令和6年度版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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202④ 様々な障害特性 高次脳機能障害において比較的多く見られる認知機能の障害特性を以下に示します。いずれも、外見からは分かりにくく、本人自身も自覚しにくい特性のため、本人も周囲も戸惑うことがあります。同時に、職業上の代表的な課題と基本的な対応についても記述します。これらの障害特性は、どれか1つだけが特異的に生じることよりも、いくつか組み合わさって広範に見られることが多くあります。なお、どの障害特性がどの程度生じるのかというのは、脳の損傷部位や受傷の程度、周囲の環境によっても異なるため、1人ひとり違います。本人を通して医療機関や就労支援機関からの情報を得るなどし、理解を深めることが重要です。ア 注意障害 注意障害があると、注意を「続ける」、「適切に向ける」、「切り替える」、「配る」ことに障害が生じます。職業生活上の場面では、集中力が続かずミスが生じる、必要な情報に注意を向けることが苦手で説明のポイントが押さえられない、注意を上手く切り替えることが苦手なため言葉をかけられても気が付かない、注意が次から次に切り替わるため話題が点々としてまとまらない、複数の情報に上手く注意を配ることが苦手なため人の話を聞きながら要点をメモすることができない、などの課題が生じます。 脳機能の障害ですので、「気を付けるように」と注意を促すという対応だけでは上手くいきません。注意力を適切に維持できる環境やスケジュール及び作業内容を見つけ出し調整することや、ミスを防ぐ方法を本人と一緒に検討して試してみることが重要です。例えば、周囲の気になる刺激(騒音、人通りなど)が少ない場所で仕事をしてもらう、休憩をこまめにとれるようスケジュールを設定する、複雑な作業は集中しやすい時間帯(人により異なるが、例えば午前中)に行うようにするなどの環境やスケジュールの設定の工夫で課題が軽減することがあります。作業内容に関しては、同時並行作業を少なくする、他の人のチェックが入る作業を担当してもらうなどの方法があります。また、本人には、チェックリストを活用してもらい手順の抜けを防ぐ、入力した文字や数字は必ず声に出して読んでもらう、逆からも読み上げてもらうなどのミスを防ぐ具体的な確認方法を実践してもらうなどが有効な場合があります。イ 半側空間無視 左右どちらかの特定の空間方向に対する注意の障害です。多くの場合は、左側のみ注意が向かなくなります。このような場合、本人から向かって右側にある物や情報は認識できても、左側にある物や情報を見落としてしまうという問題が生じます。なお、本人はこの障害に気づいていない場合も多いです。 職業生活場面では、作業台の左(右)側にあるものを見逃してしまう、書類の左(右)側に気が付いておらず読み飛ばしているなどが考えられます。 基本的な対応として、重要な物や情報を、注意が向けられなくなった方向(多くの場合は左側)と逆の方向(左側の注意障害の場合は右側)に配置するよう工夫することが重要です。手順書や道具は本人から向かって右(左)側に置くなどです。ウ 記憶障害 記憶とは、日々の出来事や情報を「取り込む」→「頭の中で保持する」→「必要な情報を思い出す」という一連の過程を指します。記憶障害とは、脳の損傷によりこの一連の過程が上手く機能しなくなる障害です。すなわち、日々の出来事や情報を「取り込めていない」、「忘れる」、「思い出せない」といった状態が生じます。なお、多くの場合は受障後の出来事や情報を覚えることが苦手になりますが、受障前の出来事や情報を(部分的に)思い出せないという場合もあります。障害の程度は様々で、全く覚えていないという場合もあれば、曖昧ではあるが覚えているという場合もあります。 職業生活場面では、仕事の手順やルールを覚えられない場合があります。指示や説明の内容を記憶することが苦手なため、「何度指示しても同じところを忘れてしまう」、「何度説明しても同じ質問を繰り返してしまう」、「以前依頼したことを忘れている」という例があります。 基本的な対応は、覚えなくてもできるように工夫することです。大きく分けると、高次脳機能障害者本人ができる工夫と、周囲の人ができる工夫があります。 本人ができる工夫として、メモを取ることがあります。しかし、必要なことを自発的にメモが取れるようになるまでには時間がかかることから、

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