令和4年度障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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人へ感染することはありません。知的障害にもさまざまな原因がありますが、多くの場合、肉体的には健康であり、8時間労働に十分耐えうる体力を有しています。何らかの身体疾患を合併している場合には、主治医とよく連絡をとって、その指示に従って必要な配慮を行います。職場では安全の確保が特に重要です。知的障害者は危険を察知して回避する能力が不足していることがあるので、職場の安全環境の整備に努めるとともに、十分な見守りや監督ができる体制を整えます。また、自身の身体の不調を適切に伝えることができない可能性があるので、表情や態度の変化などに注意して観察する必要があります。さらに、知的障害があっても鋭い感性を有しているために、かえって人間関係に傷つきやすいとも言われていますので、上司や同僚の配置にも気を配ります。統合失調症やそううつ病などの精神疾患により、日常生活もしくは社会生活に著しい制限を受ける人が精神障害者保健福祉手帳の交付対象となっています。身体疾患の合併がなければ、ほとんどの場合、就労に必要な体力は十分に有していますが、労働による緊張が病状を悪化させることが少なくないので、就業時間を短縮するなどの配慮を行います。また、服薬継続はきわめて重要であり、定期的な主治医受診を促します。一方、服薬により注意力が低下する可能性があるので、危険を伴う作業に従事することは勧められません。てんかんも精神障害者保健福祉手帳の交付対象になっています。てんかんにはさまざまな原因と多くの発作型がありますが、ほとんどの場合、抗てんかん薬の服用によって発作をコントロールすることができます。一番大きな問題は、いまだにてんかんに対する偏見が根強いために、本人がてんかんであることを隠そうとして、通院や服薬を怠ってしまうことです。職場では、てんかんに対する偏見を無くして、本人が堂々と服薬できる雰囲気をつくる必要があります。職場でてんかん発作を起こすこともありますが、通常の発作は数分以内に自然に収まるので、周囲の安全に気を配ること以外には、特別な処置は必要ありません。けいれんが収まったあとしばらくもうろう状態が続いたり寝込んだりすることがあるので、完全に覚醒87呼吸器の機能の障害による息切れなどにより、日常生活活動が著しく制限されます。活動の許容量は主治医から指示されるので、それを本人が遵守できるよう配慮します。在宅酸素療法(HOT)により就業が可能となっている人には、機器がトラブル無く使用できるよう配慮します。肺炎などの感染症は呼吸器機能の急激な悪化を招くので、感染予防と早期治療を促します。⑤ ぼうこう又は直腸の機能障害さまざまな疾患や外傷などにより、ぼうこうや直腸の機能が失われ、排せつのために腹部に開けた孔をストマと呼びます。ストマを有する人をオストメイト、または人工ぼうこう保有者、人工肛門保有者と呼びます。ストマには蓄尿袋や蓄便袋を貼り付けてその中に排せつするので、定期的に袋を交換する必要があります。そのため、袋交換に要する時間と場所(オストメイト対応トイレ)の確保が求められます。もちろんストマを造る原因となった疾患の治療や管理のために主治医受診が必要です。⑥ 小腸機能障害さまざまな原因により小腸の機能が障害され栄養の維持が困難になると日常生活が著しく制限されます。クローン病や腸管型ベーチェット病は病勢が動揺しやすく、過労やストレスにも気をつける必要があります。⑦ ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染により長い潜伏期を経て免疫機能が障害されエイズを発症します。今のところいったん感染したHIVを完全に除去する方法はありませんが、さまざまな抗HIV薬を組み合わせて服用することにより、長期に渡り就労し続けることができるようになっています。職場などでの日常的な接触では人から人への感染の心配はなく、むしろ過剰な対策によりHIV陽性者の人権やプライバシーを侵害しないよう注意が必要です。本人に対しては、服薬と通院が確実に続けられるよう支援します。⑧ 肝臓機能障害肝臓の機能障害の原因は、B型・C型ウィルス性肝炎、自己免疫性肝炎、アルコール性肝炎などさまざまです。進行すると慢性肝炎から肝硬変に移行し、肝がんを発症することもあります。常に主治医による厳重な管理が必要であり、その指示に従います。代償期には過労などに注意すれば就業が可能です。ウィルス性肝炎が職場の日常的な接触で人から⑸ 知的障害者の健康と安全(第3章第5節参照)⑹ 精神障害者の健康と安全(第3章第6節参照)

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