令和6年度版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト
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64脳性麻痺は、受胎から新生児期(生後4週以内)までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的なしかし変化しうる運動および姿勢の異常であると定義されています。単一の病名で呼ばれていますが、痙縮型やアテトーゼ型などのさまざまな病型があり、実際の運動機能もほぼ寝たきり状態から走ることができるものまで幅が広く、さらに知的障害やてんかんなど肢体不自由以外の障害を伴うこともあります。そのため、単に脳性麻痺という診断名を確認するだけで無く、実際にその人が有している障害の全体像を把握することが大切です。脳性麻痺の人は、就労可能な人であっても、精神的緊張が高まると、不随意運動や筋緊張が高まって、作業が円滑にできなくなることがあります。とくに就労初期には、心理的・精神的ストレスが高じやすいので、リラックスさせるように心がけます。子どもの頃から長い間不自然な姿勢を続けたり無理な運動を行ったりするために、腰痛や膝関節痛などを障害のない人よりも早くきたす傾向があります。また、加齢とともに脊柱の変形が進行して、子どものころには歩けていた人が中年期には歩けなくなるといった二次性障害も大きな問題です。てんかんの服薬管理や、開口障害のある人の歯科受診などにも配慮が必要です。ウ 片 麻 痺脳卒中や頭部外傷などによる大脳の片側の損傷によって反対側の半身(上下肢)に生じた運動麻痺を片麻痺(へんまひ)と呼びます。多くの場合、運動麻痺と同じ範囲の感覚障害も伴います。脳卒中者の多くは、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの危険因子を脳卒中発症以前から有しています。就業中の再発予防のためには、これらの危険因子の管理が最も重要です。ライフスタイルの改善や定期的な内科受診などを促します。また、原因の如何に関わらず、大脳皮質に損傷がある場合には、しばしば二次性のてんかんを生じます。抗てんかん薬の服薬状況を確認したり、発作の誘因となる睡眠不足などを避けるように指導したりします。また、てんかんのある人には、機械運転や高所作業など危険を伴う作業は勧められません。片麻痺を有する人の多くは、麻痺以外の障害を伴っています。最も代表的なものは失語症ですが、そのほかに、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などからなる高次脳機能障害があります。とくに、運動麻痺や言語障害はあまり目立たないのに、発病前と比べて仕事の能率が著しく低下したり情緒が不安定になったりして、人間関係や社会生活に困難をきたしている場合には、高次脳機能障害を疑う必要があります。そのようなときには、全国に設置されている、高次脳機能障害支援拠点機関に相談するとよいでしょう。片麻痺を有する人の多くは、発病前と比較し現在の自分の能力を悲観して、焦りやストレスを感じています。復職後には、職務内容の変更などの検討や、メンタルヘルスケアが必要になることがあります。エ 切   断切断の原因には、労働災害や交通事故などによる外傷と、糖尿病性壊疽や閉塞性動脈硬化症などの疾病とがあります。近年は労働者の高齢化や糖尿病の増加などにより、疾病による切断が増える傾向にあります。疾病による切断の場合には、主治医による基礎疾患の継続的な医学的管理が必要です。食事や運動などの生活習慣の改善も重要です。特に体重増加は義足への負担となるので注意が必要です。切断者の多くは義肢(義手、義足)を使用していますが、義肢と接触する切断端にはさまざまなトラブルが発生します。義肢の取り扱いや切断端の処置については、本人が主治医や義肢装具士などから指導教育を受けているので、自己管理に任せてください。② 視覚障害者の健康と安全(第3章第2節参照)視覚障害には、まったく視力がない全盲の状態と、視機能が低下して日常生活に支障をきたしているロービジョン(弱視)とがあります。ロービジョンには視野狭窄、中心暗点、羞明、色覚異常、夜盲症、複視などさまざまな症状があり、一人ひとり見え方が異なります。視覚障害の原因には、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、網膜剥離、緑内障など多くの疾患が含まれます。近年、特に増加しているのは糖尿病性網膜症による中途失明です。糖尿病の場合には、主治医による十分な管理のもとで、食事管理や服薬、インスリン注射などが規則正しく行われるよう配慮が必要です。視覚障害者は衝突や転落の危険を回避することが困難なので、職場内外の物理的環境の整備は特に重要です。また、ロービジョンの人については、特有の見えにくさに応じて、職場内の表示や照明を最適化するように努めます。その他、見えないことによる職場内での疎外感やストレスに注意を払い、必要に応じて健康

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