研究開発レポート 「就労支援のためのアセスメントシート」の効果的な活用方法に関する研究 障害者職業総合センター研究部門 障害者支援部門 1 はじめに  「就労支援のためのアセスメントシート」(以下、「アセスメントシート」)(※1)は、2023(令和5)年に障害者職業総合センターで開発したアセスメントツールです。ここでいうアセスメントとは、「本人の就労能力や適性の客観的な評価を行うとともに、本人と協同して就労に関するニーズ、強みや職業上の課題を明らかにし、ニーズを実現するために必要な支援や配慮を整理すること」 をいいます。  アセスメントシートは、�@対象者の就労に関する希望・ニーズ、�A対象者の就労のための作業遂行・職業生活・対人関係に関する現状(就労のための基本的事項)、�B対象者と環境との相互作用の視点による就労継続のための望ましい環境についての情報、を支援者と対象者が協同で収集、整理することにより、両者が対象者のストレングス(長所)や成長可能性、就労するうえでの課題等を適切に理解し、就職に向けた必要な支援や配慮を検討することを目的としています。  アセスメントシートについては、効果的に活用するための実践知(活用ノウハウ)の蓄積が十分でないことが課題となっていました。このため、アセスメントシートの活用方法、活用事例等の実践知を収集し、アセスメントシートの効果的な活用方法を検討し、「活用ガイド」としてまとめることとしました。 2 調査研究の方法  アセスメントシートを活用している全国の就労支援機関に、アセスメントシートの活用方法や事例等の提供を依頼するとともに、質問紙調査、インタビュー調査を行い、アセスメントシートの活用における工夫や課題などを収集しました。  その結果をふまえ、アセスメントシートの活用方法等を具体的でわかりやすくまとめた「活用ガイド」を作成しました。 3 調査研究の内容 (1)対象者にとって特に理解がむずかしい言葉や文章  アセスメントシートでは、文章や選択肢に就労・労働に関する用語が多数記載されていますが、障害のある方にとっては、その特性や就労経験の少なさのため、労働に関する用語等に理解のむずかしさが見られることがありました。  障害種類別の傾向としては、知的障害者の場合は、記載されている言葉や文章の理解そのものについて困難を生じることがありました。発達障害者の場合は、例えば「業務日報を書くことができるとはどの程度求められるのか」といった文章や状況の解釈について困難を生じることがありました。  このため、特に理解がむずかしい言葉や文章については、支援者に対する質問紙調査の回答に基づいて、「活用ガイド」にわかりやすい「説明(例)」を記載しました。 (2)評価項目・評価領域の選択  アセスメントシートでは、シート�U(就労のための基本的事項)の評価項目とシート�V(就労継続のための環境)の評価領域について、支援者が対象者の必要性を考慮して、評価する項目・領域を選択することになっています。  支援者からは「どの項目も就職するうえで必要」との声が聞かれる一方、対象者の希望・ニーズをふまえた必要な支援・配慮を検討するうえで望ましい選択となっていない可能性もあります。  そこで、望ましい評価項目・評価領域の選択方法について検討し、「活用ガイド」に次の通り「原則」と「状況に応じた対策」を記載しました。 〈ア〉シート�U(就労のための基本的事項)の評価項目の選択 【原則】  対象者が希望している仕事や職場環境、生活環境で特に求められる評価項目を選択する。 【状況に応じた対策】 ・対象者の希望している仕事や職場環境がはっきりとしない場合は、推奨項目を主体に選択する。 ・対象者と支援者が協同評価を行うための情報が不足している項目がある場合は、それを除外して、両者が必要な情報を把握している項目のみ選択する。 ・対象者の希望している仕事や職場環境が幅広い場合は、支援・配慮の必要性に応じて幅広く選択する。 〈イ〉シート�V(就労継続のための環境)の評価領域の選択 【原則】  対象者が希望している仕事や職場環境、生活環境で配慮が必要な評価領域を選択する。 【状況に応じた対策】 ・対象者と支援者が協同評価を行うための情報が不足している領域がある場合は、それを除外して、両者が必要な情報を把握している領域のみ選択する。 ・対象者の希望する仕事や職場環境がはっきりとしない場合や幅広い場合は、あらかじめ評価領域を選択することはせず、上から順番にすべての領域のすべてのチェック項目について、支援・配慮の必要性を検討する。 (3)協同評価  アセスメントシートによるアセスメントでは、評価の際に、対象者と支援者による協同評価を行うこととしています。  協同評価についても、本調査研究の結果をふまえ、両者の評価が一致しない場合は、それぞれの具体的な事実(体験・観察)に基づく現状認識の相違点を確認したうえで、評価の対象とする具体的な場面や状況を想定し、その場面における対象者の適応状態を相談して評価を決める、などのポイントを「活用ガイド」に記載しました。 (4)効率的な実施のための工夫  支援者に対する質問紙調査結果を見ると、アセスメントシートの実施に関する現状と課題について、「実施前の準備や個別面談に時間がかかり、担当者の負担が大きい」との回答が多く、効率的な実施が課題となっていることがわかりました。  このため、個別面談の回数を3回程度に分け、1回の面談を1時間程度にして対象者の疲労による集中力の低下を防ぐ工夫が見られました。  また、個別面談前に全部または一部のシートを対象者に記入してもらう、作業場面や職場実習の観察の段階で対象者とともにその状況をふり返り、アセスメントにつながる情報を共有しておく、などの工夫が見られました。 (5)「活用ガイド」の構成と内容  事例収集、質問紙調査およびインタビュー調査で得られた情報を課題ごとに整理したうえで、アセスメントシートの効果的な活用方法等を検討し、収集した事例を担当した支援者、就労に関するアセスメントの専門家からヒアリングを行い、「活用ガイド」として体系的にまとめました。  「活用ガイド」は3章構成とし、第1章は基礎編としてアセスメントシートを活用するための基礎知識、第2章は実践編としてアセスメントシートの実践的な活用方法を載せています。そして第3章は就労支援機関別活用編として、就労移行支援事業所、障害者就業・生活支援センター、ハローワークでの活用方法や事例を掲載しています(表)。作成した「活用ガイド」(※2)は障害者職業総合センターのホームページからダウンロードできます。 ※1「就労支援のためのアセスメントシート」は、以下ホームページよりダウンロードできます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai78.html ※2「就労支援のためのアセスメントシート活用ガイド」は、以下ホームページよりダウンロードできます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai87.html ◇お問合せ先 研究企画部 企画調整室 (TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 表 「活用ガイド」の構成 第1章 基礎編 1.アセスメントシートとは 2.アセスメントにおいて重要な視点 3.アセスメントの実施方法 4.アセスメントにおける留意点 5.アセスメント結果の活用 第2章 実践編 1.アセスメントシートの対象事例 2.実施前の準備・情報収集 3.アセスメントシート記載内容の説明 4.評価項目・評価領域の選択 5.協同評価の方法 6.効率的で効果的なアセスメントを行うための工夫 7.個別面談において必要なスキル 8.個別面談で参考になる面接技法 第3章 就労支援機関別活用編 1.就労移行支援事業所における活用 2.障害者就業・生活支援センターにおける活用 3.ハローワークにおける活用