第8節 その他の障害者何度も周囲から言葉をかけ習慣をつけてもらう必要があります。また、メモした場所や、メモしたこと自体を忘れてしまうこともあり、せっかくメモを取っても参照できない場合があります。したがって、メモの書き方のルールを決めることやメモを見るための工夫をする必要があります。メモを参照するための工夫として、普段から見る習慣があるところにメモをする方法や、スマートフォンやタブレット端末等の電子機器を活用する方法があります。電子機器は、アラーム機能等を活用することで、メモの参照が必要なタイミングに気がつくことができるため、有効な場合があります。 周囲の人ができる工夫として、覚えなくてもできるような職場環境の配慮があります。例えば、本人の1日の作業スケジュールをホワイトボード等に書いて示す、連絡事項はメモやメールで渡す、重要事項は普段から見るところに貼っておく、マニュアルを作成する、仕事で使う道具の場所が分かるように保管場所にラベルを貼りできるだけ変更しないようにするなどが考えられます。エ 遂行機能障害 遂行機能とは、目的を持った一連の活動を適切に行うための能力です。私たちは、物事を成し遂げる際、目標を立て、計画し、実行した上で、その結果が上手くいっているのかどうか評価しつつ行動を修正するということを頭の中で行いながら物事を遂行しています。遂行機能障害とは、これらの一連の手順が上手く出来なくなってしまう状態を指します。遂行機能は非常に高度な能力のため、日常生活を送る中では障害が目立たない場合もあります。就職(復職)して初めて問題が明らかになるということも少なくありません。 遂行機能障害は、職業生活の様々な場面で影響します。例えば、1週間後を期限に資料の作成を依頼されたとします。依頼を受けると、通常は、時間の見積もりを立て、他の仕事との優先順位も考えて遂行します。また、途中で順調に進んでいるかどうかを評価しながら、もし順調に進んでいないと感じた際には、仕事の仕方や優先順位などを再考し、取捨選択などの問題解決も図りながら遂行していくことで、締め切りまでに、一定の水準の成果を上げることができます。ここに挙げた、時間の見積もりを立てる、優先順位を立てる、よりよい問題解決策を検討する、臨機応変に遂行している計画を変更するといった能力は、遂行機能によるものです。したがって、これらが上手くできないと、締め切りに間に合わない、要領が悪い、計画性が無い、融通が利かないといった印象をもたれることがあります。 基本的には、できる限り臨機応変な判断を本人が行う場面を減らすため、ルール化、マニュアル化、ルーチン化することが効果的です。普段と違うことがあったら〇〇に相談するというルールを決めるなど、イレギュラーなことが起こったときの対応も含めてルール化しておくと良いでしょう。オ 社会的行動障害 対人場面においてみられる障害を総称して社会的行動障害と呼びます。高次脳機能障害の影響により、感情のコントロールや相手の気持ちの読み取りが苦手、場面にふさわしくない言動をとってしまう、周囲に依存的になる、自分から進んで行動を開始できないなどの特徴が生じる場合があります。 このような対人場面での特徴は、個人の性格や気持ちの問題とみなされ、職場での人間関係の問題に繋がりやすいのですが、受障後に起こっている場合には障害の影響を考える必要があります。 基本的には、どのような状況で、問題となる特徴が見られやすいのかということをまずは把握することが必要です。例えば、忙しい場面、慣れない場面、疲労が蓄積したとき、特定の作業場面などで見られるといった傾向がつかめる場合があります。把握する際は、様子を観察するだけでなく、本人と話し合ってみると、きっかけが理解できる場合もあります。なお、話し合いをする際は、職場のルールを一方的に説明するのではなく、本人の気持ちや考えをよく聴き、一緒に対応策を検討する姿勢で対応することが望まれます。 このようにして傾向を把握した上で、できる限りそのような状況が起こらないようにスケジュールの変更や環境調整を行うもしくは本人にこれらの状況を避けるための工夫を検討してもらうといった対応を行います。ただし、職場での対応では手に負えない場合や、メンタルヘルスの問題が疑われる場合には、医療機関や就労支援機関などに相談することが必要です。カ 失語症 言語を話す、聴く、読む、書くことが困難にな203
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