【表紙】 令和8年10月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第589号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2026/11 No.589 職場ルポ ジョブコーチらの支援体制で、介護現場の戦力に 社会福祉法人陶都会 ドリーム陶都(岐阜県) グラビア ラーメン店の花形、「厨房」を切り盛りする 株式会社桝元 辛麺屋桝元 原田店(福岡県) 編集委員が行く 大学におけるすべての「人」のエンパワーメントを目ざした取組み 国立大学法人筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局(茨城県) 私のひとこと 「通えないこと」を越えて――障害者へのテレワーク就労支援 明星大学人文学部福祉実践学科 准教授 縄岡好晴さん 「たたら機くるくる」福岡県・平山(ひらやま)天翔(てんしょう) 11月号 【前頁】 心のアート 優しい王様 マイマイ (一般社団法人ドアレスアートオキナワ) 画材:アルコールマーカー、ミリペン、色鉛筆、ケント紙/サイズ:297mm×420mm  絵は物心ついたころからずっと描いていましたが、双極性障害を患いながら本格的に始めたのは、2023(令和5)年に障がい者アート支援団体に所属してからです。いままで趣味として描いていたものが、表現として開花し始めている今日このごろ。ちょっとずつですがお客さまの手に渡るようになりました。コンセプトは「心の解放」と「日常の中の非日常」で、絵を通して非日常を味わい心の解放を感じてほしいです。これからも楽しんで絵を描いていきます。  題材は、迫力があり威厳のある姿で描かれることの多い百獣の王ライオンですが、多くの時間を寝て過ごすなどネコ科らしい一面もあり、狩りのことを気にしないのんびりとした時間は、やさしい顔をしているのかなと思いました。そんな一面を切り取った作品です。 (文:マイマイ) マイマイ 1978(昭和53)年生まれ 2017(平成29)年 「第13回こころの芸術・文化フェスティバル 絵画の部」(沖縄県那覇市/沖縄県立博物館・美術館)奨励賞『逆説・対岸の火事』 2023(令和5)年 「ドアレスアートオキナワ with haishop展示販売会」(神奈川県横浜市/haishop)出展 2025年 ホテルパームロイヤルNAHA国際通り(沖縄県那覇市)のアートコンペで6作品が入選し、客室に飾られる 2026年 デパートリウボウ展示販売会「FLOWERS―多彩な花畑―」(沖縄県那覇市/デパートリウボウ5F特選サロン)出展 【もくじ】 障害者と雇用 目次 2026年11月号 NO.589 「働く広場」は、障害者雇用の啓発・広報を目的として、ルポルタージュやグラビアなど写真を多く用いて、障害者雇用の現場とその魅力をわかりやすくお伝えします。 心のアート 前頁 優しい王様 作者:マイマイ(一般社団法人ドアレスアートオキナワ) 私のひとこと 2 「通えないこと」を越えて――障害者へのテレワーク就労支援 明星大学人文学部福祉実践学科 准教授 縄岡好晴さん 職場ルポ 4 ジョブコーチらの支援体制で、介護現場の戦力に 社会福祉法人陶都会 ドリーム陶都(岐阜県) 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 クローズアップ 10 安心して働き、能力を発揮できる職場の環境づくり 第4回 ミスマッチを防ぐ「伴走型」マッチングの極意〜入社後の変化を見逃さない〜 JEEDインフォメーション 12 JEEDメールマガジン 新規登録者募集中!!/「障害者雇用事例リファレンスサービス」を活用して「働く広場」の掲載記事が探せます!/第46回全国アビリンピック グラビア 15 ラーメン店の花形、「厨房」を切り盛りする 株式会社桝元 辛麺屋桝元 原田店(福岡県) 写真/文:官野 貴 エッセイ 19 強迫性障害の私が、自分らしく働けるようになるまで 第4回 好きなことを仕事にした 漫画家・イラストレーター つくし ゆか 編集委員が行く 20 大学におけるすべての「人」のエンパワーメントを目ざした取組み 国立大学法人筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局(茨城県) 編集委員 前原和明 省庁だより 26 令和8年版障害者白書概要�@ 内閣府ホームページより抜粋 研究開発レポート 28 「就労支援のためのアセスメントシート」の効果的な活用方法に関する研究 障害者職業総合センター研究部門 障害者支援部門 ニュースファイル 30 編集委員のひとこと 31 掲示板・次号予告 32 読者の声 表紙絵の説明 「窯業班でのたたら機の作業が好きだったので、この題材を選びました。たたら機は、細かいところも多くてたいへんでしたが、線がはみ出さないように塗るのをがんばりました。描いているうちに、かさねて色を塗ると影のようになるのに気づいて、とてもおもしろかったです」 (令和8年度障害者雇用支援月間絵画コンテスト 中学生の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。 (https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html) 【P2-3】 私のひとこと 「通えないこと」を越えて ――障害者へのテレワーク就労支援 明星大学人文学部福祉実践学科 准教授 縄岡好晴  就労支援の現場に身を置いていると、「働く意欲はあるのに、職場まで通うことができない」という声に、たびたび出会う。働くこと自体ではなく、そこへ「通うこと」が壁になっている人が、たしかにいるのだ。テレワークの有用性は以前から指摘されながら、現実にはなかなか広がらなかった。それが、新型コロナウイルス感染症の流行を機に一気に普及し、このみえにくい壁を静かに崩しはじめている。私はこれを、一過性の流行ではなく、「働く」という営みの前提を問い直す動きとして受けとめている。 調査が映し出すもの  JEED障害者職業総合センターの調査研究報告書No.171(※)では、テレワークを経験してよかった点として「通勤の負担軽減」がもっとも多くあげられた。当事者への聞き取りでも、通勤から解放され、その時間を治療や生活にあてられることの意味が語られている。これらはだれにでもあてはまることでありながら、障害のある人にとっては、とりわけ切実なものだ。働きたいのに求職活動をしていない人にその理由をたずねた結果でも、「障害のために通勤ができない」、「通勤できる範囲に希望する職場がない」といった、移動にまつわる困難が上位を占めた。もっとも、希望する働き方としてもっとも多く選ばれたのは「テレワークと出勤の組合せ」である。在宅か出勤かではなく、双方の利点を活かしたいという、地に足のついた感覚がにじむ。  企業側からも、現状がみえてきている。山口らの全国企業調査(2022年)では、回答企業の約半数が、障害のある従業員のテレワークを実施、または実施した経験をもっていた。その多くは、もともと雇用していた障害のある従業員がテレワークに移行した事例である。裏を返せば、テレワークを前提に新たに職を得る道筋づくりは、これからの課題だといえる。になう業務は資料作成や事務、経理、データ入力などが中心だが、システム開発やAI関連のデータ処理といった、いわゆるデータワークも一定数を占めていた。導入の動機には、感染症拡大の防止に加え、通勤負担の軽減や、障害特性に合わせた労働環境の改善もあげられている。 海外の動向から  こうした傾向は、海外の研究とも重なる。米国のSchur et al(2020)は、障害のある労働者は障害のない労働者よりも在宅で働く割合が高く、とりわけ移動や外出に困難を抱える人で、その傾向が強いと報告している。欧州の研究でも、テレワークが障害のある労働者の職務満足を高め、欠勤を減らすと報告されている。感染症拡大下では、世界保健機関(WHO)が障害者のテレワークを後押しする見解を示し、各国で在宅勤務が一気に広がった。  テレワークを「合理的配慮」の一つととらえる議論も進んだ。従来は在宅勤務を配慮と認めることに慎重な見方もあったが、コロナ禍での普及が、そのとらえ方を後押ししている。障害者に特化した研究も、早くからその意義を論じてきた。Linden & Milchus(2014)は、就労する障害者を対象とした調査から、テレワークが痛みや疲労による就労の壁を和らげ、柔軟な働き方を可能にする配慮となりうることを示した。Moon et al(2014)も、企業がテレワークを、障害への配慮であると同時に、業務を組み立て直す機会としてもとらえていることを明らかにしている。  一方で、楽観だけを語るわけにはいかない。Schur et alは、在宅勤務であっても障害の有無による賃金格差は縮まらず、障害のある人が就いている職種は、そもそも在宅で完結しにくいものが多いと指摘する。テレワークが、職場での合理的配慮や、人と人とのつながりづくりを免除する口実になってはならない。孤立や昇進機会の損失といった負の側面に目を配ることも、欠かせないのである。 支援者にできること ――アセスメントの視点から  では、支援の現場は何を見立てればよいのか。先の山口らの調査で、企業が支援機関にもっとも多く求めたのは、「パソコンなどの作業スキルを高める訓練」であった。続いて、「本人の工夫と周囲の配慮のバランスを見つける訓練」や、特性に応じたコミュニケーション力の育成があがっている。これらは、本人の力だけでも、環境の調整だけでもなく、その両方を見立てるという、アセスメントの基本に重なる。テレワークによる就労を支えるうえで欠かせない視点を、表に整理した。  大切なのは、一律に在宅をすすめることではない。その人の特性や暮らしに合った形を、ともに探る姿勢である。山口らの調査でも、遠方で働く社員を、地域の支援機関がフォローする企業の姿が報告されていた。テレワークは支援の必要を減らすのではなく、その形を変える。仕事の切り出し、本人の理解、環境の調整、そして地域の支援体制との連携――にない手としての専門性が、これまで以上に問われている。  テレワークは万能の答えではない。それでも、選べる働き方が一つ増えることの意味は、決して小さくない。大切なのは在宅で働くこと自体ではなく、一人ひとりが自分らしいやり方で働き、住み慣れた地域で暮らし続けられる道筋を、いくつも用意しておくことだろう。障害のある人が、ほかのだれかになるのではなく、その人のままで地域に居場所をもち、働き、暮らしていく。テレワークが、その願いを少しでも前へ進める手立てとなることを、願ってやまない。 文献 1)障害者職業総合センター(2023)テレワークに関する障害者のニーズ等実態調査(調査研究報告書��171) 2)山口明日香(2022)国内の企業においてテレワークで働く障害者の現状に関する研究.令和3年度厚生労働省科学研究費補助金(障害者政策総合研究事業)(総括)研究報告書 3)Schur, L. A., Ameri, M., & Kruse, D. (2020) Telework after COVID: A “silver lining” for workers with disabilities? Journal of Occupational Rehabilitation, 30(4), 521-536. 4)Linden, M., & Milchus, K. (2014) Teleworkers with disabilities: Characteristics and accommodation use. Work,47(4), 473-483. 5)Moon, N. W., Linden, M. A., Bricout, J. C., & Baker, P. M.(2014) Telework rationale and implementation for people with disabilities: Considerations for employer policymaking. Work, 48(1), 105-115. 6)World Health Organization (2020)Disability considerations during the COVID-19 outbreak. 表 テレワークによる就労を支えるアセスメントの視点 視点 何を見立てるか 支援・訓練の手がかり 仕事(タスク) 在宅で切り出せる業務は何か(資料作成・事務からデータ入力、プログラミング・AI関連まで) 業務の切り出しとマッチング、職務試行 本人 作業スキル(パソコン等)、コミュニケーションの特性、体調や自己管理の力 ICTスキルの訓練、特性の自己理解、健康・生活面の支援 環境・配慮 本人の工夫と周囲の配慮のバランス、つながりの保ち方 合理的配慮の調整、地域支援機関との連携、孤立を防ぐ仕組み 出典:山口(2022)「国内の企業においてテレワークで働く障害者の現状に関する研究」(令和3年度厚生労働省科学研究費補助金研究報告書)をもとに筆者作成 縄岡好晴 (なわおか こうせい)  明星大学人文学部福祉実践学科准教授、東京医科大学兼任講師。自閉症eサービス@TOKYO代表。専門は、自閉スペクトラム症のある人への成人期の支援(就労支援、強度行動障害支援、地域の支援人材育成など)。TEACCH Autism ProgramやASDへの就労アセスメント(TTAP・BWAP2)を基盤に、個別の実践支援と、東京・群馬・山梨・長野などでの広域的な支援体制づくりの双方にたずさわる。