94活動を諦めている多くの障害者にとって、テレワークでの在宅勤務雇用は救いになるでしょう。とはいえ、いままで職場で作業してきたことをテレワークに変更することで、働き方や仕事環境に大きな変化が生じます。この変化に障害者本人が対応できるように、何らかの職業訓練が必要になります。ここでは、障害者のテレワークを導入するときの職業訓練について、いくつかのポイントを紹介します。まず、テレワークではPCを使うので、PC操作に関する職業訓練が必要になります。たとえ職場でPCを使って作業をしていたとしても、それは作業という一場面でしかPCを操作していません。テレワークだと、PCの起動、ネットワークの接続、作業の開始と終了、指示の受信や報告の送信、PCの終了といった一連の操作を障害者本人ができる必要があります。また、PCトラブル等の発生時に備えて、状況に応じた判断、遠隔からの指示を受けながらのトラブル対応もできるとよいでしょう。テレワークを導入している企業では、メール、チャット、web会議システム、電話といった多様なコミュニケーションツールを活用しています。トラブル発生時に連絡手段がなくなるという事態を避けるとともに、これらのツールの操作を習得する職業訓練を実施します。もちろん、テレワークと相性が悪い障害特性の人もいます。例えば、マウスやキーボードでの操作が難しかったり、長時間ディスプレイを見るのが困難だったり、状況に応じた判断が難しかったり、文字ベースでの指示理解が難しかったりするときは、テレワークよりも職場で勤務するほうが相性が良いでしょう。逆に、テレワークの方が相性が良くて作業効率が上がる人もいます。そこで、PC操作に関する職業訓練を実施するときに、テレワークとの相性についても見極めるようにします。つまり、テレワークで働くかどうかの最終判断は、職業訓練後に決定することがポイントです。また、職業訓練で利用する機器等は、テレワークで実際に使う機器と同じものに揃えることもポイントです。違う機器だと画面表示等が異なることがあり、その些細な違いによって、つまずく要因になることがあるからです。可能なら、テレワークする人は全員同じ機器に揃えたほうが、利用方法やトラブル対応を説明するときに楽になります。次に、PC操作の習得後は、テレワークをトライアルすることがポイントです。障害者本人だけで作業する環境を再現するために、職場内の個室を自宅にみたてて、障害者本人は個室に1人で居て、コミュニケーションツールの指示だけで作業をしてもらいます。もし、障害者本人が職場に移動できず自宅でトライアルするときは、支援者が自宅近くで待機します。これなら、もし障害者本人が対応できない事態が発生したとしても、すぐに支援者が駆けつけることができます。それに加えて、障害者本人はテレワーク時の孤立感について、支援者は障害者本人の体調判断について、どの程度なのか確認できます。そして、テレワークを本格的に開始する前に対策を立てることができます。このように、いきなりテレワークを開始するのではなく、充分に訓練を積んでから開始することで定着しやすくなります。もちろん、訓練以外にも、雇用管理や緊急時の連絡体制など事前に決めておくべきこともたくさんありますので、準備を怠らないよう気をつけてください。【参考文献】1)…障害者職業総合センター調査研究報告書No.70:「精神障害者の職業訓練指導方法に関する研究」(2006)2)…田中萬年・大木栄一編著:「働く人の『学習』論」学文社(2007)3)…南雲直二監修:「重度障害者の職業リハビリテーション入門」荘道社(2010)4)…道脇正夫:「障害者の職業能力開発[改訂新版]」雇用問題研究会(2011)5)…新井吾朗,上田勇仁,小澤力,佐藤大介,谷口雄治,中村陽文,深江裕忠,湯浅幸敏:「12訂版 職業訓練における指導の理論と実際」職業訓練教材研究会(2022)6)…厚生労働省:「都市部と地方をつなぐ障害者テレワーク事例集」…厚生労働省(2020)7)…障害者職業総合センター調査研究報告書No.171:「テレワークに関する障害者のニーズ等実態調査」(2023)(深江 裕忠)
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