編集委員が行く 本業に直結する仕事が生み出す、やりがいと定着 ―NTT西日本ルセントの取組み― 株式会社NTT西日本ルセント(大阪府) 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 取材先データ 株式会社NTT西日本ルセント 〒534-0024 大阪府大阪市都島区東野田町4-15-82 PRISM 4F TEL 06-4800-2700 大塚(おおつか)由紀子(ゆきこ) 編集委員から  大阪市の京橋にある株式会社NTT西日本ルセントのオフィスを訪ねると、静かな雰囲気のなかで、社員一人ひとりが画面に向き合い、着実に業務を進めていた。作業の指示を待つ様子はなく、各自が役割を理解しながら仕事を進めている様子が印象に残る。  今回は、現場で働く社員の声とともに、親会社の本業に関連する業務を基盤とした障がい者雇用の取組みを紹介したい。 Keyword:情報・通信業、特例子会社、精神障害、業務創出、モジュール化、業務改善、コミュニケーションツール、キャリア支援、チーム体制による支援 POINT 1 VBA、RPA、AI等を使った業務の効率化、生産性向上 2 医療機関や支援機関との連携、全社員へキャリア研修の実施とキャリア選択の支援 3 意欲を引き出す業務改善や取組みを評価する表彰制度や発表会  NTT西日本グループの特例子会社である株式会社NTT西日本ルセント(以下、「NTT西日本ルセント」)の設立は2009(平成21)年。通信インフラにかかわる業務を中心に事業を展開している。従業員約430人のうち、約350人が障がいのある社員、そのうち精神障がいのある社員がその約4分の3を占めている。同社は「仕事の質」、「人材育成の質」、「支え続ける仕組みの質」という三つの質を重視している。 本業の仕事をになうということ  同社では現在、約300に及ぶ業務をNTT西日本グループから受託している。その7〜8割はパソコンを用いた業務であり、設備系、システム開発系、営業・共通系など幅広い領域にわたる。  通信設備に関する登録業務や設計支援、顧客データ整備、請求関連業務に加え、システム開発やWebアクセシビリティ診断など、専門性の高い業務も含まれている。  こうした業務の特徴は、単なる補助作業ではなく、「NTT西日本グループ全体の事業の一部機能をになう存在」として位置づけられている点にある。  代表取締役社長の加藤(かとう)恒明(つねあき)さんは、これまでの経緯について次のように語る。  「以前は、業務の一部を切り出して受託することが中心でした。しかし、それでは仕事の全体像が見えにくく、社員がやりがいや成長を実感しにくいという課題がありました」  その大きな転機となったのが、コロナ禍であったという。  「コロナ禍をきっかけに、これまでの業務内容や進め方について、大きな見直しを迫られました。在宅勤務も含め、柔軟に対応していく必要があったためです」  そうした変化を経て、業務の受け方そのものが見直された。  「結果として、当社の業務受託のスタイルは大きく変わりました。現在は、業務の一部を切り出すのではなく、『束』や『まとまり』として受けることを基本としています」  さらに加藤さんは、特例子会社としてのあり方について、次のように述べる。  「特例子会社だからといって親会社から仕事を与えられる、という関係では十分ではありません。業務の品質を高め、改善提案を重ねることで信頼を得て、『任せたい』と思っていただける存在になることが重要だと考えています。そうした関係性があってこそ、社員のやりがいや誇りにつながります」  そのうえで加藤さんは、社員への期待についても触れた。  「障がいのある社員は、本来それぞれが力を持っている人材です。その力を活かし、発揮できる環境を整えることが、私たちの役割だと考えています」  親会社との間には、業務創出を目的としたプロジェクト体制が構築されており、主管部門と連携しながら業務の見直しや新規案件の創出が行われている(図1)。 「束の仕事」を、個人に合わせて分ける  プロジェクトを通じて「束」で受けた仕事は、「分解して割り当てる」仕組みをとっている。加藤さんは次のように説明する。  「業務は束で受けますが、まずは細かく分解します。そのうえで、一人ひとりに合った形で割り当てています」  社内で「モジュール化」と名づけられた業務設計である。この仕組みにより、障がい特性や社員一人ひとりの得意不得意に合わせて業務を提供することができる(図2)。 業務改善や生産性向上の取組みも同時並行で  それだけではない。VBA(※1)、RPA(※2)、AI等を使った業務改善を同時に行い、業務の効率化、生産性向上を図っていく。このような取組みがNTT西日本ルセントの最大の特徴だ。  日々の業務で社員がAIを積極的に活用できるようeラーニングの機会提供や勉強会を開催している。業務で積極的にAIを使う取組みを推奨するとともに社員同士でアドバイスし合ったり、特にスキルの高い社員は「エバンジェリスト(ほかの社員への伝達者)」としてほかの社員へのサポートを行えるような仕組みも整えている。NTT西日本ルセントの社員にはシステム開発のスキルを持つ社員が在籍していることも強みである。