「障害のある人が、その人らしく地域で幸せに暮らせること」を支援の原点に据え、現場と制度をつなぐ研究と人材育成に取り組んでいる。著書に『自閉スペクトラム症支援ガイド』(北樹出版、2026年11月刊行予定)ほか。 ※調査研究報告書No.171「テレワークに関する障害者のニーズ等実態調査」 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku171.html 【P4-9】 職場ルポ ジョブコーチらの支援体制で、介護現場の戦力に 社会福祉法人陶都会 ドリーム陶都(岐阜県) 介護老人福祉施設では、ジョブコーチらを中心とする支援体制を整え、障がいのある職員一人ひとりに合わせた業務の設定と育成計画によって、安定就労とキャリア形成をうながしている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 取材先データ 社会福祉法人陶都会(とうとかい) ドリーム陶都 〒509-5202 岐阜県土岐市(ときし)下石町(おろしちょう)304-839 TEL 0572-57-5722 FAX 0572-57-5733 Keyword:知的障害、精神障害、発達障害、介護施設、農業、ジョブコーチ、障害者職業生活相談員 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、社会福祉法人陶都会ドリーム陶都様のご意向により「障がい」としています POINT 1 企業在籍型ジョブコーチと「障害者職業生活相談員」を中心に、職場全体の支援体制づくり 2 特性や能力に合わせた業務と育成計画・人事評価で、キャリア形成を後押し 3 敷地内の農園を活用し、農福連携事業を通じた地域人材の採用も 職場実習の受入れが契機  陶磁器の美濃焼(みのやき)で知られる岐阜県土岐市にある介護老人福祉施設「ドリーム陶都」(以下、「ドリーム陶都」)は、社会福祉法人陶都会が2004(平成16)年に設立した。4階建ての施設で特別養護老人ホーム(定員80名)、ショートステイ(定員20名)、ケアハウス(定員30名)を運営している。  ドリーム陶都は、特別支援学校から職場実習生を受け入れ始めたことを機に、障がいのある職員も採用するようになった。いまでは全職員95人のうち障がいのある職員は7人(身体障がい2人、知的障がい1人、精神障がい4人)で、「障害者雇用率」は7.4%という(2026〈令和8〉年6月1日現在)。また、社会福祉法人陶都会は、2025年度に「障害者雇用優良事業所」として独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰を受賞している。  施設長の小川(おがわ)大輔(だいすけ)さんは、「『企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)』(※1)と『障害者職業生活相談員』(以下、「職業生活相談員」)(※2)を中心とする支援体制を土台に、職員一人ひとりに合った業務の組合せや配置、育成の仕組みなどを整えてきました」と語る。人手不足が課題となっている高齢者介護の現場で、障がいのある職員も安心して働き、戦力となっている様子と職場の取組みを取材した。 6人のジョブコーチと職場内の委員会  ドリーム陶都は2015年、岐阜県教育委員会が推進する特別支援学校向けの就労支援制度「働きたい!応援団ぎふ」のサポーター企業に登録したことから、職場実習生を受け入れることになったという。小川さんによると、当時は「職員たちに福祉分野の視野を広げてもらいたいとの意図がありました。また人材不足の予測もあり、障がい者雇用の可能性を検討する機会にもなると考えていました」。  職場実習では、介護現場の間接業務として清掃、お茶配り、食器洗いなどを担当してもらうことから始めた。毎年のように実習生を受け入れ、ハローワーク経由などで採用して障がいのある職員が増えるにしたがい、職場内の支援体制を検討し始めたそうだ。  「職場実習生を受け入れるからには相応の責任が生じるほか、障がいのある職員の指導・育成も考えると、ある程度の専門知識を学んでおく必要があると考えました。いろいろ調べたところ、JEEDの企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修について知りました」  2019年から3年間で小川さんら5人が養成研修を受講し、現在ジョブコーチは6人。うち2人が「障害者職業生活相談員資格認定講習」も受けた。  職場では、ジョブコーチと職業生活相談員を中心とする支援体制を整えた。障がいのある職員が入職すると、その職員に担当者をつけ、担当者は仕事の支援や相談役であるジョブコーチと連携しながら、本人やフロア職員と業務内容やタイムスケジュールを共有している。通常は日勤リーダーが各フロアに1人ずついるため、障がいのある職員が業務に関して困ったことや悩んだことがあったときの窓口にもなる。その場で解決できることについては解決し、すぐに対応できないことについては、担当者またはジョブコーチに報告をして解決策を考えている。  職場全体で「障がい者雇用支援対策委員会」(以下、「委員会」)を設置し、委員会は職業生活相談員を委員長とする9人で構成され、2カ月ごとに支援内容のフィードバックや課題検討、施設内研修などを行っている。日ごろの支援内容や課題を含めた情報はジョブコーチ間では当然のことながら、委員会内でも共有して、施設全体で支援できるようにしている。  委員長を務める牧村(まきむら)誠紀(せいき)さんは、「委員会の内容は各部署にも伝え、施設の全職員に理解をうながしながら、どこでもいつでもみんなで支え合える体制づくりを図っています」と説明する。  日ごろの職場では、業務の説明や指示について、本人が納得できなかったり十分に理解できなかったりして、作業を進められないこともある。ジョブコーチの一人、各務(かかむ)竜也(たつや)さんは、「勤務のすれ違いなどで担当者が対応できないときもありますが、複数のジョブコーチと職業生活相談員が情報共有しているので、本人はつねに現場のだれかに相談できます。職員全員にとって負担の少ない職場環境になっていると思います」と話す。  さらに、本人の特性や能力などに応じた育成計画を作成し、定期的な面談で「できていること」を一緒に確認しながら課題や不安などを共有。キャリアラダー(職務能力を段階的に高めていく仕組み)で成長をうながしている。  中長期的なキャリア形成の道筋を示すキャリアパスと、それにともなう人事評価も導入した。もともと一般職員向けの仕組みはあったが、障がいのある職員向けには牧村さんたちが独自に作成し、現在も内容の改善・更新を重ねているという。  小川さんは「だれもが仕事を通じて達成感や自己有用感を得るために、キャリアラダーやキャリアパスのような仕組みは必要です。年2回の人事評価で給与や賞与が上がっていく道筋を示すことは、やりがいを持って働き続けるモチベーションにもつながります」と説明する。  こうした支援体制のもと、安定した働き方をしている3人の職員を紹介したい。 シーツ交換から業務を広げる  2019年に採用された山田(やまだ)和也(かずや)さん(26歳)は、特別支援学校在学中、ドリーム陶都や大手メーカーで職場実習を経験した。「利用者さんたちにお茶を配ったり、話し相手をしたりして、『ありがとう』といってもらえたのがうれしかったです」と、ドリーム陶都への就職を希望したという。  入職直後、山田さんは「直接介護を担当したい」と意欲をみせていたが、いざやってみると、けがをさせてしまう不安が大きくなったという。その不安な気持ちを当時の担当者に相談すると、食器洗いや居室掃除などの間接業務に従事することになった。  その後、前任者から引き継ぎ、山田さんの担当者になったのが松本(まつもと)将平(しょうへい)さん。松本さんが担当者になってから山田さんの職務能力のさらなる伸びを見込んだ施設長の小川さんは、松本さんに「ベッドのシーツ交換に挑戦してみたら」と提案。そこで、牧村さんや松本さんたちが、わかりやすい手順書を作成し、山田さんへのマンツーマンでの指導が始まった。指導役の松本さん自身も介護職員としての業務があるため、それまでシーツ交換を担当していたシニア職員や日勤リーダーも代わるがわる指導したという。「最初は、きれいに布団カバーにおさめることに苦労しました。いろいろな職員さんに教えてもらいながら、よりよい方法を自分なりに考えていきました」と山田さん。  いまでは施設の4階にあるケアハウス入居者分を2人で担当する山田さんは、取材当日もテキパキと作業を進めていた。松本さんも「いまでは私よりずっと上手です」と認め、見学者らに見本を披露するほどの腕前だ。ドリーム陶都では、山田さんの成功例を機に、職場実習生にもシーツ交換を体験してもらうようになった。  山田さんの1日の勤務時間は8時半〜16時半だ。利用者の日常生活に合わせたさまざまな業務を担当している(表1)。特にシーツ交換は、利用者によって居室を空ける時間が異なるため臨機応変な対応も求められるという。1日3回の体操の時間には、利用者を前に一人で見本を見せる役だ。  「彼がいないと本当に困ります」と話す松本さんは、山田さんの働きぶりについて「仕事の進め方を自分で考え、急な予定変更にも冷静かつ柔軟に対応できるのが強み」としたうえで、「変更内容を伝え忘れるなど、コミュニケーション不足があることも事実です。確実な情報共有ができるようになると、さらに活躍できると思います」と期待を寄せる。  山田さんは2024年から一人暮らしを始めた。きっかけは、自宅からの通勤に使っていた路線バスの運行がなくなったことだった。「退職するかもしれない」と相談を受けた松本さんと牧村さんは、施設から徒歩数分のアパートを紹介。「一人暮らしは不安」と反対する山田さんの親とも話し合い、職場の給食を利用できるようにすることや生活費の管理について職場側がアドバイスすることなどを約束して、許可を得たという。  牧村さんは「彼はドリーム陶都にとって必要な存在であり、本人もここで仕事を続けたいという気持ちがありました。それなのに通勤の問題だけで退職せざるを得ないという状況は回避したかったのです」と明かす。思いがけない事情から一人暮らしを始めた山田さんだが、「いまでは自分でチャーハンなどもつくれるようになりました」と頼もしい表情で教えてくれた。 主治医と話し、配慮内容に活かす  特別養護老人ホームとなっている3階フロアの一角。作業台の上には、衣類が入ったネットが積み上げられていた。「これは、利用者さんたちの入浴セットです」と説明してくれたのは、2020年入職の丸角(まるすみ)久子(ひさこ)さん(45歳)だ。  洗濯ずみの衣類を次回の入浴時の着替えとしてセットする業務で、ネットのネームタグと衣類の名前が一致しているか一つずつ確認し、入浴予定表に記入する。衣類やバスタオルの破れ、ポケット内の異物なども確認し、名前が薄くなっていればサインペンで上書きするという。そのほか、業務の一環として新聞紙を一枚ずつ折って重ね、使用ずみおむつを包むための準備もする。  丸角さんの1日の勤務時間は、現在は9時から13時(表2)となっている。基本的に一人でできる作業を中心に組み合わせ、その日の状況に応じて業務内容を入れ替えている。  丸角さんは精神障害者保健福祉手帳を所持し、以前はゴルフ場でバックヤードの仕事を3年ほどしていた。コロナ禍の影響で会社都合により退職したのを機に、「人の役に立つ仕事がしたい」と介護職員初任者研修を修了。介護施設の就職あっせん会社から「紹介するのはむずかしい」といわれたものの、ハローワークに相談し、ドリーム陶都を紹介されたそうだ。  面接では、主治医の判断もあり「当面は4時間勤務で日勤のみ」、「業務の指示は文章ではなく表にしてほしい」と伝えた。入職後は、ごみ回収や物品補充、シーツ交換などから始めたが、利用者を乗せた車いすを押すようになると「利用者さんの手などが車輪に挟まれるのではないか」と不安を感じるようになった。牧村さんたちに相談し、直接介助はせず、間接業務だけに絞った。  「いまも正直、不安なことはたくさんありますが、以前の職場と違って、相談できる人が多くいるので安心できます。何より職員全員が、私のことを理解しようとしてくれているのを感じます。精神的に崩れたときも支えてもらえる支援体制が、ドリーム陶都のすごくよいところだと思います」  じつは牧村さんは、丸角さんの同意を得て、一緒に主治医からの説明も受け、丸角さんの特性や配慮すべき点などについて助言してもらったという。丸角さんは「牧村さんが主治医に会ってくれて、ありがたかったです。主治医も『こんなに親身になってくれる職場はないよ』といってくれています」。  現在の目標は「シフト表通りに出勤できるようになること」だそうだ。雨の日などは業務表を確認し、「今日はこの作業が重要だな」、「出勤したらまずこれをやろう」などと心の準備をしてから出勤するようにしている。逆に帰宅後は、いったん仕事のことは考えず、好きな音楽を聴いてリラックスし、早めの睡眠を心がけている。  「いまは、不安な気持ちよりも、仕事をして楽しいと思える時間のほうが多いです。仕事をしていて『ありがとう』といわれること自体がすごくうれしい。安定して長く続けていきたいです」 利用者との交流が喜び  2024年11月に入職した伊東(いとう)智康(ともやす)さん(59歳)は、以前は就労継続支援A型事業所に通っていたそうだ。「対人不安が強く、自閉傾向もあります」という伊東さんは、A型事業所では竹を使った健康器具などをつくっていた。