エッセイ 障がいのある人が働きやすくなるヒントと考え方 最終回 伴走者である「支援者さん」に“光”を 放送作家・ライター 姫路(ひめじ)まさのり  放送作家として、数多くのテレビ・ラジオ番組の制作をにない、ライターとして、新聞や雑誌、ウェブメディアで記事を執筆。同時に、ダウン症をはじめ、自閉症などの障がい、HIV・AIDSなどの支援事業にたずさわり、当事者の声を取材。執筆や講演活動を通し、その思いを伝える。  著書に『ダウン症で、幸せでした。〜10年追いかけて分かった幸福の秘密』(東京ニュース通信社・講談社、2025年)、『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。〜ソーシャルファームという希望』(新潮社、2020年)などがある。 ダウン症の退行を目のあたりにした父親の後悔  過去4回の連載(※)では、働く意識や考え方を中心にお伝えしてきましたが、最終回は、みなさんの周りにもいらっしゃるであろう「ダウン症」について、お話しさせていただきます。私は足掛け10年以上、ダウン症の方や、ご家族の取材を続けてきました。そんななか、あるお酒の席で、お父さんからこんな話を聞かされました。  「ダウン症の息子が20歳を超えてね。自宅と作業所のくり返しが続いて、ある日、昨日できていたことが急にできなくなってね。あれよあれよと生活能力が落ちて、しゃべる言葉も少なくなってしまった。いまとなっては遅いけど、親としてもっと何かしてあげられたんじゃないかな…」  じつはダウン症に関しては、青年期を迎えて突然、生活能力が急激に落ちる、会話が減る、動作が緩慢になる、というケースが多く見受けられます。こうした現象は「退行」や「早期老化」ともいわれますが、その原因や背景は、はっきりとわかっていません。 自宅と作業所のくり返しで“成長を諦める”?  ダウン症の人は、ペースこそゆっくりでも、私たちと同じように成長します。しかし、学校を卒業して社会に放たれた途端、「成長するための学びの場」が極端に減ってしまう現実があります。もし、みなさんが同じ立場ならどう感じますか? 新しい取組みや自分の可能性にもチャレンジしたい。しかし、与えられる作業内容は同じことのくり返し…。私自身、学生時代より働いてからの方が “宿題”という提出物や残業に追われ、壁にぶちあたったり、考えを巡らすことが増えました。しかし、そういう環境のなかでこそ、「社会人としての成長」を実感することもあります。ダウン症の方の場合、そうした成長のない日々のくり返しが続くなか、どこかで“学ぶことを諦めてしまう瞬間”があるように感じるのです。  「もう成長しなくていいんだ。もうがんばらなくていいんだ」  そう感じさせてしまう現実が、成長を止めてしまう=退行の一因であると感じてしまうのです。  私がこの連載でお伝えしたかったのは、個々の事例ではなく、個々の向き合い方です。障がいのある人が、目の前の作業にやりがいを感じていると思われますか? 成長をうながせる取組みにつながっていますか? 無味無色とさえ感じてしまう毎日のくり返しが、「退行」という現実を生む可能性すらあるのだと、頭の片隅にでも置いておいてほしいのです。冒頭のお父さんが、後悔を飲み干すようにグラスを空にして、がっくりとうなだれた姿を、私自身、この先一生、忘れることはありません。 糸賀一雄氏の言葉“この子らを世の光に”の意味とは?  支援者のみなさまのお仕事は、障がいのある人の「自立」への一助となる大切なお仕事です。それぞれにスタートが違えば、ゴールも当然違います。働いたお金で生活することや、一人暮らしだけがゴールではありません。私が重要視するのは、むしろ途中の「給水所」としての役割です。ここまでのペースはどう? これからどう走る?目標はどうする? まさに支援者のみなさんは障がいのある人たちの伴走者です。  障がい者福祉の父といわれる糸賀(いとが)一雄(かずお)氏が残した有名なフレーズが“この子らを世の光に”です。障がいのある「この子らに世の光を」与えるのではなく、“この子らを世の光に”すべきだという信条です。糸賀氏は著書で、「この子たちも立派な生産者であるということを、認め合える社会をつくろうということである」と、その意味を解説しています。  目が回る忙しさのなか、高い志とやさしさを持ち合わせた支援者さんたちが、今日も全国の職場で働いていらっしゃいます。糸賀氏の言葉を借りるなら、当事者のみならず、そうした支援者さん自身も世の光にしていかなければいけません。  みなさまが障がいのある人の未来を照らし出し、そしてご自身にも、その「光」が照らされる社会の到来を、心より願っております。  長らくのご愛読、ありがとうございました。いつかみなさまの職場も見学させてくださいね! ★本誌では通常「障害」と表記しますが、姫路まさのりさんのご意向により「障がい」としています ※本連載の第1回〜第4回はJEEDホームページでご覧になれます。 (第1回・2026年3月号) https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/backnumber2025.html (第2回・2026年4月号〜第4回・2026年6月号) https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/backnumber.html (第1回) (第2回〜第4回)