社員がNTT西日本グループの決裁作成ツールを開発することで、NTT西日本グループ社員の決裁にかかる時間を大幅短縮し、ルール逸脱や属人化防止に貢献している。また、業務に使えるMicrosoft 365アプリケーションのカタログを整備してだれもが簡単に活用できるようにしたり、各社バラバラだったポータルサイトの運用を統一し、運用負荷とコストを削減したりと、業務改善にも大いに貢献している。  システム開発担当の社員は、開発経験(スキル)のある社員を採用しているのではなく、未経験の社員でも採用後に研修などを提供して育てているのがこれまたすごい。 現場で感じるやりがい ・設計支援業務を担当するAさん  Aさんは2021(令和3)年に入社し、入社5年目になる。通信設備の設計支援業務を担当している。  「光回線の設備に関する設計支援を行っています。エリアごとの需要に応じて、必要な構成を社内システムのデータベースに登録する業務です」  業務は複数案件を並行して進めることも多く、納期も明確に設定されている。  「最初はむずかしさもありましたが、全体の流れがわかるようになってからは、仕事の意味を実感できるようになりました。自分のかかわった内容がサービスにつながっていると感じられるのは大きいです」  現在はリーダーとしての役割もになう。  「チームメンバーの進捗をみながら仕事を進めています。メンバーが正確に仕事に取り組めるようOJT形式の習熟支援などもしています。責任はありますが、その分やりがいも感じています」  短く、こうも話してくれた。  「任されている実感があります」 ・システム業務を支えるBさん  システム系の業務を担当するBさんは2023年に入社し、入社3年目になる。システム業務におけるアカウント管理および問合せ対応を行っている。  「システム内のアカウント登録・権限変更・削除に加え、各種問合せ対応を行っています。繁忙期には対応件数が増加しますが、業務量の偏りが生じないよう、チーム全体で負荷を平準化することを意識して取り組んでいます」  業務の進め方については、次のように話す。  「単なる作業対応だけでなく、『ミスを起こさない仕組みづくり』をつねに意識しています。グループから提供されるマニュアルはありますが、それをそのまま使うのではなく、社内でもわかりやすい形に整理し、だれでも対応できるように改修しています」  また、チームでの取組みについても触れた。  「定期的に確認の場を設けて、メンバー間で理解度をそろえています。自分だけがわかればよいという仕事ではないと考えています」 ・サポート担当の松山さん  2025年7月にNTT西日本株式会社から出向し、障がいのある社員と一緒に業務を行うことと合わせてサポート役を務めている松山(まつやま)憲永(のりえ)さんにも、話を聞いた。  「入社以降、設備系の仕事に従事し、障がいのある方と働く知識も経験もありませんでした」  「私に何ができるのか不安でしたが、先入観を持つことなく働くことができてよかったと思います。適切な環境を整えることで障がいのある社員の方たちが成長し、幸せなキャリアを描けるようにサポートしていきたい」という。 理念を起点とした組織づくり  同社が掲げる理念は「私たちは、私たちの成長する姿で、世の中の仲間に夢と輝き≠届けます」である。その背景には、「障がいのある社員が働く場を確保する」ことにとどまらず、「働くことを通じて社会に貢献し、一人ひとりが光り輝く存在になる」という考えがある。社名である「ルセント(Lucent)」には、「光り輝く」という意味が込められている。加藤さんは次のように話す。  「雇用されることがゴールではなく、感謝の気持ちや働くことの意義を大切にしながら、社員一人ひとりが役割を持ち、成長していくことが重要だと考えています」  この理念は、単なるスローガンではなく、業務設計や支援体制、評価制度など、組織全体の仕組みに落とし込まれている。 支える仕組みとキャリアの道筋  日々の業務は、障がいのある社員とスタッフとで進められる。アドバイザリー担当としてカウンセラーとジョブコーチが配置され社員の状況に応じた支援が行われている。医療機関や支援機関との連携も緊密に行われている。また、自社開発のコミュニケーションツール「アスドライブ」により、日々の業務や体調、ふり返りなどを上司と共有する仕組みが整備されている(図3)。  加藤さんは、「当社社員との対話会などで『キャリアアップできない』、『給料が低い』、『引退後の生活が不安』」といった社員の不安の声や、休職者の増加が気になっていました」と話す。  これらの課題を解決しようと、社員のキャリアと社員のライフを両面からサポートする必要性を感じたそうだ。キャリア支援においては、「マネジメント型キャリア」、「プロフェッショナル型キャリア」のいずれかを選択ができ、段階的に昇級できる仕組みが整えられている(25ページ図4)。また、一人ひとりの社員が幸せなキャリアを考えられるよう、全社員へキャリア研修を実施し、希望者にはキャリアカウンセリングを行い、上司との1on1ミーティングではキャリア選択支援やレーダーチャートを用いて社員と上長ができていることと課題のすり合わせを行っている。  