地域の居場所活動にも参加しており、その仲間の一人がドリーム陶都に入職していた縁もあって、「自分もここで働いてみたい」と希望したという。  現在は週3日の14時〜17時勤務で、リネン類の確認と配付、シーツ交換、浴室設備の消毒などを担当している。「利用者さんに直接かかわる仕事ではないですが、リネン配付は居室を回るので、そのときにちょっと会話ができたりできなかったりという感じです」(伊東さん)  勤続2年となる伊東さんは、「これまで働いてこられたのは、温かい人的環境に恵まれたことが大きかった。そこは本当に強調しておきたいです」と話す。  「職員に『どうぞ来てくださいね』という雰囲気で受け入れてもらえました。それでも最初のころは、自分の心もかたくなに閉じていたんです。ガチガチでした。それでも職場のみなさんは黙って見守ってくれているようでした。私についての理解と対応のおかげで、じわじわと安心感が出てきて、いまではこんなにべらべら話せるようになりました」  伊東さんはいまも病院やカウンセリングに通っているが、自閉傾向にともなう課題にも少しずつ対処できるようになったという。  「A型事業所では一日中、だれとも話さずモノを相手にしていましたが、ドリーム陶都では、毎日少しずつ人と接することができます。ささやかな交流に喜びを感じられ、やりがいになっています」  今後の目標は、「利用者さんたちの心の声をくみ取れるようなセンサーを磨くこと」だそうだ。休日には、地域の高齢者宅で話し相手をする活動にも参加している。担当の松本さんは、「自身の症状についての理解度が高く、前向きに努力し続けながら、業務にまじめに取り組む姿勢が大きな長所です。自分自身をうまくコントロールしながら、業務を効率的、安定的にこなすことで、新しいことにも挑戦していってほしい」と激励する。 農福連携事業からの採用  ドリーム陶都は2018年ごろ、敷地内に農園と養鶏場をつくった。利用者からの「野菜や花を育てたい」という要望に応えたものだが、現在は農福連携事業の一環として、引きこもり経験者など就労に困難を抱える人たちを対象とした認定生活困窮者就労訓練事業も実施している。  農園ではトマトや落花生、スイカ、イチゴ、ローゼル(食用ハイビスカス)などを育て、鶏舎では約30羽の鶏を飼っている。鶏卵は、愛知県内のカフェやレストランで提供されるほか、土岐市のふるさと納税返礼品にもなっている。イチゴやローゼルは、ジャムに加工して販売しているそうだ。  農園での就労訓練事業について、事業開始当時の受入れ担当の各務さんが説明する。  「例えば引きこもり経験者は、いきなり大勢の人と一緒に作業するのはむずかしいですが、農業なら一人で進められます。まず単独で草取りや苗植えを担当してもらい、慣れてきたら2人で作業し、利用者や職員も加わっていきます。さらに本人が希望すれば、施設内の仕事にも挑戦してもらいます」  これまで就労訓練に参加した8人のうち6人が、そのままドリーム陶都に入職している。なかには20年、30年にわたる引きこもり経験者もいたという。  ジョブコーチとして施設内での指導にもあたる各務さんは、「障がいの有無に関係なく、一人の人間として対等な関係であることをつねに念頭に置いています。指導させてもらう立場として、自らも気づきや学びを得る機会ととらえています」と話す。 ほかの職場でも働ける人材に  だれもが安心して働き続けられる職場の支援体制を構築してきたドリーム陶都だが、一方で施設長の小川さんは、障がいのある職員に「この職場だけでうまくいっていても意味がないよ」と話しているそうだ。その理由について説明してくれた。  「なんらかの事情で将来、本人が辞めざるを得なくなったりする可能性もあります。そうなったときに別の職場でもしっかり働き続けていける力をつけてもらいたいですし、そんな人材に育てることが大切だと考えています」  実際に、ある職員は、通勤時のバスがなくなったことから自宅近くにある別の介護施設に転職したそうだが、後日、転職先の施設長から「ドリーム陶都での育成体制がよかったおかげで、スムーズに仕事を始めてもらえました」と感謝されたという。  最近は県内外の介護施設などから、「同じような支援の仕組みをつくりたい」といった相談も寄せられる。小川さんたちは、現場の課題や悩みを聞いたうえで、ドリーム陶都での経験をもとにアドバイスしているそうだ。  最後に小川さんは、介護業界の雇用のあり方についても語ってくれた。  「高齢者介護の分野では、人材確保がむずかしい状況が続いています。東濃(とうのう)(※3)地域(ちいき)でもそれは同様です。海外からの人材を受け入れている施設も多くなってきていますが、ドリーム陶都では現時点で受入れは行っていません。というのも私たちの地域には、適切な支援があれば活躍できる人材がまだまだ眠っていると考えているからです。そして、障がいのある人や引きこもり経験者の就労という地域課題も一緒に解決していくことが、社会福祉法人の果たすべき役割ではないかと思っています」 ※1「職場適応援助者(ジョブコーチ)」については、以下の厚生労働省ホームページをご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/06a.html ※2「障害者職業生活相談員」については、以下のJEEDホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/employer/employer04.html ※3 東濃:岐阜県南東部に位置し、多治見市(たじみし)、土岐市(ときし)、瑞浪市(みずなみし)、恵那市(えなし)、中津川市(なかつがわし)の5市からなるエリアをさす 表1 山田さんの一日の業務例(8時半〜16時半) ・出勤 ・日勤リーダー、利用者の引継ぎ事項などを確認 ・フロアのゴミ捨て・日誌確認 ・洗い物、利用者の散歩同伴、花の水やり ・飲み物の準備・提供、ラジオ体操 ・居室巡回(ごみ回収・物品補充・清掃) ・昼食準備、配膳、口腔体操 ・シーツ交換、食器洗浄 ・休憩(12:30〜13:30) ・機能体操、おやつ・飲み物の提供 ・シーツ交換、ごみ回収 ・曜日ごとの業務 ・夕食準備 ・退勤 表2 丸角さんの一日の業務例(9時〜13時) ・出勤 ・日勤リーダー、利用者の引継ぎ事項などを確認 ・共有スペース(休憩室や会議室、自販機前など)の机を消毒液で拭く。いす整理 ・ロッカー・洗面台の掃除、日によって玄関清掃や施設周囲と農園の草抜き ・入浴セットの準備、翌日分を浴室に運ぶ ・入浴後の利用者カードを回収、仕分け ・新聞紙の四つ折り作業 ・退勤 写真のキャプション 社会福祉法人陶都会ドリーム陶都施設長の小川大輔さん 山田さんは食器洗いなどの間接業務を担当している テキパキとシーツ交換を行う 障がい者雇用支援対策委員会委員長の牧村誠紀さん 企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の各務竜也さん 2019年に入職した山田和也さん 企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の松本将平さん 2020年に入職した丸角久子さん 入浴セットの準備を行う丸角さん 丸角さんは外構の清掃なども担当している 農園の一角。トマトや落花生などを育てている 鶏舎では30羽ほどの鶏を飼育している 【P10-11】 クローズアップ 安心して働き、能力を発揮できる職場の環境づくり 第4回 ミスマッチを防ぐ「伴走型」マッチングの極意 〜入社後の変化を見逃さない〜  障害のある人など多様な人材が安心して働き、その能力を十分に発揮できる職場づくりが、いま企業に求められています。そこで障害者の雇用や就労支援を専門とする上村勇夫さんに、職場において障害のある人の安心感を高め、能力発揮をうながすために有効な環境整備や周囲のサポートのあり方などについて、解説していただきます。  第4回は、入社後に時間の経過とともに生じる「職業面・生活面」の変化や、それにともなうミスマッチを防ぐための取組みについて、事例を交えてお伝えします。 執筆者プロフィール 日本社会事業大学 社会福祉学部 共生社会デザイン学科 准教授、博士(社会福祉学) 上村(うえむら)勇夫(いさお)さん  企業、障害者地域作業所、ジョブコーチ等を経て、現職。障害者雇用における職場内支援のあり方と、生活支援について研究。関連論文で日本社会福祉学会奨励賞受賞。就労継続に関する著書も執筆。 はじめに―マッチングは時間の経過とともに「変化」する  障害者雇用において、採用面接や実習をていねいに行い、「これ以上ない形で職場と本人のマッチングができた」と確信して入社を迎えるケースは少なくありません。しかし、どれほど完璧にみえるスタートであっても、数カ月、数年と時間が経つにつれて、そのマッチング状況に少しずつ「ズレ」や課題が生じてしまうことが多々あります。なぜなら、働く障害者本人も、それを取り巻く職場の環境も、つねに一定ではなく時間の経過とともに変化していくからです。  入社時の状況だけに縛られ、その後の変化を放置してしまうと、気づいたときには深刻な「職場不適応」を引き起こし、早期離職へとつながってしまいます。大切なのは、採用時の見きわめだけで終わらせず、入社後も継続的・計画的に状況を把握し、適時適切に手を打っていく「伴走型マッチング」の視点です。  今回は、時間の経過とともに起きるミスマッチの要因と、それを防ぐための具体的な介入方法について解説します。 職場不適応を引き起こす「職業面・生活面」の変化  そもそも、なぜ入社時には問題がなかったのに、後からミスマッチが生じるのでしょうか。その背景には、大きく分けて二つの「変化」があります。  一つは、「職業面(職場環境)の変化」です。入社当初は慣れるために簡単なルーティン業務だけを任されていた社員が、時間の経過とともに「新しい業務へのステップアップ」を求められたり、職場の異動や上司の交代によって人間関係や指示の出し方が変わったりします。こうした職場の変化が、本人にとって予期せぬプレッシャーとなり、職場不適応の引き金になることがあります。  もう一つは、「生活面(プライベート)の変化」です。体調の波や加齢による変化、家族のサポート状況の変化、あるいは一人暮らしを始めたことによる生活リズムの乱れなどがあげられます。特に、知的障害や精神障害のある方にとって、私生活のぐらつきは仕事のパフォーマンスに直結します。「これまではできていたから大丈夫」という思い込みは禁物であり、時間の経過とともに本人の「職業面」と「生活面」の双方が変化し得るという前提に立つことが、伴走型マッチングの第一歩となります。 事例から学ぶ―仕事のトラブルの裏に隠された「変化のサイン」  ここで、時間の経過とともに生じた変化をキャッチし、適切な介入によって職場不適応を乗り越えた具体的な事例をご紹介します。  私がジョブコーチとして支援に入った特例子会社でのケースです。支援の対象となったのは、軽度の身体障害と、おそらく認知面に障害のある30代後半の男性、鈴木さん(仮名)です。彼は入社後、名刺の受付業務を担当しており、当初は非常にまじめでていねいに作業をこなしていました。しかし、入社から1年ほど経ったころから、急に「簡単なミスをくり返す」、「段取りが悪くなる」、「ときおり、動きが完全にとまってしまう(フリーズする)」といった深刻な問題が現場で発生するようになったのです。  現場の上司や担当者は、当初このトラブルを「慣れによる慢心」や「能力的な限界」ととらえ、「彼にはこの業務はミスマッチだったのではないか」と諦めかけていました。  しかし、私が現場に入り、本人の様子や生活面を含めてアセスメント(状況把握)を行ったところ、まったく別の背景がみえてきました。  彼がミスを連発しフリーズしていた本当の理由は、能力面での問題ではなく、「失敗してはいけないという過度な不安」と、私生活における「深い孤独感」という入社当初からの変化だったのです。  彼は一人暮らしを始めてしばらく経ち、休日にだれとも会話をしない孤独な環境にありました。その寂しさや将来への不安が時間の経過とともに心の中で膨らみ、おもに月曜日の朝に「失敗へのプレッシャー」として爆発し、その日の作業にも影響を及ぼしていたのです。つまり、「職場でのミス」などは、彼の「生活面での変化と孤独」が形を変えて現れたサインだったのです。 継続的なモニタリングと、適時適切な「三つの介入方法」  鈴木さんの事例が示すように、職場不適応の芽を早期にみつけ、ミスマッチを解消するためには、入社後も定期的なモニタリング(再アセスメント)を行い、以下のような方法で適時適切に介入することが重要です。  第一に、「業務の『見える化』による再設計」です。作業への不安な様子や段取りの悪さがみられたとき、責めるのではなく、指示の出し方や作業手順をあらためて整理します。作業手順を時系列に沿って細かく分解し、必要に応じて視覚的なマニュアルを作成するなどして再構築する。これだけで、本人の不安は劇的に解消されます。仕事のハードルを下げるのではなく、「変化した本人の状態に合わせて、乗り越えられる道筋を再設計する」という環境調整の介入です。  第二に、「非審判的な対話(コミュニケーション)の継続」です。トラブルが起きた際、「なぜできないんだ」と問い詰める(審判する)ようなかかわり方は、本人の不安をさらに増幅させ、フリーズを悪化させます。「どうすればやりやすくなるかな?」、「どこで迷ってしまった?」と、本人の味方になって一緒に考える姿勢(非審判的な対話)を継続します。本人が安心して困りごとを打ち明けられる関係性を計画的に築いておくことが、最大のミスマッチ予防になります。  