⑸ 認知的能力に配慮した相談の進め方う場合、クライエントと相談員とで意味を共有することに特に留意する必要があります。特に、ちょっとしたことで意味の共有が妨げられる場合があり、相談員側が軽い気持ちで「これ」「それ」「あの」などの代名詞を使って発言して、実際には意味があまり通じていないという場合があります。代名詞ではなく、具体的に事物を特定して話をしていく方が望ましいでしょう。③ 黙従傾向に留意黙従傾向とは、よく分からない質問などに対し、意味をよく考えずに「はい」「そうです」と回答してしまう行動傾向のことを言います。知的障害の方などにこのような傾向が見受けられ、結果として本人の意思を尊重した相談が十分に行われない可能性があります。クライエントの意思を尊重するためには、この黙従傾向にも留意する必要がある場合があります。そのような場合、例えばあえて本人の意思と違うと考えられる質問を投げかけるなどして「違います」と否定しク10:そうですね、うーん。休み時間はあまり会話をしない感じですねク11:とても寂しいですね。ク12:そうですね。ク13:いや、普通、社会人なら挨拶するものじゃないですか。挨拶しないっていうのはおかしいですよね・・?相13:やはり挨拶をするのが社会人だという気持ちが強いんですね。(以下、つづく)相談の対象は認知的能力に制約のない人ばかりではなく、企業によっては知的障害や精神障害など認知的な障害のある従業員を対象とした相談を重点的に行わなければならない場合もあるでしょう。そこで、認知的な能力に制約のあるクライエントに対して相談を行う際の留意点をいくつか示します。① 意味が通じているか常に意識しようコミュニケーションが成立することの重要性を先述しましたが、繰り返しになりますが、相談員とクライエントとの間で言葉の意味の共通理解ができているのか、常に意識することの重要性は強調しておきたいと思います。以下の項目も、まとめると意味の共通理解を図るということに尽きるものです。② 代名詞(コレ、アレ、ソノ等)の使用に留意知的障害など認知的能力に制約がある人と相談を行会話相10:そんな時はどのように感じますか?相11:やはり寂しく感じますよね。そうすると、やはり職場の人たちが挨拶をしてくれるようになるといいのでしょうかね。相12:そのほかに、こうなるといいということはありますか。挨拶をしなくても、自分として「まあ、仕方がないか」と思えるとか。・感情に焦点を当てている。・クライエントの希望を聞いている。・クライエントの希望を聞いているとともに、このような解釈もできるのでは(仕方がない、と思うようにする。挨拶にこだわらないようにする)ということも暗に示している。・クライエントに規範意識(社会人なら挨拶をするものである)があり、こだわっている面があることを確認している。解説117
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