1第1障害者雇用の取り組みは重要な経営課題の一つ節36❶ …ESG:企業を発展させ、推進力を生み出すために、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3側面に留意し企業内に意識を浸透させる取り組み。社会的な側面の中に従業員の働きやすい職場づくり、多様性に応じた職場環境の整備が含まれ、障害者雇用については社会的な取り組みとコンプライアンスの両面で取り組むことが求められている。従業員の雇用管理は、それぞれの企業が自らの判断と責任のもとで行うべきものですが、一方、企業は社会的な存在であり、その社会のルールである法を遵守する義務があります。障害者の雇用の促進等に関する法律では第5条で事業主の責務が定められ、障害者が職業を通じての社会参加を進めていけるように、社会連帯の理念に基づき、障害者が職業を通じて自立できるように協力する責務を有し、適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を講じて雇用の安定を図るように努めなければならないとされています。障害者の法定雇用率制度を遵守し、従業員40人以上の企業にとっては、法定雇用率(2.5%)を達成することに留まらずに、障害者がその希望や障害特性に応じ、その能力や適性を十分発揮でき、生きがいを持って働けるように「雇用の質の向上」に努めることが求められています。事業主にとって、これらの取り組みを実行することは重要な経営課題の一つといえます。障害者雇用の拡大は大きな社会的課題です。障害者のことは「福祉の問題」であり企業が行う人事労務管理とは関係がない、法定雇用率制度への対応も未達成部分について納付金を納める方法を選択すればそれでよい、という発想は既に通用しなくなっています。最近では、SDGsに取り組むことが企業の社会的責務になっている中で、人事労務管理における考え方として「ダイバーシティマネジメント」が注目されており、女性や高齢者、外国人などと並んで障害者もその対象となってきています。グローバル化や技術革新の進展、従業員の価値観の多様化など、経営環境が変化する中で、人事労務管理についても、従業員個々人の能力や価値観の多様化をこれまで以上に重視したマネジメントへの改革・転換が求められています。各企業がESG❶を意識した取り組みを強化する中で、従業員エンゲージメントを高めていくことが重要視されていますが、障害者が働きやすい職場は従業員誰もが働きやすい職場づくりに応用できますし、障害者を支援することを通じて、上司や周囲の従業員のマネジメント能力の向上や職務役割に対する満足感を高めていくことにつなげていくことができ、職場のチームワークが強化された、職場の生産性の向上を図ることができたという事例も報告されています。これらを踏まえて、現在は障害者も組み込んだ新しい人事労務管理のシステムをつくるよいチャンスだともいえます。本章では、企業が行う人事労務管理の中で基本となる雇用管理について取り上げます。「障害者の雇用管理」といった場合、障害のない人とは別の独自の体系を作ることは、インクルージョンの理念からそれた対応になりかねません。障害者も従業員である以上、一般の雇用管理の対象となります。ただし、障害があることによる不利な部分をできる限り軽減し、能力発揮を促進するために、事業主は雇用管理上の配慮を最大限提供することが求められます。このような点を指して、ここでは「障害者の雇用管理」と呼んでいます。本章では、障害者雇用の質を高めていくために留意すべき事項を説明していきますが、これは、令和5年3月31日に定められた「障害者雇用対策基本方針」の事業主が行うべき雇用管理に関しての指針に基づき、事業主が取り組む必要のある各事項を基にしています。具体的には、「(1)採用及び配置」「(2)教育訓練の実施」「(3)待遇」「(4)安全・健康の確保」「(5)職場定着の推進」「(6)障害及び障害者についての職場全体での理解の促進」及び「(7)障害者の人権の擁護、障害者差別禁止及び合理的配慮の提供」の各事項となります。これらについて、第2節以降で障害者雇用の時系列に沿った形で、「受け入れ態勢の整備(理念と基本方針づくり)」「採用計画の作成と受け入れ部署の準備(受け入れの準備)」「募集・採用及び配置(採用手続きから配置までの対応)」「職場適応、職場定着の推進(入職後の雇用管理)」の順で解説します。本節では、障害者の雇用管理全般にかかわるテーマ障害者の力を活かせる組織・職場づくり
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