2第1障害及び障害者についての職場全体での理解の促進⑴ 障害者雇用の位置づけ 節企業は社会の一構成員として経済活動をしています。以前は、民間企業の事業目的は配当や株価の上昇などを通じた株主への利益還元や商品、サービスを通じての顧客満足度など経済活動が主とされ、フィランソロピーなど社会貢献や社員のWell Beingを意識した取り組みはあくまで企業の自主的活動とされていました。しかし、昨今はSDGsに代表されるように、社会全体においてサステナビリティ(環境、社会、経済の持続可能性)が求められるようになり、企業もまた、社会の一構成員として経済活動以外に、環境対策、人権の尊重、従業員エンゲージメントの向上、女性や障害者などマイノリティの活躍の推進など従業員の多様性(ダイバーシティ)や、多様な人材1人ひとりが職場のメンバーとして受け容れられ、尊重された状態を実現すること(インクルージョン)を考慮した職場環境整備を図っていくことも経営課題として重要視することが求められています。つまり、労働者のダイバーシティの取り組みの一環として障害者をあたりまえに組織に受け入れて企業ブランドを高め、ESG評価に的確に対応するとともに、さらに障害者と健常者の協働共生によるシナジー効果を企業力へと進化させ得る企業こそが、先進企業として社会から注目されるようになっているということです。それらの企業では、多様な価値観を持った障害者を採用・育成し、本業での活躍を通じて企業価値全体の向上を図るという取り組みを行っています。これら企業は障害者雇用を経営戦略の一部と位置づけているのです(第1章第3節参照)。以下の「A社」の事例は、障害者雇用は経営戦略であるという視点から、障害者支援の仕組みづくりに取り組んだケースです。41【ケース1】A社は「コンプライアンスの強化、法令遵守」を経営戦略の一つと位置づけて障害者雇用施策を推進していました。しかし、実際の取り組みとしては障害者雇用の方針を立案する本社人事部では社員研修の一環で形式的に障害者雇用に係る基礎知識や他社の取り組み状況の情報提供を行うに留まり、法定雇用率を達成することのみを目標に掲げている状況でした。具体的には、法定雇用率を達成することが強く唱えられ、実際の採用活動や雇用管理を現場任せにしていたため、各部署間での温度差が発生していました。この結果、社内の障害者雇用の理念や障害者の受け入れ風土が形成されず、障害者の雇用の質が高い企業とは言えない状況になっていました。この状況では障害者の働く意欲を喚起できず、長期就労に繋がらずに離転職が発生しやすい状況でした。また、働き方改革の一環で、従業員の多様化に対応していくために、「ダイバーシティ&インクルージョン」を経営戦略として打ち出すことになり、人事部の体制変更が行われました。ダイバーシティへの対応を担当する新たな担当者が配置され、障害者雇用についてもこれまでの取り組みの見直しを実施しました。そして、障害者雇用の推進のため、対策の強化が図られることになりました。この取り組みでは、まず、①会社として障害者雇用を推進していくのは本社人事部であることを明確にし、障害者雇用5か年計画を作成することとなりました。②この検討に当たっては、社内全体の受け入れ風土を変えたり、職務の提供を円滑に受けていくことが必要なため、各部署から委員を推薦してもらいプロジェクトが組織されました。さらに、③各現場からの様々な相談を受け付ける窓口を設置し、精神保健福祉士の資格を持つ社員を専任として配置しました。そして、この担当者によって、社内の事例の蓄積を図ることとしました。④従前から実施していた社員研修を見直し、基礎知識を付与する研修に加え、社内の様々な支社、部署での取り組み事例を元にした経験交流や意見交換を組み入れた研修を実施しました。また、受け入れた障害者への指導ノウハウを浸透するために企業在籍型ジョブコー受け入れ態勢の準備
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