第三に、「外部の就労支援機関と連携したアセスメント」です。鈴木さんの事例では、職場の指導だけでなく、地域の支援機関(障害者就業・生活支援センターなど)と密に連携し、彼の余暇の過ごし方や精神的なケアといった生活面でのサポートを並行して行いました。「職場での顔」だけでなく「生活者としての顔」の変化も合わせて把握することが、見当違いなミスマッチ判断を防ぐ鍵となります。 おわりに―伴走し続けるプロセスが、組織を強くする  障害者雇用におけるマッチングとは、採用時にカチッとパズルをはめるような一回かぎりの作業ではありません。会社と本人が対話を積み重ね、変化に合わせて形を変えていく「終わりのない伴走のプロセス」なのです。完璧な人材を追い求めるのではなく、時間の経過とともに生じる小さなミスマッチを、現場の工夫や外部機関との連携によって乗り越えていく。その積重ねこそが、現場のマネジメント力を高め、結果として障害のない従業員にとっても働きやすい、強固で豊かな組織風土をつくり上げていくのです。  次回は、障害のある従業員の安心感を高める・能力発揮をうながすためには、企業が単独で取り組むのではなく、外部の専門機関(障害者就業・生活支援センターや地域障害者職業センター、ハローワークなど)の活用や家族との連携が効果的であること、企業と専門機関・家族との連携を成功させるためのコツを解説していきます。 POINT ワンポイントアドバイス 個別性の大切さ  「〇〇障害だから」と一括りにせず、目の前にいる「その人自身」と向き合う姿勢のことです。一人ひとりの生活背景や性格、価値観といった「個別性」はさまざまです。時間の経過とともに起きる変化も千差万別です。マニュアル通りの対応に頼るのではなく、支援機関とも情報を共有しながら、その人に合った「オーダーメイドの支援」を組み立てることが、長く働き続けてもらうための鍵となります。 【P12-14】 JEEDインフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 無料 JEEDメールマガジン 新規登録者募集中!!  JEEDが全国で実施する高齢者や障害者の雇用支援、従業員の人材育成(職業能力開発)などの情報を、毎月月末にメールで配信しています。 おもな特徴 ◇毎号特集を組んで業務内容を紹介! ◆国の制度やJEEDのサービス内容がよくわかる! ◇マイエリア情報で地元情報をチェック! ◆セミナーやイベント情報が満載! 雇用管理や人材育成の「いま」「これから」を考える、人事労務担当者や就労支援担当者のみなさま、必読! 定年延長・廃止に再雇用… 障害のある従業員の新規採用・継続雇用… 技能開発・向上の手段… ! そのお悩みのヒントが見つかります!! 登録方法 JEED メルマガ で 検索 または から! <お問合せ先> 企画部 情報公開広報課 TEL:043-213-6215 「障害者雇用事例リファレンスサービス」を活用して「働く広場」の掲載記事が探せます! 障害者雇用を進めたいけれど、ほかの企業ではどんな取組みをしているんだろう? 「障害者雇用事例リファレンスサービス」をご活用ください! 障害者雇用事例リファレンスサービスとは  障害者雇用について創意工夫を行い、積極的に取り組んでいる企業の事例や、合理的配慮の提供に関する事例を紹介するJEEDのWebサイトです。 https://www.ref.jeed.go.jp アクセスはこちら! ※カメラで読み取ったリンク先が上記URLであることをご確認のうえアクセスしてください。 「働く広場」掲載記事の検索 「障害者雇用事例リファレンスサービス」では、「働く広場」に掲載した「職場ルポ」、「編集委員が行く」の記事 (注)を検索・閲覧することができます。 (注)取材先から、同サイトへの掲載許可が得られた記事にかぎります。 検索方法 1 「働く広場」の記事検索をする場合は、「モデル事例」をチェックしてください。 2 検索条件で、「働く広場」にチェックし、「業種」、「障害種別」、「従業員規模」、「フリーワード」等の条件を設定して検索ボタンをクリックすることで、探したい記事をピックアップできます。 3 クリックすると、該当企業の事例ページが表示されます。 4 該当記事のPDFファイルまたはデジタルブック★にアクセスできます。 ★2022年度掲載記事からデジタルブックで掲載しています。 JEEDホームページでも記事検索ができます! 「働く広場」の掲載記事については、「障害者雇用事例リファレンスサービス」で検索できるほか、JEEDホームページにて、バックナンバー(過去4年分)の記事索引の閲覧(※1)や、「グラビア」、「クローズアップ」などのコーナーの記事検索(※2)ができます。どうぞご利用ください。 ※1 各年度のバックナンバーのページ「記事索引一覧」 ※2 「働く広場」トップページ内「記事検索」 記事索引画面 クリックすると該当ページに移ります。 「働く広場」に関するお問合せ先 企画部 情報公開広報課 Email:hiroba@jeed.go.jp TEL:043-213-6200 「障害者雇用事例リファレンスサービス」に関するお問合せ先 障害者雇用開発推進部 雇用開発課 E-mail:ref@jeed.go.jp TEL:043-297-9513 FAX:043-297-9547 第46回 全国アビリンピック 同時開催 障害者ワークフェア2026 〜働く障害者を応援する仲間の集い〜 入場無料 2026(令和8)年12月4日(金)〜12月6日(日) 12月4日(金)開会式 12月5日(土)技能競技および障害者ワークフェア 12月6日(日)閉会式 アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 開催場所 愛知県国際展示場AICHI SKY EXPO 全国アビリンピック  アビリンピックは、障害のある方々が日ごろ職場などでつちかった技能を競う大会です。  第46回全国アビリンピックでは、全25種目の技能競技を実施します。全国各地から400人を超える選手たちが集い、それぞれの技能を披露し、競技に挑みます。 障害者ワークフェア  障害者ワークフェアでは、「働く障害者を応援する仲間の集い」として、約100企業・団体による出展を予定しています(能力開発、就労支援、職場紹介の三つのエリアによる展示・実演のほか、技能デモンストレーション、ステージイベント、各種特設コーナーなど)。 当日はライブ配信も予定しています! アビリンピック 検索 国際アビリンピック・ヘルシンキ大会 日本代表選手への応援メッセージを大募集!!  2027年5月に開催される第11回国際アビリンピックに出場する、日本代表選手17種目32名が決定! X、Instagramでも関連情報を掲載しています! フォロー&リポスト&シェア大歓迎♪ 写真のキャプション (競技種目)製品パッキング (競技種目)ネイル施術 技能デモンストレーション 障害者ワークフェア 【P15-18】 グラビア ラーメン店の花形、「厨房」を切り盛りする 株式会社桝元 辛麺屋桝元 原田店(福岡県) 取材先データ 株式会社桝元(ますもと)(本社) 〒882-0837 宮崎県延岡市(のべおかし)古城町(ふるしろまち)4-53 TEL 0982-31-4840 FAX 0982-31-4842 辛麺屋(からめんや)桝元 原田店 〒812-0063 福岡県福岡市東区原田3-6-22 1F TEL 092-260-8255 写真・文:官野 貴  宮崎県延岡市に本社を置く株式会社桝元(以下、「桝元」)は、延岡市発祥のご当地ラーメン「辛麺」のチェーン店を全国に展開している。桝元では、2019(令和元)年から障害者雇用を推進しており、身体障害、知的障害、精神障害のある従業員が、店舗などで活躍している。福岡県福岡市にある「辛麺屋桝元原田店」で働く坂口(さかぐち)弘貴(ひろき)さん(43歳)もその1人。店舗の開店準備やランチタイムの調理を任されており、店長からの信頼も厚い。  坂口さんは、地元の福岡を離れ就職していたが、人間関係のもつれなどから退職。地元で働きたいとの希望から、福岡市役所やハローワーク、当機構(JEED)の福岡障害者職業センターなどの支援を受け、2023年に桝元へ入社。店長や先輩従業員の支援のもとスキルを磨き、現在では、店舗の花形といえるポジションの「厨房」業務をになっている。  開店準備では、スープの仕込み、調理器具の準備など、多岐にわたる作業を手際よくこなしていく。ランチタイムの営業では、次々と入ってくる注文に合わせて調理を行う。桝元の辛麺はベースとなるスープや麺の種類、唐辛子の量やトッピングなどが、お客さんの好みに合わせて調整ができるため、異なるメニューを同時進行で仕上げていかなくてはならない。坂口さんは、接客担当者と確認を取り合いながら調理を進め、「お客さまをお待たせしないように、スピーディーな調理を心がけています」と話してくれた。  桝元では、障害の特性に応じた職場配置のほか、業務中の困りごとを店長などに気軽に相談できる時間を設けるなど、体調や気持ちに合わせた柔軟な支援を行っている。2025年度には、これらの取組みが評価され、「障がい者雇用優良事業所」として、宮崎県知事表彰を受けた。今後も障害者雇用の拡大と環境整備を進め、従業員一人ひとりが安心して働ける職場づくりに努めていく予定だという。 写真のキャプション 大きな寸胴鍋で桝元秘伝のスープを仕込む坂口弘貴さん 辛麺に欠かすことのできない唐辛子の補充作業 水を張り、湯を沸かした茹麺機に湯切りザルをセットする 商品提供用のお盆にレンゲ、穴あきレンゲをセットする 店外の掃き掃除。接客担当の同僚と手分けして開店準備作業を進めていく テーブルの拭き掃除。坂口さんは、厨房での調理のほか、接客も担当している 開店準備を終え、水分を補給し一休みする坂口さん チキン南蛮の下ごしらえ。鶏肉に小麦粉をまぶし、溶き卵にくぐらせる チキン南蛮は、辛麺屋桝元原田店の看板メニューの一つだ 揚がった鶏肉をバットに取り置き、休ませる スープの調理進行に合わせて、タイミングよく麺を茹で始める 看板メニュー「元祖辛麺」は、好みの辛さにカスタマイズできる。オーダーに合わせて唐辛子の量を調整する 唐辛子やひき肉、ニラの入ったスープに溶き卵を加え、スープを仕上げる でき上がったスープを、麺が入った丼に盛りつけて「元祖辛麺」の完成だ 【P19】 エッセイ 強迫性障害の私が、自分らしく働けるようになるまで 第4回 好きなことを仕事にした 漫画家・イラストレーター つくし ゆか 看護専門学校卒業後、大分県や福岡県の医療・介護現場で看護師として勤務。2019(令和元)年に結婚を機に鹿児島県へ移住。自身の強迫性障害の体験をもとに漫画制作を開始し、2022年に燦燦舎より『極度の心配性で苦しむ私は、強迫性障害でした!!』、2025年にラグーナ出版より『強迫性障害とともに生きてみた。〜不安が軽くなる30のヒント〜』を出版。現在は県内で講演活動も行っている。 好きだったことを思い出すまで  私は子どものころから、絵を描くことが大好きでした。好きな漫画の登場人物をまねして描いたり、自分なりのストーリーを考えたりする時間が、とても楽しかったのを覚えています。  けれど大人になってからは、強迫性障害の症状にふり回される日々が続き、絵を描く余裕などありませんでした。目の前の生活をこなすことで精一杯で、「好きなこと」を楽しむ感覚をいつの間にか忘れていたのです。 「やってみたい」と思えたきっかけ  そんななか、ある同人イベントに足を運んだことが、一つのきっかけになりました。そこでいまの夫と出会い、好きな漫画を思いきり描き、それをたくさんの人に見てもらっている姿を目にしました。  その光景を見たとき、「うらやましい」と強く思いました。そして、「自分も本当に好きなことをやってみたい」と思ったのです。 自分の経験を描いてみた  何を描けばいいのか迷いはありませんでした。私には、これまで経験してきた強迫性障害のことがありました。自分が感じてきたこと、考えていたことを、そのまま漫画に描いてみようと思ったのです。  そうして描いた漫画を、SNSに投稿してみました。  すると、「私も同じ病気です」、「家族が同じ症状で悩んでいます」、「目に見えない病気だけど、こんなふうに感じているんですね」など、少しずつ声が届くようになりました。  自分が描いたものが、だれかの心に届いている。そのことが、とてもうれしく感じられました。なかには、「病院に行くきっかけになりました」といってくださる方もいて、「描いてよかった」と心から思えた瞬間でした。 はじめて感じた達成感  これまで私は、「看護師として働くこと」があたり前だと思ってきました。でもはじめて、「自分が好きなこと」でだれかの役に立てたように感じられ、大きな達成感を得ることができました。 まだ知られていないという現実  強迫性障害は、まだ広く知られているとはいえない病気です。  決して珍しいものではないのに、知られていないがゆえに、理解を得られず、ひとりで抱え込んでしまう人も少なくありません。  私自身もこれまで、心を許せる人にしか病気のことを話してきませんでした。ただ「やめなよ」というのではなく、「どうしてやめられないのか」、「どうしたら楽になるのか」と、一緒に考えてくれる人。手洗いで荒れてしまった手を見て、「大丈夫?」と気にかけてくれる人。そうした存在に、どれだけ救われてきたかわかりません。  心の病気は、「やめさせよう」とすることでよくなるものではありません。ただ、理解しようとしてくれること、寄り添おうとしてくれること。それだけで、少し心が軽くなることがあります。 