令和6年度版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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⑷ 最後に206選択することが重要です。本人が納得して選んだ方法でなければ、継続することは困難だからです。③ 自他評価のギャップの生じやすさを理解する 高次脳機能障害者と働くと、本人の自己評価と周囲の評価にギャップがあるとしばしば感じるかもしれません。この原因の1つは、自身の考えや行動を第3者の視点で評価するという脳機能の損傷の影響があります。このため、自身の障害にも(部分的に)気づいていない場合があります。例えば、記憶が苦手であることは自覚していても、不注意であることには気が付いていないということがあります。また、障害があること自体は理解していても、実際に生じている(または生じるであろう)現象と結び付いていないという場合もあります。したがって自身に記憶障害があり、メモを取る必要があると開示しているにもかかわらず、仕事の手順の説明を受けるときにメモを取る様子がないといったことが起こります。 このような自他評価のギャップや障害に対する気づきの問題が生じる理由には、心理的な影響もあります。高次脳機能障害を受障すると、急に以前できていたことができないという現実に直面することになります。このような状況下で心理的に強い不安を引き起こすため、無意識的に障害を否認するという場合があります。このような否認の状態を解消するには、周囲に受け入れてもらい、障害があっても認められるという肯定的な経験を積むことが必要です。 もう1つ自他評価のギャップを生じさせる要因として社会環境的な要因があります。例えば、受障後の社会経験の少なさや、周囲の反応などが考えられます。高次脳機能障害を受障してから就職(復職)する直前まで、長らく家庭と病院を行き来する生活を送っていたというケースも多々あります。そのような生活環境の中だけでは、仕事に必要な能力の変化に気づくことは難しいでしょう。このような場合は、職場で段階的に経験を積みながら、少しずつ時間をかけて自身の状態を理解してもらうことが必要です。そのため、周りが焦らないようにすることが重要です。また、就職(復職)後は、職場での立場なども変化することが多いと思われます。周囲にどのように受け入れられるのか、自身がどのようにふるまえばよいのかということに気を使い、上手く自己開示できないこともあります。 このように、自他評価のギャップが生じる背景は様々であり、これを完全に把握することは難しいかもしれません。脳機能の障害の影響ということを主眼に置きつつ、心理的な背景や社会的な背景もありうることを理解しようとする姿勢が重要です。少なくとも、本人に現実を突きつけるといった方法は上手くいかないことが多いと考えられます。本人を認める言葉かけを行う、できていないところの指摘だけでなく対応策を一緒に考えるなどを意識的に行う必要があります。④ 重複することが多い障害を考慮する 高次脳機能障害は脳機能の障害であることから、損傷部位によっては認知機能の障害だけでなく身体障害やてんかんが生じる場合があります。ア 身体機能の障害 代表的な障害として、右又は左の上下肢の運動麻痺である片麻痺、温度や痛みなどの感覚が低下する感覚障害、視野の一部が欠損する視野障害などがあります。認知機能の障害と同時に、身体的な障害の影響を考慮した職務配置の工夫や通勤経路又は時間帯への配慮が必要な場合もあります。イ てんかん 脳損傷が原因でてんかん発作が起きる場合があります。てんかんがある場合には、継続的な服薬が重要であることから、医療機関に定期的に通いやすいよう休暇を取得しやすくするなどの配慮が必要な場合もあります。また、運転等の危険を伴う業務がある場合には、主治医等の意見を参考に職務内容を検討する必要もあります。⑤ メンタルヘルスの問題を考慮する 高次脳機能障害者は、うつや不安を抱える場合が多いことが知られています。脳損傷の直接の結果としてこれらの症状が出現する場合と、日常生活や社会生活でのストレスが関係している場合の両方が考えられます。気がかりな場合は、産業保健スタッフや医療機関への相談を勧めると良いでしょう。 ここに述べたように、高次脳機能障害の状態像は多様で、外見上分かりにくい障害であるという点は、対応の難しさを感じるところかもしれません。しかし、コミュニケーションの仕方や環境、担当職務の範囲を少し変えることで状況が改善できる場合があります。社内だけで解決策を検討するのは難しい場合もあると思いますので、ぜひ就労支援機関にご相談ください。 冒頭で述べたように、高次脳機能障害はいつ、誰

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