私のひとこと Dr.三好はミタ!! 〜ほんとうのさいわいをさがして〜 精神科医 三好彩 ハローワークの精神科医  みなさん、初めまして! 私はちょうど20年前、ハローワークの精神障害者ジョブコンサルタントから始まり、精神障害者の就労支援にたずさわらさせていただいている精神科医です。病院内での患者さんしか知らなかった私が、縁あってハローワークで精神障害者の就労支援にかかわった見聞録「ハローワークの精神科医Dr.三好はミタ」は、一般財団法人兵庫県雇用開発協会の機関誌で全4回の連載となってインターネットで見ることができるので、もしよかったらご一読ください。  障害者の法定雇用率の引上げで、「精神障害者雇用の需要が高まってきているけど、具体的にどう対応していいかわからない」、「雇用しても長続きしない」などと悩まれている企業も多いのではないでしょうか?何を隠そう、私も診察室とはまったく違う、患者さんのリアルな社会生活に触れることになり、企業もたくさん訪問し、新鮮で学ぶことが多い日々を過ごさせていただくことができたのだ!  私がミタ! ケースから精神障害者雇用がうまくいくコツについて、簡単に書いてみたいと思う。 統合失調症のAさんの例  統合失調症のAさん。多忙になると発症し入院になり退職することが2回続いた。主治医から就労の許可が出て、ハローワークに来所。これまでの経験から精神障害を開示しての障害者雇用での就労を希望。理工系の職種での職歴がある。緊張が強いがまじめできっちりとしており、穏やかな性格で症状は安定している。自宅近くの理系の会社を紹介され就職が決まる。職場は初めての精神障害者雇用で不安感も大きいため、職員に理解を深めてもらうための講義や、休憩場所の確保などの環境整備、緊張の強いAさんが徐々に慣れるようにするための仕事内容や量の調整の助言も行った。また、通院先を近くの病院に変えた。就職後も定着支援会議を行った。非常にまじめで休憩も取らずに黙々と働くため、上司から声かけして休憩時間を取ってもらうようにした。対人関係は苦手で職員とのコミュニケーションは乏しいが、慎重さが必要な仕事ではだれよりも正確にできるため、評価も高く職員との信頼関係もできていった。1年間の定着支援を行い、就業生活も安定しており終了しようとしたが、本人の不安があり、さらに半年延長して支援終了となった。 Aさんの対応のコツ  Aさんの例から具体的な対応のコツを解説してみたい。  Aさんだけでなく、繁忙で不調になる精神障害者は多い。繁忙期は仕事の量を調整するなど注意が必要だ。Aさんは、生まじめな性格で休憩を取ることを知らなかったり、対人コミュニケーションが苦手で、疲れていてもSOSを出しづらかったりしたことがこれまで災いしたようであった。そのため、休憩をうながしたり、体調の確認を行った。心身の体調管理は精神障害者には重要なので、体調に大きく影響する睡眠時間や食事の状況、心と体を分けた調子の10点満点での評価などを日報に記入してもらうこともよく行う。緊張が強い方も多く、慣れるのに時間がかかるし、臨機応変な対応が苦手な方も多いので、事前にスケジュールを伝えることが望ましい。精神障害者、知的障害者は自尊心が低い方が多いため、しっかり褒(ほ)めてあげてほしいし、ミスは冷静に修正できるように対応してほしい。  Aさんは主治医から就労の許可をもらっているが、医師は社会生活能力の判定は得意ではないため、医師の判断だけに頼らず、できれば、就職前に支援機関で職業に関する評価をしておくことも重要だ。  幻聴が活発でも就労している方はいる。就労に最も大事なのは病名でも病気の重症度や期間でもなく、体力、やる気、適応力である。まだ、回復が十分でない時期尚早ケースもよくある。通院先や職場は自宅から遠くないことが望ましい。精神障害者は疲れやすいからだ。  精神障害者の雇用に関して、活用できる制度や雇い入れの準備についての助言、職場での理解を深めるための講義は、JEEDの障害者職業センターやハローワークが無料で実施している。  Aさんは仕事とのマッチングもよく、どの職員よりも正確さを誇ることができた。また、教える立場にもなり、本人のやりがいや職員との信頼関係の構築にもつながった。  定着支援は重要で、本人の強い要望で安心できるまで続けた。 みんなのほんとうのさいわいを探して  就労は人生に大きく影響する。いろいろな企業を訪問するなかで、私が大きく感じたことは、「障害者雇用に積極的でうまく雇用できている会社は発展しているし、働きやすい職場である」ということだった。うまくできている会社は、障害者雇用を「法令遵守」や「社会的責任」という考えだけに偏らず、「当然なこと」と考えていた。  最近、プラネタリーヘルスやワンヘルスという、地球環境やすべての人の健康や平和が、みんな影響し合っていることから、一体的な健康を目ざす概念が医学でも出てきた。心の健康にもあてはまり、生命の尊厳、円環的因果律の絶対性、心の重要性が重みを増す。すべての障害者が充実した人生を送れるように、レッツ、精神障害者雇用!  最後に逆境や病気にも負けず、社会貢献に本気で取り組んだ2人を紹介したい。  ロバート・オーエンはイギリスの社会主義の祖で、労働者の雇用条件や環境改善により、人間性の高まりが起こり、よい社会が生まれるという理想主義的な社会主義で、協同組合を発案し全国に組織化した経済界の大物だ。福祉と労働衛生の先駆者で、晩年は心霊研究に基づくスピリチュアリズムの普及に人生を捧げ、心の重要性を訴えた。  そして、今年は「雨ニモ負ケズ」、「銀河鉄道の夜」で有名な宮沢(みやざわ)賢治(けんじ)の生誕130周年だ。賢治の作品には「ほんとうのさいわい」という言葉がよく出てくる。教師を辞めて、農民になり、農民のため羅須地人(らすちじん)協会(きょうかい)という私塾をつくり、病弱のなかで詩や童話を書き、たった1人で「せかいぜんたいのほんとうのさいわいのため」心象スケッチとして作品と人生を通じて静かな革命を行った。  「サウイフモノニ ワタシハナリタイ」 三好 彩 (みよし あや)  神戸大学医学部精神科に入局し精神科医として研鑽中に関節リウマチを発症。療養を契機にハローワークで精神障害者就労支援にたずさわるようになる。  現在、神戸市精神保健福祉センターの精神科嘱託医。JEEDの兵庫障害者職業センターの医療情報助言者、産業医としても活躍している。