令和6年度版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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2高次脳機能障害第8節 その他の障害者⑴ 高次脳機能障害とはあります。 このように、高次脳機能障害には医療的な定義と行政的な定義があり、用語が示す範囲に違いがあることから、注意する必要があります。② 高次脳機能障害の原因 高次脳機能障害の原因は様々ですが、代表的なものは、脳血管障害、脳外傷、低酸素脳症、脳炎、脳腫瘍などになります。この中でも多いのは、脳血管障害と脳外傷です4)。 脳血管障害は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血であり、中高年齢者に多くみられますが、若年者でもみられる場合があります。脳外傷は、事故や転倒が原因で脳に損傷を受けたものを指します。誰にでも受障の可能性があり、場合によっては、幼いころの事故が原因という場合もあります。③  高次脳機能障害の発症から就職(復職)までの経過 高次脳機能障害の原因である脳血管障害や脳外傷等を発症した際、多くの場合は入院治療や緊急手術を受けます。生命を取り留めた後も、しばらくは意識がぼんやりとして意思疎通が難しく、生活の大半に介助が必要であることが珍しくありません。時間の経過やリハビリテーション治療により、少しずつ心身の機能を取り戻していきます。 このように、治療やリハビリテーションを受け、主治医と相談をしながら就職(復職)を目指します。活用可能な社会資源がある場合には、医療リハビリテーションの後に職業リハビリテーションを受ける場合もあります。リハビリテーションにかける期間は、障害の程度や活用可能な社会資源の内容、復職先の就業規則等の規定、本人の家計の事情等によっても異なります。 なお、リハビリテーションに時間をかけたとしても、脳の損傷がごく軽微であった場合を除き、発症・受傷前の身体機能や認知機能を完全に取り戻すことは難しい現状があります。大半の人は後遺症とつきあいながらその後の社会生活を送っていくことになります。苦手になったことを補いながら職業生活を始める/再開するためには、本人の努力だけではなく、周囲の理解に基づく環境の整備と適切な配慮が必要です。 高次脳機能障害は、脳血管障害(脳梗塞や脳出血)や脳外傷(事故や転倒)等がきっかけとなり生じる認知機能の障害です。職業生活を送っている私たちにとって、いつ、誰が、どこで受障してもおかしくない身近な障害です。 しかし、高次脳機能障害は脳機能の障害であるが故に外見上その特性が見えにくく、やる気や性格の問題といった誤解を受けてしまう可能性もあります。職業生活を共にする者が基本的な障害特性を理解しておくことは、職場内での誤解に端を発した悪循環を防ぐことに繋がります。また、高次脳機能障害は、周囲の環境によってもその状態像が大きく変わる場合があります。周囲の関わり方やちょっとした配慮がきっかけで職業生活に適応できるようになることも少なくありません。 ここでは、高次脳機能障害の基本的な特性及び職場でできる基本的な配慮について述べます。 高次脳機能障害の状態像は様々です。脳の損傷部位の違いにより認知機能の障害の出方が異なる場合があるだけでなく、受障年齢、生活(就業)環境等の影響によって様々な課題や支援ニーズがあります。1人ひとりの特性や状況を理解した上で、個人に合った対応や配慮を検討していくことが重要です。① 高次脳機能障害の定義 医療等の領域で高次脳機能障害とは、脳の損傷や機能不全によって生じる認知機能(言語、思考、記憶、行為、学習、注意、判断など)の障害全般を指します。ここには失語症、失認、失行症が含まれ、認知症、発達障害を含む場合もあります。 一方、「行政的」には、それまで福祉サービスの活用ができなかった高次脳機能障害者を支援することを目的に、「高次脳機能障害支援モデル事業」により作成された診断基準に基づく定義があります。その診断基準には「現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である」と記されています。身体障害として認定可能な失語症や、他の枠組みでの支援が推奨された発達障害、認知症等が除外されているところに違いが201

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