令和6年度版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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⑷ 服薬・通院について⑸ 雇用上の注意点(合理的配慮を含む)① 定期的通院への配慮や体調管理への応援164総合的に判断して認定され、おおまかに1〜2級がエイズ発症、3〜4級がエイズ発症前の免疫機能低下のレベルに相当します。前述のように、適切な治療により免疫機能は回復しますが、現在HIVを完全に消失させる治療方法はないため、治療を中断するとHIVは再増殖し、免疫機能は低下してしまいます。このため、服薬によって免疫機能が回復している人も障害認定は継続しています。抗HIV薬は複数の錠剤を組み合わせて、各人の免疫状態やライフスタイルに合ったものが選択されます。かつては複数の錠剤を仕事中にも服薬する必要があるなど負担が大きかったのですが、最近では服薬回数が1日に1回で、仕事中の服薬の必要がない人が多くなっています。また、HIV陽性者自身の健康管理も取り組まれています。通院は、1〜3ヶ月に1回、定期的に必要です。治療を続けているHIV陽性者では免疫機能の低下もなく特別な配慮を必要としない人も多く、職場の仲間として応援するスタンスが重要です。一方、定期的通院が必要であり体調管理のため職場の理解が必要な場合があります。職場において、同僚の科学的に根拠のない恐怖や誤解、偏見による差別や混乱が生じることを防止するために、本人とのコミュニケーションや、情報管理、啓発に慎重な対応が必要です。また、疾患管理と職業生活の両立の支援、衛生管理や出血事故対処の一般手順に留意します。1〜3ヶ月に1回の通院は、特に体調に問題がない場合でも、予防的な意義もあり、定期的に必要であり、確実に通院できるように配慮が必要です。また、過労やストレス等は免疫機能の低下につながるため体調管理上の配慮が必要な場合があり、本人からの配慮等の申し出を踏まえ、過剰反応することなく、体調管理を応援するスタンスで配慮等を検討します。② 差別防止と情報の取り扱い既述のように、HIVによる免疫機能障害あるいはHIV感染それ自体では、通常、職務遂行のための適性と能力に直接関係しません。労働安全衛生法上の「病者の就業禁止」にはあたりませんし、HIV感染それ自体は解雇の理由に該当しません。HIV感染を本人から告げられた場合に、それで過剰反応を起こすことなく、あくまで本人の適性と能力に焦点をあわせ、病気により不利な扱いをしてはいけません。そのことを明確に本人に示すことで、本人の安心にもつながります。一般的に採用選考時等に、HIV感染についての情報の収集は行うべきではありません。健康診断も、HIV抗体検査証明が必要な国での勤務といった、合理的・客観的な理由がある場合等を除いて、HIV感染の検査は行わないことが原則であり、また、検査を行う場合には内容と理由を本人に事前に周知すべきです。人事や産業医、健康保険を扱う部署などからの情報漏洩を不安に思うHIV陽性者が多いことから、個人情報の漏洩による企業リスクを再確認する等、情報管理を適正に行えるよう関係者の意識を高めておく必要があります。本人の意思を確認し、健康管理に関する情報は、産業医等必要最小限の担当者にとどめ、関係者の守秘義務を徹底し、情報がむやみに拡大しないように関係者の秘密保持を徹底します。HIV感染のことを明示することを望まない人もおり、上司等による定期的通院への配慮等については「持病」、「内部障害」とだけ伝える等、プライバシーや人権を最大限尊重します。また、後述の衛生管理や出血事故対策は一般的な手順であるため、職場全体にHIV陽性者がいることを伝える必要はありません(Q&A【問15】(P167)にチャレンジ)。③ 正しい知識の啓発HIV感染については誤解や偏見が根強いことから、もし上司や同僚に病名を開示する必要があるならば、一般の健康をテーマにした研修等で、HIV感染についての正しい知識を職場に啓発しておくなどの配慮が必要です。開示しない場合でも、できれば一般の健康教育の一環としてHIV感染症の現状についての啓発をしておくことが望まれます。職場には既にHIV陽性者が働いており、職場に相談できなくてストレスを抱えている可能性もありますが、職場の理解促進の取組があることで、そのような人も相談しやすくなります。事前の啓発が行われず、パニック等の過剰反応が起こった場合でも、HIV感染症についての専門家を招いての説明会や質疑応答で沈静化できた例があります。HIV感染症の治療の状況は近年大きく進歩してい

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