令和6年度版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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なる悪循環をつくっています。 そのような悪循環を断つためには、募集採用時だけでなく、就職後も社内の従業員向けに、治療と仕事の両立支援や障害者差別禁止等の基本方針を明示し、難病のある人が差別をうける心配なく、職場で必要な配慮について相談しやすい環境を整えることが重要です。難病というだけで不採用にしたり就業禁止にしたりすることは、合理的理由のない差別的取扱となります。 また、障害者雇用率に算入されない難病のある人について「雇用のメリットがない」等の発言が企業や支援者から聞かれることがあるようです。「障害や難病のある人は働けない」「企業の負担が大きい」という先入観を除き、障害者が職業人として活躍する機会を保障し、その能力を正当に評価するという、障害者差別禁止や合理的配慮提供の義務化の趣旨を再確認することが重要です。② 募集採用時の合理的配慮 難病のある人は、就職活動において、就職後に必要となる配慮を確保するための説明と、意欲や能力のアピールの両立が困難になっています。難病のある人が無理なく活躍できる仕事は一般求人のデスクワーク等にも多いことから、難病のある人が一般求人に応募することはまれではありません。難病のある人の募集採用時には、難病のある人が安心して病気や必要な配慮について開示できる環境整備や、十分なコミュニケーションのための時間を確保することが合理的配慮になり得ます。ア 治療と仕事の両立支援等の方針の明示 偏見や差別のおそれから、難病や配慮について就職活動で説明するかどうかを迷っている人が多くいます。治療と仕事の両立に向けて職場の理解と協力の必要性を認識していても、募集採用時の企業側の「難病」への反応を予測できず迷う人が多いのが現実です。このような人たちは「健康状態」を一般的に聞かれても回答に困っています。 現在、難病に限らず、がん等の治療と仕事の両立支援の普及が進んでいます。がんや難病は誰もがかかりうる病気です。企業として、治療と仕事の両立支援に取り組んでいたり、障害者差別禁止や合理的配慮提供に取り組んでいるならば、それを募集採用時に明示すること自体が合理的配慮になり得ます。優れた人材を確保するためには、そのような方針を明示した方が有利であるという考198え方もあります。イ  能力や適性と必要な配慮を理解するための時間確保 難病のある人の中には、採用面接時に、病気のことばかりを聞かれて、適性や意欲をアピールできなかったという経験を持つ人がいます。適性や意欲等に加え、必要な配慮等について十分に理解するために面接時間を延長することも合理的配慮となり得ます。なお、仕事とは関係のない病気自体について聞く必要はありませんし、プライバシーや人権の観点からも不適切です。 ハローワーク等からの紹介の場合、支援者が事前に主治医等に病気の内容や必要な配慮等について確認を行っている場合もあります。そのような支援者が面接に同伴することを認めることも、理解を進めるための合理的配慮となります。 また、面接だけで判断が困難と感じる場合でも、職場実習、職場体験、障害者トライアル雇用制度等を活用することで、仕事による負荷や疲労、休憩や休日による体調の維持等について、職場で調整を進めるとともに、難病のある人の主治医等とも疾病管理上の情報交換も可能となり、本人、職場、支援者等の納得につながる採用への合理的配慮となります。③ 就職後の合理的配慮 「(1)難病等による障害の特徴」で記したように、難病のある人の治療と両立した就業継続のためには、無理なく活躍できる仕事内容や、休憩や通院等がしやすい職場での調整が本質的に重要です。そのためには、外見からは分かりにくい症状等も含め本人等との情報交換が重要です。ア 休日・休憩・通院等の条件のよい仕事内容 難病のある人が働きやすい身体的負担の少ない仕事は、障害者雇用に特化した仕事に限らず、デスクワークやパート等のむしろ一般の仕事に多くあります。本人の適性に適合し職業人として活躍できる業務配置が、個別の弱点への配慮に先立って重要です。 単に本人の弱点にだけ注目し、例えば、休憩・休暇時や特定の業務を上司や同僚がその都度カバーするだけでは、「職場の迷惑になっている」と本人の心理的負担が大きくなったり、「なぜ、あの人だけが特別扱いなのか」と職場の人間関係が悪化しやすくなり、離職の大きな原因となりま

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