伝えることを仕事に  2022(令和4)年に燦燦舎(さんさんしゃ)から『極度の心配性で苦しむ私は、強迫性障害でした!!』、2025年にラグーナ出版から『強迫性障害とともに生きてみた。〜不安が軽くなる30のヒント〜』を出版することができました。それをきっかけに、学校や施設などで講演をさせていただく機会も増えました。  私は、自分の漫画を、同じように苦しんでいる方だけでなく、そのご家族や、職場で関わる方々にも読んでもらいたいと思っています。どこにでもいる「普通に働いている人」のなかにも、見えない苦しさを抱えている人がいる。そのことを、少しでも知ってもらえたらうれしいです。 のびのびと働けるいま  そしていまは、漫画やイラストの仕事にもたずさわるようになりました。以前は感じることの少なかった「楽しい」という気持ちや、「自分のやっていることに意味がある」と思える感覚を、少しずつ取り戻しています。 【P20-25】 編集委員が行く 大学におけるすべての「人」のエンパワーメントを目ざした取組み 国立大学法人筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局(茨城県) 筑波大学人間系教授 前原和明 取材先データ 国立大学法人筑波大学 ヒューマンエンパワーメント推進局 〒305-8577 茨城県つくば市天王台(てんのうだい)1-1-1 筑波大学スチューデントプラザ2F TEL 029-853-5948 Keyword:エンパワーメント、障害学生支援、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン、ジェンダー支援、アクセシビリティ支援、キャリア支援 前原(まえはら)和明(かずあき) 編集委員から  最近は、「障害者雇用をすることは、企業にとってどのような意味や価値があるのか?」という問いへの答えを探している。たしかに、障害者雇用をすることから、多くの企業がさまざまな意味や価値を得ているはずであるが、それがうまく言葉にできていないように感じている。今回は、この問いの答えを探して、大学における障害者のインクルージョンに取り組む筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局を訪問した。大学のこの取組みは、障害のある人との共生社会を実現するための一つの示唆を与えてくれるかもしれない。 POINT 1 「特定のマイノリティ支援」から「すべての人のエンパワーメント」へ 2 組織の垣根を超えた「環境・仕組みづくり」 3 「試行錯誤」を支える支援と組織全体の「文化」としての定着 はじめに  障害者雇用における「雇用の質」の向上の重要性は、職業リハビリテーションの推進を通して達成すべき目標であることに反対する人はいないであろう。そして、いま、企業において、障害者に適当な雇用の場を提供し、適切に雇用管理し、職業能力の開発および向上を行っていくことが必要とされている。  このような「雇用の質」の重要性を述べた文章に対して、もしかしたら、「理念として重要であることは間違いないが、どうすればよいのか?」や「経済活動を行ううえで、現実はそんなに甘くない」などの声も聞こえてきそうである。かくいう私も、この「雇用の質」を高めるための具体的な方法等といった「答え」を十分に持ち合わせていないのが現状である。今回は、「雇用の質」を高めるための取組みを考えるために、人のエンパワーメントをうながすことを目ざした大学での取組みに着目した。この「人のエンパワーメントの考え方」が、もしかしたら障害者雇用における雇用の質を高めるための重要な視点になるかもしれないと期待している。  このような思いを背景として、本稿で取材したのは、国立大学法人筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局(Bureau of Human Empowerment:BHE。以下、「筑波大学BHE」)の取組みである。筑波大学BHEは、「筑波大学で学び、働くすべての人の権利、可能性、多様性を尊重し、個々の能力が最大限に発揮される環境を整えます。また、この活動を通して、人のエンパワーメントを推進する大学の文化を醸成します。」という基本理念に則り、人のエンパワーメントを推進するための組織である(図)。この筑波大学BHEの理念および取組みを一つの事例として学ぶことを通じて、障害者雇用における「雇用の質」を高めるために私たちが心得るべき視点について確認していきたい。 筑波大学BHE  まず、筑波大学BHEについて紹介をする。近年、大学では、大学のなかの障害のある学生の支援に対する取組みを開始している。筑波大学BHEもその一つの取組みとして理解することもできそうであるが、そのあり方には特徴がある。  筑波大学BHEは、「特定のマイノリティを支援する」だけではなく、大学が学生や職員を含む「一人ひとり」の「人のエンパワーメントを推進する」というチャレンジを実現するために、2023(令和5)年1月に設立された組織である。2023年以前から蓄積されてきた大学のダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンター(DACセンター:Diversity Accessibility Careerセンター)の取組みを基盤とし、さまざまな特性や能力を有する多様な個人のニーズに応じられるよう、分野を超えた横断的・学際的な視点を取り入れた取組みを開始している。  現在、筑波大学BHEは、おもに「アクセシビリティ支援チーム」、「キャリア支援チーム」、「ジェンダー支援チーム」の三つの運営チームから構成される。まず、「アクセシビリティ支援チーム」は、大学におけるさまざまな部署と連携しながら障害のある学生への修学支援やピアチューターの養成、理解啓発活動や研究活動を行っている。次に、「キャリア支援チーム」は、学生のキャリア形成のための授業の開設、各種イベントなどを通じて、学生一人ひとりが自分自身の思い描く将来に向けて準備できるためのさまざまなサポートを提供している。最後に、「ジェンダー支援チーム」は、「性(Gender)」をめぐるさまざまな社会的・個別的課題について、意識啓発活動や支援事業等を通じて、課題解決に向けた取組みを行っている。  筑波大学BHEの取組みは、このように非常に幅が広い。特に、高等教育機関における発達障害のある学生の支援において、非常に先進的な取組みとなっている。また、筑波大学における取組みは、2022年文部科学省の「令和4年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(理解増進部門)」において表彰されている。 理念と具体的な取組み  ここからは、筑波大学BHEの理念と具体的な取組みについてインタビューを通じて、確認をしていきたい。 筑波大学BHE次長(アクセシビリティ担当)佐々木(ささき)銀河(ぎんが)さん  佐々木さんは、筑波大学人間系准教授として、障害学生支援に関する研究に従事しつつ、この筑波大学BHEの次長として、運営の一翼をになっている。  佐々木さんは、自身の障害学生支援に関する専門性を活かしながら、筑波大学BHEの運営にたずさわっている。  佐々木さんは、私たちの健常者と障害者を分けてとらえてしまう見方から少し距離を取ってほしいと提案する。  「近年大学でも、発達障害や精神障害のある学生等の支援が注目されています。しかしながら、私たちは、支援について考える際には、診断の有無だけで人を分けて考えないようにしています。というのも、障害の診断のない人であっても、人としてさまざまな特性を持っているものです。つまり、苦手なことや配慮が必要なことがあるわけです。私たちは、『障害だから』ではなく、『どのようにして人のエンパワーメントを推進していくのか』ということを考えて活動する組織です」  このような多様な人が集まる大学において、人権の尊重を基本として、学生や教職員等が自らの能力を最大限発揮および活用できることを目ざした取組みを行っているそうだ。  そして、エンパワーメントの推進は、個人の努力等に依存するだけではうまくいかないと考えているという。特に意識していることは、「エンパワーメントの推進を個人の活動や変化等の個人の努力に依存するのではなく、エンパワーメントの推進に向けて、個人が活動したり、変化することができるための環境をつくる」ということだそうだ。  このように 筑波大学BHEの実践の背景にある理念には、障害のある学生の専門的支援という範疇だけでは語りつくせないようだ。 筑波大学BHE 業務推進マネージャー(ジェンダー支援担当)河野(かわの)禎之(よしゆき)さん  河野さんは、筑波大学人間系助教として、この筑波大学BHEの前身であったDACセンターのときから継続的に運営にかかわってきた。専門が認知症やリハビリテーションであるにもかかわらず、この筑波大学BHEでの活動からLGBTQ+を含むジェンダー支援に深くかかわっている。  河野さんは、いまでは大きく変わった筑波大学の状況について、筑波大学BHEの設立時の思い出とともに語った。  「ジェンダーに関する専門的な相談をする場所はどこにもありませんでした。顕在化していないだけで、関連する問題が散発していたと思います。このような相談は、学生相談窓口のようなところだけで解決するには限界があります。大学のなかであればまだしも、就職活動や卒業後の社会への移行場面でも、『どのように開示するのか』や『どのような服装やアイデンティティで臨むのか』などの課題として顕在化することになります。多くの学生さんが就職活動で困難を感じたり、場合によっては差別的な扱いを受けたり、その後のキャリアに影響してしまうなどのこともありました」  このようななかで、当時の学長からの意向も受けて、組織が整備されたそうだ。  さらに、さまざまな背景を持つ学生の課題を対症療法的に相談として対応していくだけでなく、アクセシビリティ支援、キャリア支援、ジェンダー支援の三つに横串を刺して、学生を主体として能動的に活動できる組織へと変革していき、現在の筑波大学BHEの組織がつくられた。名は体を表すように、現在は「部門」ではなく「チーム」という名称になっている。また、「タスクフォース」と呼ばれる部署の垣根を越えて大学全体の問題を検討する仕組みもつくられた。筑波大学BHEがすべてに単独で対処するのではなく、大学全体が一丸となって、そこで生活する学生や教職員の課題を解決する体制が整えられてきている。エンパワーメント促進の理念を実現するために、このような仕組みが実際に準備されている価値は大きいように思える。  このような理念等に支えられて運営される筑波大学BHEは、多様で特徴的な活動を行っている。代表的なものとしては次のような活動がある。 ・障害のある高校生等を対象としたオープンキャンパスイベント  大学のオープンキャンパスにおいて、障害のある高校生などを対象とした説明会を開催し、受験時・在学中の合理的配慮や進路選択に関する相談を実施。そのほか、大学生になる自分のイメージを具体化することを目的としたオンラインイベント「じぶんハッタツラボ」や対面イベント「Transition day―あなたの大学生活をデザインしよう!―」の実施。 ・アセスメントに基づく発達障害のある学生への支援技術の貸出し(左写真)  障害の診断の有無にかかわらず、すべての学生を対象としたアセスメントを通じた強みや配慮の検討を実施。学生のニーズに応じた支援技術の貸出し。 ・アクセシブルスタディルーム(自習・休憩室)  大学内に、学生が一人で学習・休憩できるスペースを確保。また、センサリールームを設置し、視覚・聴覚・触覚などの感覚を落ち着かせる環境でリラックスを支える。 ・発達障害の啓発活動  当時所属していたスタッフにより作成された発達障害のキャラクターを利用した漫画を公開し、大学内外の人に発達障害を啓発する取組みを実施。 ・発達障害のある方の支援に関する情報の発信および支援の提供  ラーニング&ライフサポートブック(Learning & Life Support Book:LSB)と呼ばれる、発達障害者の経験に関する情報を収集し発信するWEBサービスを提供。また、SNSで利用できるチャットボットによる当事者支援システムの開発と提供。  これらの取組みは、大学における支援としてだけでなく、企業などで障害のある人が不安なく働くうえでの基礎的な環境整備としてとらえることができ、支援として参考になるものばかりである。 実務を通して感じること  最後に、現在、筑波大学BHEに勤務する堀口(ほりぐち)里奈(りな)さんに、その仕事の意味や価値についておうかがいした。 堀口里奈さん(筑波大学BHEスタッフ)  堀口さんは、筑波大学の学生時代からピアチューターの運営の補助をするなどして、筑波大学BHEとかかわりを持っていたそうだ。堀口さんは、現在、この筑波大学BHEのスタッフの一人として、自らが支援を受けた経験も活かしながら、聴覚障害のある学生への支援のコーディネートやピアチューター養成講座の運営、オープンキャンパス対応や入学相談などを行っている。  堀口さんは、業務の一つである「合理的配慮の情報提供書」の活用をめぐる障害のある学生とのやりとりを通じて考えていることを語ってくれた。  「合理的配慮の情報提供書を作成するなかで感じたことは、障害のある学生さんが自身が必要としている支援を求めることはむずかしいということです。大学なので、当然、専攻によって授業環境が違いますし、担当する先生ごとに授業の進め方も異なります。私たちが障害のある学生さんと、必要な支援について話し合い、環境調整をしていくことになります。