index.html#192

このブックを見る