私のひとこと 「通えないこと」を越えて ――障害者へのテレワーク就労支援 明星大学人文学部福祉実践学科 准教授 縄岡好晴  就労支援の現場に身を置いていると、「働く意欲はあるのに、職場まで通うことができない」という声に、たびたび出会う。働くこと自体ではなく、そこへ「通うこと」が壁になっている人が、たしかにいるのだ。テレワークの有用性は以前から指摘されながら、現実にはなかなか広がらなかった。それが、新型コロナウイルス感染症の流行を機に一気に普及し、このみえにくい壁を静かに崩しはじめている。私はこれを、一過性の流行ではなく、「働く」という営みの前提を問い直す動きとして受けとめている。 調査が映し出すもの  JEED障害者職業総合センターの調査研究報告書No.171(※)では、テレワークを経験してよかった点として「通勤の負担軽減」がもっとも多くあげられた。当事者への聞き取りでも、通勤から解放され、その時間を治療や生活にあてられることの意味が語られている。これらはだれにでもあてはまることでありながら、障害のある人にとっては、とりわけ切実なものだ。働きたいのに求職活動をしていない人にその理由をたずねた結果でも、「障害のために通勤ができない」、「通勤できる範囲に希望する職場がない」といった、移動にまつわる困難が上位を占めた。もっとも、希望する働き方としてもっとも多く選ばれたのは「テレワークと出勤の組合せ」である。在宅か出勤かではなく、双方の利点を活かしたいという、地に足のついた感覚がにじむ。  企業側からも、現状がみえてきている。山口らの全国企業調査(2022年)では、回答企業の約半数が、障害のある従業員のテレワークを実施、または実施した経験をもっていた。その多くは、もともと雇用していた障害のある従業員がテレワークに移行した事例である。裏を返せば、テレワークを前提に新たに職を得る道筋づくりは、これからの課題だといえる。になう業務は資料作成や事務、経理、データ入力などが中心だが、システム開発やAI関連のデータ処理といった、いわゆるデータワークも一定数を占めていた。導入の動機には、感染症拡大の防止に加え、通勤負担の軽減や、障害特性に合わせた労働環境の改善もあげられている。 海外の動向から  こうした傾向は、海外の研究とも重なる。米国のSchur et al(2020)は、障害のある労働者は障害のない労働者よりも在宅で働く割合が高く、とりわけ移動や外出に困難を抱える人で、その傾向が強いと報告している。欧州の研究でも、テレワークが障害のある労働者の職務満足を高め、欠勤を減らすと報告されている。感染症拡大下では、世界保健機関(WHO)が障害者のテレワークを後押しする見解を示し、各国で在宅勤務が一気に広がった。  テレワークを「合理的配慮」の一つととらえる議論も進んだ。従来は在宅勤務を配慮と認めることに慎重な見方もあったが、コロナ禍での普及が、そのとらえ方を後押ししている。障害者に特化した研究も、早くからその意義を論じてきた。Linden & Milchus(2014)は、就労する障害者を対象とした調査から、テレワークが痛みや疲労による就労の壁を和らげ、柔軟な働き方を可能にする配慮となりうることを示した。Moon et al(2014)も、企業がテレワークを、障害への配慮であると同時に、業務を組み立て直す機会としてもとらえていることを明らかにしている。  一方で、楽観だけを語るわけにはいかない。Schur et alは、在宅勤務であっても障害の有無による賃金格差は縮まらず、障害のある人が就いている職種は、そもそも在宅で完結しにくいものが多いと指摘する。テレワークが、職場での合理的配慮や、人と人とのつながりづくりを免除する口実になってはならない。孤立や昇進機会の損失といった負の側面に目を配ることも、欠かせないのである。 支援者にできること ――アセスメントの視点から  では、支援の現場は何を見立てればよいのか。先の山口らの調査で、企業が支援機関にもっとも多く求めたのは、「パソコンなどの作業スキルを高める訓練」であった。続いて、「本人の工夫と周囲の配慮のバランスを見つける訓練」や、特性に応じたコミュニケーション力の育成があがっている。これらは、本人の力だけでも、環境の調整だけでもなく、その両方を見立てるという、アセスメントの基本に重なる。テレワークによる就労を支えるうえで欠かせない視点を、表に整理した。  