ライフ支援においては、ライフデザインセミナー、睡眠改善施策、看護師等の専門家等も加えて、生活・医療を含めた多面的で効果的な支援を行うチームによる体制(LST〈ルセント従業員サポートチーム〉)なども整えている(25ページ図5)。 意欲を引き出す取組み  社内には150以上の委員会が設置され活発に委員会活動が行われ、業務改善や取組みを評価する表彰制度や発表会も行われている。  さらに、近隣の特例子会社と相互交流し、お互いの職場を見学したり、社員間の意見交換なども行ったりしている。  「自分たちの働きぶりや取組みをほかの特例子会社の社員に見てもらえる機会、そして自分たちもほかの特例子会社から学びや刺激を受け、客観的に自分たちの会社を見る機会にもなっているように感じます」(加藤さん) NTT西日本ルセントのこれから  加藤さんは、今後の方向性について次のように語る。  「ここで働く社員一人ひとりが、仕事に誇りややりがいを持ち、安心して長く活躍してほしいと考えています。そのために、当社ではキャリアとライフの両面から支援を行っています。一方で、NTT西日本ルセントで働くことだけがすべてだとも思っていません。世の中にはさまざまな働き方や仕事があり、それぞれに合った選択があるはずです」  そのうえで、こう続ける。  「大切なのは、自分自身で考え、自分で選べる力を持つことだと思っています」  同社が目ざすのは、単に「障がいのある社員が働き続ける場」であることではない。  「ここで働くことが、その方にとって幸せだと思える会社でありたい。そして、どんな選択も、自分の人生を幸せにするものだと納得しながら前に進める人材を育てていきたいと考えています」  本業に直結する仕事をにない、成長と選択の機会を提供する。その積重ねを、これからも磨き続けていく考えである。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、株式会社NTT西日本ルセント様のご意向により「障がい」としています ※1 VBA:Visual Basic for Applicationsの略。データ集計などを自動化させるプログラミング言語の一つ ※2 RPA:Robotic Process Automationの略。コンピュータ上の業務を自動化できるソフトウェアロボット技術のこと 図1 受託業務の量・質の確保の仕組み NTT西日本グループ一体で ルセントへの安定した業務創出を行うプロジェクト体制を構築 NTT西日本グループ 総責任者 総務人事部ESG推進室長 分野別主管組織の責任者 営業系主管部門長 設備系主管部門長 共通系主管部門長 ●必要な仕事量・受託額 ●配慮事項の提示 委託業務の創出・提示 ●業務の見直し提案 ●人材交流の相談等 NTT西日本ルセント ルセント側責任者 取締役事業開発部長 ルセント NTT西日本 効率化・改善→信頼・期待 スキルアップ→業務の拡充 図2 仕事の進め方「モジュール化」と「業務改善」 ■NTT西日本グループ社員の仕事の進め方 リスト作成 外部対応 データ加工 リスト作成 外部対応 データ加工 リスト作成 外部対応 データ加工 ■ルセント社員の仕事の進め方 チーム リスト作成 外部対応 データ加工 効率化 (VBA、RPA、AI等) 「モジュール化(細分化)」と「業務改善による効率化」をチームで取り組み、ミスを減らして、生産性向上! (資料提供:株式会社NTT西日本ルセント) 図3 自社開発のコミュニケーションツール「アスドライブ」の活用 障がい者社員が開発した社員の日々管理、キャリア支援ツール「アスドライブ」で、上司と社員のコミュニケーション、上司へのカウンセラー面談内容の共有等に活用 社員本人 アスドライブ 日報システム 体調 業務記録 振り返り 上長コメント キャリア支援 パーパス キャリアビジョン 業務目標 上長コメント 社員対応記録システム 相談内容 対応内容 健康管理指示 社員の上司・スタッフ カウンセラー (資料提供:株式会社NTT西日本ルセント) 図4 NTT西日本ルセントのキャリアアップ制度 キャリア 「マネジメント型キャリア」「プロフェッショナル型キャリア」のいずれかを選択 マネジメント型キャリア プロフェッショナル型キャリア ジョブクラス1 担当課長 ジョブクラス2 ジョブクラス3 主査 マスター ジョブクラス4 主任 キャリアチェンジ可能 チーフリーダー ジョブクラス5 リーダー リーダー ジョブクラス6 マネジメント型 キャリア選択 プロフェッショナル型 契約社員 (資料提供:株式会社NTT西日本ルセント) 図5 生活・医療含めた多面的支援を行うルセント従業員サポートチーム(LST) ライフ 看護師等の専門家等も加えて、生活・医療含めた多面的支援を行う チームを創設し、毎月対象社員についてのミーティングを開催 LST(ルセント従業員サポートチーム) 社員 社外環境等ヒアリング アドバイザリー担当 上長(サポート担当) 看護師等 産業医 家庭訪問・保護者面談 家庭 診察同行・情報共有等 主治医 支援機関 (資料提供:株式会社NTT西日本ルセント)