⑷ 職業訓練の指導のポイント害者の多くが、障害特性のために思うようにできないもどかしさを感じており、彼らの自信の回復や自発性の拡大が職業上の課題であるからです。従って、この段階では動作を確認しながら、その場で誤りを修正すると同時に少しの進歩でも褒め、内的な動機付けを高めることが必要になります。さらに、作業のミスについては、なぜ失敗したか、どこが悪かったかを一緒に考え、本人が納得するような対応策を見出していくことも必要です。④ 第四段階「総括」「総括」は、訓練結果を検証して目標に達したか否かの確認をする段階です。「チェックポイントにしたがって、訓練結果を評価する」→「訓練のポイントを再度確認し、次の訓練課題に活かす」というステップで展開します。【指導上の配慮】障害者の中には環境適応が苦手な者が少なくありません。そのために、実際の作業を体験して慣れるという過程が必要であり、一課題ごとの評価が実態に沿わない場合もあります。そこで、短期間の評価に加えて環境適応という長期の変化をも見据えた視点から総合的に評価し、本人のできる作業を見出していくことが重要になってきます。いわば、長期間にわたった実習内容から適性を見出していくのです。小さな一歩を踏み出してみて、うまくいけばもっと頻繁にやる、うまくいかなければ、別の小さな一歩を試みるのです。こうした小さな成功の積み重ねによって、障害者のできる内容を見極めていくことが大切です。障害者に対して職業訓練を実施するときは、障害種別に関わらず指導全般で共通となるポイントがあります。1つ目が、指導する者と指導される者との「関係づくり」が大切なポイントになります。2つ目は、実際の仕事を教えるときの情報発信のしかたとして「指導上の指示・手がかり」がポイントになります。3つ目が、ミスの原因を追究し改善していく「フィードバック」がポイントになります。最後に、最も重要なポイントが、障害による制限を克服する手立てとしての「障害状況に応じた指導」です。以下、それぞれについて紹介します。① 関係作りのポイント職業訓練には指導する側と指導される側との、いわば立場の異なる対人関係があります。また、障害者との関わりでは、障害特性から対人関係やコミュニケーションに課題を抱えていることもありますので、関係作りはとりわけ大切です。こうした関係をうまく成立させるには、相互の信頼関係を築くことが大前提になります。信頼関係は一朝一夕に築くことはできませんので、段階的に築いていくことが必要です。第一段階は、誘い込みです。誘い込みとは、訓練への導入であり、訓練内容に興味を持つように障害者を引き込んで、その雰囲気を味わわせることです。この段階では、障害者とのコミュニケーションを重視し、特に障害者の話すことを徹底的に聞いて、安心感を与えます。第二段階は、指導者に関心をもってもらうことです。そのために、まず、指導者は、障害者に呼びかけたり、障害者からの話しかけに応えたり、あるいは応えやすい話を向けるなど、障害者に関心があることを積極的に示す必要があります。その一方で、指導者は、障害者が指導者に関心を示すような僅かなサインを見逃さないように、常にアンテナを張っておく必要もあります。第三段階は、指導者への関心をさらに深めてもらうことです。そのためには、声かけしながら近づくことを頻繁にしていきます。障害者が困っているような様子のとき、あるいはふだんと少し様子がちがうとき、あるいは必要がないようなときでも、できるだけ頻繁に、声かけしながら近づくことです。声かけを繰り返すことで、やがて向こうから呼び止めてやり方を聞いてくるようになります。以上のような段階的な心積もりで関係作りをしていき、指導者は障害者の関心の深まり具合を確認しながら信頼関係を築いていくのです。② 指導上の指示・手がかりのポイント「人を見て法を説け」というとおり、障害者本人に合わせた指導法をとることが重要です。しかし、その方法にはいくつかのタイプが経験的にあるといえます。指導者が障害者本人に何らかの影響力をもたらす手段(媒体)からみると、次の6つの指示・手がかりの方法があります。ア 言葉で示す方法言葉で「……しなさい」と伝えて指導する方法です。ただし、指導者の話し言葉に曖昧な表現があったり、抽象的であったり、周囲に雑音があったりすることにより意図が伝わらないことがあります。障害特性上、一般的には伝わるレベルの言葉でも、ほ89
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