大切なのは、一律に在宅をすすめることではない。その人の特性や暮らしに合った形を、ともに探る姿勢である。山口らの調査でも、遠方で働く社員を、地域の支援機関がフォローする企業の姿が報告されていた。テレワークは支援の必要を減らすのではなく、その形を変える。仕事の切り出し、本人の理解、環境の調整、そして地域の支援体制との連携――にない手としての専門性が、これまで以上に問われている。  テレワークは万能の答えではない。それでも、選べる働き方が一つ増えることの意味は、決して小さくない。大切なのは在宅で働くこと自体ではなく、一人ひとりが自分らしいやり方で働き、住み慣れた地域で暮らし続けられる道筋を、いくつも用意しておくことだろう。障害のある人が、ほかのだれかになるのではなく、その人のままで地域に居場所をもち、働き、暮らしていく。テレワークが、その願いを少しでも前へ進める手立てとなることを、願ってやまない。 文献 1)障害者職業総合センター(2023)テレワークに関する障害者のニーズ等実態調査(調査研究報告書��171) 2)山口明日香(2022)国内の企業においてテレワークで働く障害者の現状に関する研究.令和3年度厚生労働省科学研究費補助金(障害者政策総合研究事業)(総括)研究報告書 3)Schur, L. A., Ameri, M., & Kruse, D. (2020) Telework after COVID: A “silver lining” for workers with disabilities? Journal of Occupational Rehabilitation, 30(4), 521-536. 4)Linden, M., & Milchus, K. (2014) Teleworkers with disabilities: Characteristics and accommodation use. Work,47(4), 473-483. 5)Moon, N. W., Linden, M. A., Bricout, J. C., & Baker, P. M.(2014) Telework rationale and implementation for people with disabilities: Considerations for employer policymaking. Work, 48(1), 105-115. 6)World Health Organization (2020)Disability considerations during the COVID-19 outbreak. 表 テレワークによる就労を支えるアセスメントの視点 視点 何を見立てるか 支援・訓練の手がかり 仕事(タスク) 在宅で切り出せる業務は何か(資料作成・事務からデータ入力、プログラミング・AI関連まで) 業務の切り出しとマッチング、職務試行 本人 作業スキル(パソコン等)、コミュニケーションの特性、体調や自己管理の力 ICTスキルの訓練、特性の自己理解、健康・生活面の支援 環境・配慮 本人の工夫と周囲の配慮のバランス、つながりの保ち方 合理的配慮の調整、地域支援機関との連携、孤立を防ぐ仕組み 出典:山口(2022)「国内の企業においてテレワークで働く障害者の現状に関する研究」(令和3年度厚生労働省科学研究費補助金研究報告書)をもとに筆者作成 縄岡好晴 (なわおか こうせい)  明星大学人文学部福祉実践学科准教授、東京医科大学兼任講師。自閉症eサービス@TOKYO代表。専門は、自閉スペクトラム症のある人への成人期の支援(就労支援、強度行動障害支援、地域の支援人材育成など)。TEACCH Autism ProgramやASDへの就労アセスメント(TTAP・BWAP2)を基盤に、個別の実践支援と、東京・群馬・山梨・長野などでの広域的な支援体制づくりの双方にたずさわる。「障害のある人が、その人らしく地域で幸せに暮らせること」を支援の原点に据え、現場と制度をつなぐ研究と人材育成に取り組んでいる。著書に『自閉スペクトラム症支援ガイド』(北樹出版、2026年11月刊行予定)ほか。 ※調査研究報告書No.171「テレワークに関する障害者のニーズ等実態調査」 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku171.html