例えば、授業内容を文字起こしする支援者を派遣したり、支援機器を貸し出したりするなど、学生さんの意見を取り入れながら支援内容を決定していきます。これが学生さんの障害に対する自己理解につながると思うと、非常に意味のある、やりがいのある仕事だと思っています」  この語りに「自分自身について知る」ことのむずかしさについてあらためて認識させられる。このような堀口さんの経験を通じて、「学生さんがさまざまな体験を通して、試行錯誤できること。この試すことができる場を提供できることが、非常に大事」ということを見いだしていた。  堀口さんのこの発見は、障害のある方の社会参加に向けた支援の視点として非常に示唆に富むものである。  大学は、勉強だけでなく、大学生活を通じて、自分自身について知ったり、卒業後の「社会」に移っていくための準備をしたりなど、さまざまなことを「学ぶ」重要な場所である。それ故に、障害の有無にかかわらず、個人が勉強以外も含めた多くの学びを得ることができるような環境の調整や合理的配慮が必要であるとの考えである。  これはおそらく大学という社会にかぎらないことであろう。人は絶えず学び続ける存在であり、人をエンパワーメントするうえで、この「人の試行錯誤を支えていく」という観点は不可欠の視点である。健常者の雇用において、あたりまえのこととして提供されていることが、障害者だからと提供されないことがあるとしばしば聞くが、区別なく、あたりまえのことを提供していくことの重要性を理解することができる。 まとめ  筑波大学BHEの取組みは、単に大学における障害者も含めたマイノリティの支援を行っている以上の意味があると感じられた。  取材のなかでは、まだまだ筑波大学においても障害のある学生の支援に関して、課題は残っているということだった。「どうしても、『学生支援について、やらなければならないことだから実施する』というような他律的な思考がまだまだ存在していると感じています。『積極的にやりたいわけではないけれども、やらなければいけない』という意識はどうしても広くあります。今後に向けては、大学に関するすべての『文化』を変えていく必要があります」と佐々木さんは語った。  さらに続けて、「障害のある学生を含め、一人ひとりの学生を重要な大学の構成員として認識し、個々の学生の強みを探し、個々の学生に敬意を払い、大学生活を営むことができるような環境をつくっていくという、この認識を一時的な認識で終わらせず、大学にかかわるすべての人が共有する『文化』としていく必要があります。制度や数値目標によって外から求められるだけの取組みでは持続していきません。こうした文化を絶えず育てていくことが必要です。これを続けるなかで、少しずつ文化がつくられてきたと感じる場面も多くあります。学んでいる学生さんを目のあたりにしていただいて、少しずつかかわり方が変わって、人間が変わって、組織風土が変わっている側面もあるかなと思います。十年前に比べて、少しずつ組織文化が変わってきて、いまの取組みが非常にやりやすくなってきているということを感じています」と、組織のなかに「文化」がつくられてきた効果も語った。  今回の筑波大学BHEの取組みは、障害のある学生への大学における支援として、先進的なものであるということができる。その一方で、その支援の本質には、共生社会の実現に向けた視点というものがあるように思えた。本稿の「はじめに」において、私は、「雇用の質」ということを考えていきたいと述べた。「大学だからできること」、「企業と大学は違う」等の考えを一度払いのけて、もう一度、本稿の取組みを見ていただければと思う。  そこには、障害のある人が、さまざまな「社会」で共生するための「あたりまえ」があるように思える。 図 筑波大学BHEの基本理念と行動指針(資料提供:筑波大学BHE) 基本理念 心身ともに人のエンパワーメントを推進する大学文化を 人権の尊重を前提として学生、職員を含む本学構成員それぞれの可能性と多様性を尊重し、マイノリティを取り残すことなく、個々の能力が最大限に発揮・活用される環境を構築する。 これらを通して、心身ともに人のエンパワーメントを推進する大学文化を醸成する。 行動指針 基本理念を「エンパワーメント」の根幹としてとらえ、学内外の組織との信頼関係のもと、構成員が公正・公平にアクセスでき、実効性のある仕組みの構築を目指す。そして、学内外の組織と協働することによって、人の多様性と包摂(ダイバーシティ・インクルージョン)に基づく好循環の価値を創造するため、教育・研究活動に関連する範囲において、次の行動を実行することを行動指針とする。 人材育成 構成員がキャリアに応じて多様な個々の能力を最大限に発揮するための人材育成の支援 環境構築 学内組織との連携を通じて、各組織および個人の目標・目的に応じて構成員を活かす公正・公平な環境構築の支援 啓発活動 構成員が多様な他者を適切に理解・対応するための啓発活動 大学文化の醸成 人の可能性と多様性を尊重し、心身ともに人のエンパワーメントを推進する大学文化の醸成 連携・協力 地域社会及び国際社会との連携・協力による多様性が包摂された社会に向けた戦略的展開活動 写真のキャプション 筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局(BHE)が入る筑波キャンパスの「スチューデントプラザ」 スチューデントプラザ内の相談窓口の一つ 筑波大学BHE次長(アクセシビリティ担当)の佐々木銀河さん 筑波大学BHE業務推進マネージャー(ジェンダー支援担当)の河野禎之さん 発達障害のある学生への支援技術の貸出し例(資料提供:筑波大学BHE) カラーバールーペ 録音機能付きデジタルペン ノイズキャンセリングイヤホン 各種タイマー 筑波キャンパス内に設置されたアクセシブルスタディルームの一つ「センサリールーム」。1人用自習・休憩室として利用できる センサリールームに隣接する共同自習室。アクセシブルスタディルームは、BHEを利用する学生が使用できる 筑波大学BHEスタッフの堀口里奈さん 発達障害の啓発活動の一環で制作されたマンガ「ヒトはそれを『発達障害』と名づけました」(資料提供:筑波大学BHE) 支援情報データベース「Learning & Life Support Book」(資料提供:筑波大学BHE) 学生支援チャットボット「ダボット」(資料提供:筑波大学BHE) 【P26-27】 省庁だより 令和8年版障害者白書概要�@ 内閣府ホームページより抜粋  障害者白書は、障害者基本法第13条に基づき、障害者のために講じた施策の概況について、毎年国会に報告しているものです。  今号と次号の2回にわたり、「令和8年版障害者白書」の概要を紹介します。 第1章 障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に 向けて1.旧優生保護法の被害者への補償 〇2024年に締結された「基本合意書」に基づき、2025年3月及び9月に、優生保護法被害全国原告団、優生保護法被害全国弁護団及び優生保護法問題の全面解決をめざす全国連絡会との間で、旧優生保護法問題の全面解決に向けた協議を開催。 〇「補償金等支給法」に基づく補償金等は、2026年3月までの全国の累計で、相談件数は7475件、請求件数は2551件、認定件数は1799件。 〇2026年1月21日に高市早苗内閣総理大臣が優生保護法被害全国原告団の方々と面会し、補償金等の着実な支給、障害などを理由とする偏見や差別の根絶に力を尽くすことを表明。 2.障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画(2024年12月27日推進本部決定) 〇2024年末に取りまとめられた「行動計画」に基づき、政府においては、「障害の社会モデル」の考え方を踏まえ、�@障害のある人の子育て等の希望する生活の実現に向けた支援の取組、�A公務員の意識改革に向けた取組、�B「心のバリアフリー」の取組を推進してきた。 3.障害者差別の解消に関する事業者等の取組状況調査 〇改正「障害者差別解消法」の施行から1年が経過したことから、同法に規定されている業種別の「対応指針」に基づく、合理的配慮の提供、相談体制、研修等の実施状況の調査を実施。  �@業界団体調査:各府省庁を通じて調査票を送付し、186団体から回答を得た。  �A民間企業調査:民間企業約1万社に調査を行い、約1500社から回答を得た。  ※合理的配慮の好事例のヒアリング調査も実施。内閣府ホームページで公表し、法の周知に活用。  ※取組状況調査は、改正法施行直前の令和6年3月1日から、施行後1年が経過した令和7年4月30日までの期間を調査対象期間とした。 〇業界団体における取組状況調査の結果のポイント ・「障害者差別解消法」や「対応指針」について、回答した団体から所属企業等に対しての周知は、約8割の団体で行われている。 ・「障害者差別解消法」に係る研修については、障害者差別解消法について単独で実施する場合と他の研修と兼ねて実施する場合、それぞれ約1割であった。 ・アンケートの実施、マニュアルの作成、好事例の共有などを行っている業界も見受けられた。 〇民間企業における取組状況調査のポイント ・従業員に対して「障害者差別解消法」等の周知を行っていた企業は約3割。  団体や企業に対する周知状況と比較して低い割合に留まっており、企業内の職員への浸透が課題。 ・各事業者における障害を理由とする差別に関する社内研修については、「実施している」と回答した事業者は約2割。業種別にみると、「金融業、保険業」「医療、福祉」「運輸業、郵便業」が高い割合。 ・社内研修を実施していない理由(自由記述)には、研修体制の整備や時間・人手不足/教材がない等が挙げられた。 〇調査結果を踏まえた今後の取組 ・業所管省庁において、業界向けに、研修実施の重要性など、対応指針の周知徹底を図ることが重要。 ・企業向けのオンライン研修の実施や啓発資料の充実などを通じ、企業内での理解や取組がより一層進むよう働きかけていく。 4.ともともフェスタ2025 〜迎賓館からはじまる「共生社会」〜(TOPICS) 〇内閣府では、「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画」に基づき、障害の有無に関わらず楽しめる行事として、「ともともフェスタ2025〜迎賓館からはじまる「共生社会」〜」を2025年5月30日及び31日の2日間にわたり、迎賓館赤坂離宮を一般開放して開催。 〇障害当事者団体等が企画段階から参画し、ステージでは、知的障害のある当事者による「瑞宝太鼓」など障害当事者や著名人によるパフォーマンスを実施。また、障害者団体・企業等25団体、こども家庭庁を始めとした関係省庁、地方自治体などがブースを設け参加。 第2章 障害のある人に対する理解を深めるための基盤づくり 〇全ての国民が、相互に人格と個性を尊重し支え合う「共生社会」の理念の普及を図り、障害及び障害者に対する国民の関心と理解を一層深めることを目的として12月3日〜9日に「障害者週間」の取組を実施。 〇障害の理解のため「世界自閉症啓発デー」や「世界メンタルヘルスデー」などに合わせて啓発行事等を実施。 〇「手話施策推進法」の公布・施行後(令和7年6月)、初めて迎える9月23日の「手話の日」に、内閣府では手話に関する理解と関心を深めるためのオンラインシンポジウムを開催。地方公共団体などでもブルーライトアップなどを実施。 第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 1.障害のあるこどもに対する福祉の推進 〇保育所等における障害のあるこどもの受入れ児童数は、10年間で約2倍となっており、一層の受入体制の整備が求められている。 〇子ども・子育て支援制度では、�@障害のあるこども等を保育所、幼稚園、認定こども園で受け入れ、地域関係機関との連携や相談対応等を行う場合に、地域の療育支援を補助する者を配置、�A地域型保育事業で、障害のあるこどもを受け入れた場合にこども2人に対し保育士1人の配置を行うこととしている。 2.特別支援教育の充実 〇特別支援教育を受ける児童生徒は増加しており、この10年間で大きく増加。特に、特別支援学級の在籍者数や通級による指導を受ける児童生徒数の増加が顕著。 〇障害のある児童生徒の教科書・教材の充実、通級による指導の担当教員の基礎定数化、発達障害に関する管理職をはじめとする教員の理解啓発等体制構築事業、医療的ケアが必要なこどもに対する安心・安全な支援体制の整備を行っている。 〇2026年3月からバリアフリー化のポイントや整備事例等のバリアフリー化に関する情報や、当事者のインタビュー等の普及啓発コンテンツ、相談窓口、自治体間のネットワーク構築等を提供する「学校バリアフリープラットフォーム」を文部科学省のウェブサイト中に開設した。 3.障害のある人の雇用の場の拡大 〇民間企業の雇用障害者数は22年連続で過去最高を更新。実雇用率は2.41%で、前年とほぼ横ばい。法定雇用率を達成した企業は、昨年の除外率の引下げの影響があり、46.0%と前年同率。 〇ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどの機関を中心に、職業リハビリテーションを通じて、障害のある人が希望や能力、適性に応じた職場に就き、就労を継続できるようにするための支援を実施している。 〇2025年10月から、障害者総合支援法に基づくサービスとして「就労選択支援」が開始された。  ※「福祉・雇用それぞれのサービス体系におけるアセスメント(ニーズ把握、就労能力や適性の評価)の仕組みを構築・機能強化」するという方向性の下、創設された新たな障害福祉サービス(2025年10月時点で104事業所が指定) (次号では、第4章、第5章、第6章について紹介します) ★「障害者白書」は、内閣府ホームページに掲載しています。 https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/index-w.html 【P28-29】 研究開発レポート 「就労支援のためのアセスメントシート」の効果的な活用方法に関する研究 障害者職業総合センター研究部門 障害者支援部門 1 はじめに  「就労支援のためのアセスメントシート」(以下、「アセスメントシート」)(※1)は、2023(令和5)年に障害者職業総合センターで開発したアセスメントツールです。ここでいうアセスメントとは、「本人の就労能力や適性の客観的な評価を行うとともに、本人と協同して就労に関するニーズ、強みや職業上の課題を明らかにし、ニーズを実現するために必要な支援や配慮を整理すること」 をいいます。  アセスメントシートは、�@対象者の就労に関する希望・ニーズ、�A対象者の就労のための作業遂行・職業生活・対人関係に関する現状(就労のための基本的事項)、�B対象者と環境との相互作用の視点による就労継続のための望ましい環境についての情報、を支援者と対象者が協同で収集、整理することにより、両者が対象者のストレングス(長所)や成長可能性、就労するうえでの課題等を適切に理解し、就職に向けた必要な支援や配慮を検討することを目的としています。  アセスメントシートについては、効果的に活用するための実践知(活用ノウハウ)の蓄積が十分でないことが課題となっていました。このため、アセスメントシートの活用方法、活用事例等の実践知を収集し、アセスメントシートの効果的な活用方法を検討し、「活用ガイド」としてまとめることとしました。 2 調査研究の方法  アセスメントシートを活用している全国の就労支援機関に、アセスメントシートの活用方法や事例等の提供を依頼するとともに、質問紙調査、インタビュー調査を行い、アセスメントシートの活用における工夫や課題などを収集しました。  その結果をふまえ、アセスメントシートの活用方法等を具体的でわかりやすくまとめた「活用ガイド」を作成しました。 3 調査研究の内容 (1)対象者にとって特に理解がむずかしい言葉や文章  アセスメントシートでは、文章や選択肢に就労・労働に関する用語が多数記載されていますが、障害のある方にとっては、その特性や就労経験の少なさのため、労働に関する用語等に理解のむずかしさが見られることがありました。  障害種類別の傾向としては、知的障害者の場合は、記載されている言葉や文章の理解そのものについて困難を生じることがありました。発達障害者の場合は、例えば「業務日報を書くことができるとはどの程度求められるのか」といった文章や状況の解釈について困難を生じることがありました。  このため、特に理解がむずかしい言葉や文章については、支援者に対する質問紙調査の回答に基づいて、「活用ガイド」にわかりやすい「説明(例)」を記載しました。 (2)評価項目・評価領域の選択  アセスメントシートでは、シート�U(就労のための基本的事項)の評価項目とシート�V(就労継続のための環境)の評価領域について、支援者が対象者の必要性を考慮して、評価する項目・領域を選択することになっています。  支援者からは「どの項目も就職するうえで必要」との声が聞かれる一方、対象者の希望・ニーズをふまえた必要な支援・配慮を検討するうえで望ましい選択となっていない可能性もあります。  そこで、望ましい評価項目・評価領域の選択方法について検討し、「活用ガイド」に次の通り「原則」と「状況に応じた対策」を記載しました。 〈ア〉シート�U(就労のための基本的事項)の評価項目の選択 【原則】  対象者が希望している仕事や職場環境、生活環境で特に求められる評価項目を選択する。 【状況に応じた対策】 ・対象者の希望している仕事や職場環境がはっきりとしない場合は、推奨項目を主体に選択する。 ・対象者と支援者が協同評価を行うための情報が不足している項目がある場合は、それを除外して、両者が必要な情報を把握している項目のみ選択する。 ・対象者の希望している仕事や職場環境が幅広い場合は、支援・配慮の必要性に応じて幅広く選択する。 〈イ〉シート�V(就労継続のための環境)の評価領域の選択 【原則】  対象者が希望している仕事や職場環境、生活環境で配慮が必要な評価領域を選択する。 【状況に応じた対策】 ・対象者と支援者が協同評価を行うための情報が不足している領域がある場合は、それを除外して、両者が必要な情報を把握している領域のみ選択する。 ・対象者の希望する仕事や職場環境がはっきりとしない場合や幅広い場合は、あらかじめ評価領域を選択することはせず、上から順番にすべての領域のすべてのチェック項目について、支援・配慮の必要性を検討する。 (3)協同評価  アセスメントシートによるアセスメントでは、評価の際に、対象者と支援者による協同評価を行うこととしています。  協同評価についても、本調査研究の結果をふまえ、両者の評価が一致しない場合は、それぞれの具体的な事実(体験・観察)に基づく現状認識の相違点を確認したうえで、評価の対象とする具体的な場面や状況を想定し、その場面における対象者の適応状態を相談して評価を決める、などのポイントを「活用ガイド」に記載しました。 (4)効率的な実施のための工夫  支援者に対する質問紙調査結果を見ると、アセスメントシートの実施に関する現状と課題について、「実施前の準備や個別面談に時間がかかり、担当者の負担が大きい」との回答が多く、効率的な実施が課題となっていることがわかりました。  このため、個別面談の回数を3回程度に分け、1回の面談を1時間程度にして対象者の疲労による集中力の低下を防ぐ工夫が見られました。  また、個別面談前に全部または一部のシートを対象者に記入してもらう、作業場面や職場実習の観察の段階で対象者とともにその状況をふり返り、アセスメントにつながる情報を共有しておく、などの工夫が見られました。 (5)「活用ガイド」の構成と内容  事例収集、質問紙調査およびインタビュー調査で得られた情報を課題ごとに整理したうえで、アセスメントシートの効果的な活用方法等を検討し、収集した事例を担当した支援者、就労に関するアセスメントの専門家からヒアリングを行い、「活用ガイド」として体系的にまとめました。  「活用ガイド」は3章構成とし、第1章は基礎編としてアセスメントシートを活用するための基礎知識、第2章は実践編としてアセスメントシートの実践的な活用方法を載せています。そして第3章は就労支援機関別活用編として、就労移行支援事業所、障害者就業・生活支援センター、ハローワークでの活用方法や事例を掲載しています(表)。作成した「活用ガイド」(※2)は障害者職業総合センターのホームページからダウンロードできます。 ※1「就労支援のためのアセスメントシート」は、以下ホームページよりダウンロードできます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai78.html ※2「就労支援のためのアセスメントシート活用ガイド」は、以下ホームページよりダウンロードできます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai87.html ◇お問合せ先 研究企画部 企画調整室 (TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 表 「活用ガイド」の構成 第1章 基礎編 1.アセスメントシートとは 2.アセスメントにおいて重要な視点 3.アセスメントの実施方法 4.アセスメントにおける留意点 5.アセスメント結果の活用 第2章 実践編 1.アセスメントシートの対象事例 2.実施前の準備・情報収集 3.アセスメントシート記載内容の説明 4.評価項目・評価領域の選択 5.協同評価の方法 6.効率的で効果的なアセスメントを行うための工夫 7.個別面談において必要なスキル 8.個別面談で参考になる面接技法 第3章 就労支援機関別活用編 1.就労移行支援事業所における活用 2.障害者就業・生活支援センターにおける活用 3.ハローワークにおける活用 【P30】 ニュースファイル 国の動き 厚生労働省 令和7年度「過労死等の労災補償状況」を公表  厚生労働省は、令和7年度「過労死等の労災補償状況」をとりまとめ、請求件数6212件(前年度比1402件増)、支給決定件数1310件(同5件増)だったと公表した。  このなかで、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害に関する支給決定件数は1082件(同26件増)で、うち未遂を含む自殺の件数は76件(同12件減)だった。業種別では医療・福祉(292件)、製造業(158件)、卸売業・小売業(116件)、年代別では40〜49歳(294件)、50〜59歳(244件)、30〜39歳(243件)の順に多かった。  発病に関与したと考えられる事象を類型化した出来事別では、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」222件、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」と「セクシュアルハラスメントを受けた」がそれぞれ127件、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」113件の順に多かった。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74476.html 生活情報 大分 「親なきあと」相談員養成研修全国開催  社会福祉法人大分県社会福祉事業団(大分市)が、大分県内で行ってきた障害者のための「親なきあと」相談員養成研修について、全国に広げる事業をスタートさせた。  これまで同事業団は、大分県と連携しながら「親なきあと」相談室を県内に6カ所開設し、医療機関や福祉事業者、成年後見人、弁護士、行政などとの分野横断的な支援体制を構築してきた。この取組みに着目した公益財団法人日本財団(東京都)が、「障害者の『親なきあと』サポートプロジェクト」の一環として助成し、相談員研修の全国展開が実現した。  2026(令和8)年8月に別府市で開催された第1回は九州エリアが対象で、九州全域から相談支援専門員、自治体職員、社会福祉協議会職員、地域包括支援センター職員など約100人が参加。ソーシャルワークをはじめ成年後見、相続、税務、信託など、「親なきあと」にかかわる制度や支援を分野横断的に学ぶとともに、実際の相談事例や演習を通じて、本人や家族が抱える課題の整理や、必要な専門職・支援機関につなぐための実践的な対応について理解を深めた。同月に関東・甲信越エリアでも開催された。2027年2月までに関西・四国エリア、沖縄エリア、中国エリアで予定されており、今年度は計300人の相談員養成を目ざすという。 https://oitaswo.jp/post-35100/ 全国 障害者の空の旅をサポートする Q&A式ガイドの冊子版を制作・配布  日本航空株式会社(東京都)は、障害のある人とその家族が抱える空の旅への不安や疑問に回答するQ&Aガイド「Beyond(ビヨンド) Guide(ガイド)」の冊子版をつくり、全国56カ所の空港カウンターなどで配布を開始した。  これは、障害のある作家のアート作品を企画・販売している株式会社ヘラルボニー(岩手県)と共同制作したもので、2025(令和7)年にWeb上でPDF版を公開していたが、より多くの人が手に取りやすいよう冊子版も制作したという。「長時間の待機ができるか不安」、「パニックになったらどうすれば?」、「こだわりのある飲食物を持ち込みたい」など、実際の声をもとに、予約・搭乗前・空港・機内での過ごし方などを、Q&A形式でまとめている。また、事前に知っておくことで安心につながる情報や、困ったときに役立つサポート内容も掲載している。 https://www.jal.com/ja-jp/sustainability/human/satisfaction/customer/202608/ 全国 「障害のある学生の修学支援に関する実態調査」結果を公表  独立行政法人日本学生支援機構(神奈川県)は、「令和7年度(2025年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」の結果を公表した。  調査結果によると、調査日である同年5月1日現在で全学校数1166校、全学生数325万6809人のうち障害学生は5万9377人で、全学生の1.82%を占めた。障害学生とは、障害者手帳を有する学生および医師の診断または健康診断等において障害があることが明らかになった学生をさす。このうち、特性に応じた支援を受けている学生は69.5%、合理的配慮の提供を受けている学生は51.6%だった。  障害種別では、精神障害が2万2036人ともっとも多く、発達障害1万2706人、病弱1万136人と続いた。発達障害、精神障害、知的障害、発達・精神の重複障害を合わせると3万8548人で全体の64.9%(前年度62.0%)を占めた。また、障害学生支援を担当する部署や機関、相談窓口などが8割以上の学校で整備されていた。 