第8節 その他の障害者傷つきやすさによる直接の職務遂行上の制限だけでなく、顔面や目立つ外見での腫瘍他の変化により周囲からの「感染するのではないか」等の無理解による制約を受ける場合があります。神経線維腫症は、皮膚等の腫瘍(できもの)や色素班(しみ)を特徴とする病気で、職務遂行に影響するような身体的、精神的な機能障害は基本的になく、病気が感染するおそれもありません。顔面等の腫瘍が大きくなると手術が必要になることがあります。キ 網膜色素変性症 中途の視覚障害の代表的な原因疾病です。最初は夜間や夕方、薄暗い部屋でものが見えなくなる症状が現れ、その後、一部の視野が見えなくなる等、ゆっくりと視覚障害が進行していくため、通勤時間の配慮等が必要になってくることもあります。 視覚障害の進行には時間がかかるため、退職年齢までに失明するとは限りませんが、状況に応じて視覚障害者用の支援機器等を早めに検討するとよいでしょう。支援機器を活用すれば、たとえ失明しても、文書を読んだり書いたりといった事務的仕事も十分に続けることができます。また、視覚障害関係の団体に相談する等、本人の生活設計や支援機器の訓練や職業訓練等、就業継続を総合的に支えることが大切です。ク もやもや病 脳のウィリス動脈輪という太い血管の代わりに細い血管が網の目のようにできる病気です。激しい運動をした時や過呼吸になった時に、脳の血流が不足して突然崩れるように倒れる脱力発作が起こりやすく、また、30〜40歳以降では脳卒中が起こりやすくなります。脱力発作は数分でおさまり、脳卒中も軽度のことが多いのですが、発作が重なると、脳に障害が蓄積し、身体の麻痺や言語障害、高次脳機能障害により、障害者手帳の対象となります。発作を起こさない予防的な対策や、発作で突然倒れる危険性を考慮するために、産業医等も入れて仕事内容を検討することが必要です。ケ 後縦靱帯骨化症 背骨を縦につなぐ靱帯は柔軟性があり、首、胴体、腰を自由に動かすことができますが、これが肥大・骨化して首等のこわばりや痛みが生じ、さらに、骨化が進行し脊髄を圧迫するようになる病気です。病気が進行して、脊髄麻痺と同様の下半身等の麻痺になると身体障害者手帳の対象になります。しかし、そこまで進行していない場合も、首等の痛みや、手足のしびれ等があり、疲労が溜まりやすく、また、転倒しやすく、脊髄損傷を起こしやすいので、仕事内容を産業医等と検討する必要があります。コ 原発性免疫不全症候群 原発性免疫不全症候群は、体内に侵入した細菌やウイルスを排除しようと働く「免疫機能」が生まれつき機能しない病気です。主な症状は、感染症(風邪、化膿など)にかかりやすいことで、それが肺炎や敗血症等に重症化しやすいことです。免疫機能を高めるための通院への配慮と、その人の免疫機能に無理のない職場や仕事内容に主治医や産業医と相談して留意することで、基本的に就労は十分可能です。具体的には、デスクワークの仕事で人ごみを避けることや日頃から職場の同僚の手洗い・うがい励行や空気清浄器の設置等の協力が必要な場合があります。⑵ 差別禁止と合理的配慮の提供 「難病等による障害」は障害者手帳の有無にかかわらず、障害者差別禁止と合理的配慮提供義務の対象です。「難病」についての先入観や偏見によらず、意欲があり適性の高い人材を採用し、本人や主治医とのコミュニケーションと正しい理解に基づき、能力を発揮して継続して働いてもらえる職場づくりの取組が重要です。「難病等による障害」は必ずしもすべてが障害者手帳制度や障害者雇用率の算定の対象にはなりませんが、適切な仕事内容と職場の理解・配慮があれば無理なく活躍できる難病のある人の公正な雇用はすべての事業主の法的義務です。① 「難病」の正しい知識の普及と差別防止 難病医療の進歩は急速であったため、正しい最新の知識の普及が十分でなく、「難病=働けない、雇用できない」という先入観が一般的にみられます。そのような先入観による採用拒否や退職勧告、その他の不利な扱いを懸念して、難病のある人の中には、病気を隠して働くことも多くあります。このような状況は、本人の治療と仕事の両立が困難になるだけでなく、企業の健康や安全への配慮上も問題と197
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