https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_shogai_syugaku/2025.html 全国 映画公開予定『4アウト─もう一度、プレイボール─』  東京に初めて結成された身体障害者野球チーム「東京ブルーサンダース」創設の実話を基にした映画「4アウト─もう一度、プレイボール─』が2026(令和8)年11月上旬から全国公開される。主演は相葉(あいば)雅紀(まさき)さん、原作はノンフィクション作家の平山(ひらやま)譲(ゆずる)さんの小説『4アウト─ある障害者野球チームの挑戦』(2023年、中央公論新社刊)。  身体障害者野球は、障害者手帳を持つ選手たちが軟式ボールを使って行う野球で、障害の特性に配慮した独自ルールが適用されている。元プロ野球選手の福本(ふくもと)豊(ゆたか)さんらの声がけで、1993(平成5)年に特定非営利活動法人日本身体障害者野球連盟(JDL)が発足し、現在では全国36チームの登録選手約1000人が、毎年春と秋に開催される全国大会を目ざして活動している。2006年には、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の日本優勝を機に「第1回世界身体障害者野球大会」が日本で開催され、故・長嶋(ながしま)茂雄(しげお)名誉監督が大会実行委員長(第2回大会以降は大会名誉顧問)を務めた。以降、WBCと同じ4年おきに開催されている。 本紹介 『当事者の「語り」から支援を紡ぐ 精神障がいがある人へのナラティヴアプローチ』  臨床発達心理士・公認心理師で奈良女子大学教育システム研究開発センター所属の山本(やまもと)智子(ともこ)さんが、『当事者の「語り」から支援を紡ぐ 精神障がいがある人へのナラティヴアプローチ』(日本評論社刊)を出版した。  精神障害のある人の心理的援助を長年行ってきた山本さんは、ナラティヴ(物語、語り)を通じて当事者の等身大の声を聴くことで、支援がスムーズに前進することがあるとしている。本書では「攻撃性の背景にある『つながり』への思い」、「しんどさから抜け出すために――他者との間にある『かたち』に気づく」、「障がいがある人と援助者、それぞれの『傷つき』を聴く」、「面談での対話を日常の体験に落とし込む」、「『カサンドラ症候群』という物語」といった切り口で、さまざまなケースをもとに支援のあり方を示している。四六判、200ページ、2640円(税込)。 アビリンピック マスコット キャラクター アビリス 2026年度地方アビリンピック開催予定 10月末〜11月 青森県、千葉県、神奈川県、滋賀県 *開催地によっては、開催日や種目ごとに会場が異なります *  は開催終了 地方アビリンピック 検索 ※日程や会場については、変更となる場合があります。 第46回全国アビリンピックは12月4日(金)〜12月6日(日)に、愛知県で開催されます。 地図文字 青森県 千葉県 神奈川県 滋賀県 【P31】 ミニコラム 第60回 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は前原委員が執筆しています。ご一読ください。 だれもが不安なく働ける「あたりまえの環境」 筑波大学人間系教授 前原和明  今回の国立大学法人筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局(以下、「筑波大学BHE」)の取材は、これからの障害者雇用のあり方、ひいては「人が働く環境」そのものを根底からみつめ直す貴重な機会となった。  これまで私たちは、障害者雇用を語る際、「障害のある人」と「健常者」を無意識に分け、いかに特別な配慮や支援を提供するかという視点に偏りがちだったように思われる。しかし、筑波大学BHEが実践しているのは、障害や診断の有無にかかわらず、だれもが持つ特性や苦手さに目を向け、すべての人が能力を最大限に発揮できる「人のエンパワーメント」を目ざすという、より本質的なアプローチである。特に印象に残ったのは、エンパワーメントを個人の適応努力に帰結させず、自ら気づき、試行錯誤できる環境や仕組みづくりに注力している点だ。  そして、それを単なる他律的・義務的な制度として終わらせず、組織を構成する全員で共有する「文化」へと時間をかけて昇華させようとする姿勢に、共生社会の形を感じることができた。障害の有無を超えて、だれもが不安なく力を発揮できる「あたりまえの環境」を組織全体で整えること。  それこそが、雇用の質を高め、結果として企業そのものを強く、柔軟なものへと変革していくのだと考えられた。 【P32】 掲示板 読者の声 最初の一歩を踏み出して見えた世界 就労継続支援B型事業所 KUKURU(くくる)たまプラーザ M・O  私は今年の5月から就労継続支援B型事業所に通い始めました。通所する事業所では、利用者の「得意」を仕事につなげ、すべての利用者に居場所をつくってくれます。例えば、私は物づくりが得意なのですが、それを知った支援者の方々が「ちゃんと値段をつけて売ってみよう」と提案してくれました。最初は「売るためにつくったわけではないし…」と消極的な気持ちでしたが、ひとつふたつと売れるたびに、「売れたよ!」と支援者さんが報告してくれ、その売上げを工賃として還元してくれました。私ははじめて働いて報酬をもらうことのうれしさを知りました。一方で、私は複雑な作業が不得手です。そのため、事業所の作業で混乱することもあります。そういうとき、私の困った表情を見て支援者さんが助けてくれます。  就労継続支援B型は決して工賃が高くありません。しかし、私はいま通所している事業所で、お金では買えない経験をさせてもらっています。障害や特性のせいで削られてしまった自信が、少しずつ形を取り戻していく感覚があります。もし一人で悲しい思いをしている人がいたら、自分に合った事業所や場所を探す一歩を踏み出してほしいなと思います。  いま、私は毎日が幸せです。 読者アンケートにご協力をお願いします! ※カメラで読み取ったリンク先が「https://krs.bz/jeed/m/hiroba_enquete」であることをご確認ください。 回答はこちらから→ 次号予告 ●この人を訪ねて  ぜんち共済株式会社(東京都)代表取締役社長の榎本重秋さんに、働く障害のある方を支える保険サービスの役割や、その存在意義などについてお話をうかがいます。 ●職場ルポ  蒲鉾などの水産練製品の製造・販売を行うフジミツ株式会社(山口県)を訪問。職場実習の受入れを機にマッチする人材を採用し、ナチュラルサポートを軸に定着と戦力化を図ってきた経緯などを紹介します。 ●グラビア  製造請負、業務委託などの事業を展開する東洋ワーク株式会社テクノセンター事業部(栃木県)を取材。チャレンジド課に所属し、組み立て作業や清掃業務を担当する障害のある従業員お二人の活躍をお伝えします。 ●編集委員が行く  菊地一文編集委員が、横浜市立若葉台特別支援学校、横浜市立二つ橋高等特別支援学校、横浜市立日野中央高等特別支援学校(神奈川県)の三校を訪問。高等教育機関の現場における、障害のある生徒のキャリア支援の取組みについて取材しました。 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_hiroba あなたの声をお待ちしています ■声−−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 古屋勝史 編集人−−企画部次長 石井伸明 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 電話 043-213-6200(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ★発送先の変更などについては、上記のメールアドレスまでご連絡ください。 ●編集委託−株式会社労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 電話 03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 11月号 令和8年10月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。また、本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 編集委員 (五十音順) 聖学院大学 准教授 石原まほろ ATUホールディングス株式会社 代表取締役 岩�ア龍太郎 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク副理事長・事務局長 金塚たかし 弘前大学大学院 教育学研究科教職実践専攻(教職大学院) 教授 菊地一文 株式会社旭化成アビリティ 代表取締役社長 清水裕之 サントリービバレッジソリューション株式会社人事本部 副部長 平岡典子 筑波大学 人間系 教授 前原和明 武庫川女子大学 准教授 増田和高 国際医療福祉大学 准教授 若林 功 【P33】 障害者雇用支援月間(9月)における厚生労働大臣表彰などの表彰式が開催されました 〜今年度はトークセッションを初めて同時開催〜  2026(令和8)年9月15日(火)、東京都港区の品川ザ・グランドホールにおいて、令和8年度障害者雇用優良事業所等表彰式が開催されました。  当日は、障害者雇用優良事業所、障害者雇用の促進と職業の安定に貢献した個人および優秀勤労障害者に対する厚生労働大臣表彰15件のほか、障害者雇用職場改善好事例の厚生労働大臣賞1件および当機構理事長賞優秀賞5件と、障害者雇用支援月間における絵画・写真コンテストの厚生労働大臣賞4件および当機構理事長賞4件の表彰が行われました。  また、表彰式とあわせて埼玉県立大学名誉教授朝日(あさひ)雅也(まさや)氏、医療法人清和会(せいわかい)理事長國分(こくぶ)清和(きよかず)氏および有限会社奥(おく)進(しん)システム代表取締役奥脇(おくわき)学(まなぶ)氏によるトークセッションも開催されました。 写真のキャプション 「未来を展望するトークセッション 障害者雇用が会社を伸ばす 〜受賞者による取組を手掛かりに〜」 障害者雇用優良事業所 厚生労働大臣表彰 株式会社ベルジョイス 様(岩手県) 優秀勤労障害者 厚生労働大臣表彰 清原(きよはら)憲(ただし)様(滋賀県) 絵画コンテスト 小学生の部 当機構理事長賞 山本(やまもと)彩生(さき)様(福岡県) 【裏表紙】 休職者の職場復帰や在職中の障害のある社員のスキルアップをお考えの事業主のみなさまへ  JEEDが運営する障害者職業能力開発校(国立職業リハビリテーションセンター、国立吉備高原職業リハビリテーションセンター)では、疾病・事故等により受障した休職中の方や、在職中の障害のある方々がより職場で活躍できるように、次のような訓練を実施しています。 休職者の職場復帰に向けた訓練 ☆疾病、事故等により受障した休職中の方が職場復帰するにあたり、必要な技術を身につけるための職業訓練です。 ☆オーダーメイドによる実施となるため、個々の事情、希望者に合わせて訓練内容の調整が可能です(期間は6カ月以内)。 (事例)建築現場の監督からCADオペレーターに職種転換 ■休職前  建築現場の監督業務に従事。 ■障害の程度  交通事故で下肢障害を負い、車いすを使用。上肢には障害なし。 ■訓練受講の経緯 ・現場監督業務への対応がむずかしくなったため、会社がハローワークに相談したところ、職業訓練の情報提供があった。 ・会社の人事担当者から、建築についての知識が豊富なのでCADの操作を習得して職場復帰してほしいとの意向があり、本人も希望したため、訓練受講に至る。 CAD操作の訓練を受けて復職を目ざす 訓練コースと期間 建築CADコース(6カ月間) 受講頻度 週5日、1日6〜7時間(自宅から通所) 修了前の取組み 職場にて、本人・会社の人事担当者・当センターでケース会議を行い、訓練の習得状況を共有し、車いす利用を想定した職場環境改善について相談。 修了後 CADオぺレーターとして内勤業務で復帰。 在職者のスキルアップを目ざす訓練 ☆新たな技能・知識の習得により、職務内容の変化に対応できるようにするための訓練です。 レディメイド訓練 訓練コース 内容 期間 ワープロソフト基礎 ・事務文書の基礎知識と文書作成 ・基本的な社内・社外文書の作成 3日間 簿記(日常業務) ・簿記の仕組み ・各種取引の仕訳と記帳(伝票を含む) 3日間 ネットワーク基礎 ・ネットワーク(LAN・WAN・インターネット)の知識とTCP/IP ・LAN構築実習 2日間 *国立職業リハビリテーションセンターにて実施した例です オーダーメイド訓練 企業のニーズに応じて訓練内容を設定 職種転換が必要な従業員に対して *2次元CADを使用した製図作業の訓練 *リモートワーク用ツールの活用訓練 *場面に適した休息の取り方に関する助言 等 上記を、6カ月の期間を設定して実施 *国立吉備高原職業リハビリテーションセンターにて実施した例です お問合せ先 国立職業リハビリテーションセンター 〒359-0042 埼玉県所沢市並木4-2 TEL:04-2995-1201(復職) 04-2995-1135(スキルアップ) 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 〒716-1241 岡山県加賀郡吉備中央町吉川7520 TEL:0866-56-9003 ※このほかにも事業主の方向けの情報を、ホームページに掲載しています。ぜひご覧ください。 11月号 令和8年10月25日発行 通巻589号(毎月1回25日発行)