研究開発レポート 作業管理支援の改良 障害者職業総合センター職業センター  障害者職業総合センター職業センターでは、発達障害のある人を対象としたワークシステム・サポートプログラム(以下、「WSSP」)の実施を通じて、発達障害の特性に応じた効果的な支援を行うための技法開発・改良を行っています。  「作業管理支援」は、在職中の発達障害のある人を対象に、作業管理能力を把握し、必要な対処方法を検討することを目的として2021(令和3)年度に開発された支援技法です。支援の詳細は実践報告書39「在職中又は休職中の発達障害者に対する作業管理支援」(★1)に取りまとめ、全国の支援機関等に配布するなど、その普及に努めてきました。  ここでの「作業管理」とは、指示受け、作業計画の立案、作業実施、結果確認および報告・相談という一連の流れに沿って、与えられたタスクを期限内に完了させることをさします。  作業管理支援では、対象者の作業管理能力をアセスメントするため「作業管理課題」(以下、「課題」)を実施します。課題は、締切りのある複数のタスク(最大7種類)で構成され、対象者自身でスケジュール管理を行い、必要に応じて指示者へ質問や相談を行いながら進めていきます。図1の通り課題の実施や対処方法の検討など、全体で約11週間程度の期間が必要です。  2024(令和6)年度、地域障害者職業センターへ作業管理支援の実施状況を確認するアンケートを行ったところ、「発達障害のある人以外にも活用したい」、「通所期間が短い対象者にも実施したい」などといった改良を期待する声が寄せられました。  こうした声を受け、「適用対象者の拡大」と「柔軟な実施方法」について検討し、その結果を実践報告書43「作業管理支援の改良」(以下、「本報告」)として取りまとめましたので、その概要について紹介します。 適用対象者の拡大  作業管理能力を把握し、必要な対処方法を検討することは、精神障害や高次脳機能障害など認知機能に障害のある人にも有効であると考えられることから、適用対象者に含めることとしました。  また、求職者にとっても作業管理に関するスキルを身につけておくことは就職後の適応力を高めるうえで効果的と考え、対象の範囲としました。  ただし、対象者によっては課題の実施が心理的・認知的に負荷が高く、自信や意欲の低下につながる恐れもあります。このため、「対象者の状況に合わせた運用」と「『できたこと』に着目したアセスメント」の2点をポイントに改良を進めることとしました。 ●対象者の状況に合わせた運用  フェイズ1は、作業管理に必要な知識やスキルの獲得状況を確認する準備期間ですが、本報告では、対象者の拡大にともなうフェイズ1の実施方法について解説しています。例えば、報告や質問を自発的に行えるか、締切りのある複数のタスクを指示されても体調が大きく崩れることはないかなどを確認します。このとき、作業管理に関するスキルが十分でなくとも、部分的に対応できている点があればフェイズ2の課題に進めると判断します。例として、メモが苦手な人でも不明点を自発的に質問できる場合、課題の実施は可能と考えます。  一方、高次脳機能障害で記憶障害があり、受障前にメモを取る習慣がなかったという場合は、メモを取る練習をしてから課題に進むこともあります。本報告では、こういった対象者の状況に合わせた運用のポイントについて整理しています。  また、就労経験が浅く、作業管理に関する知識が少ない対象者もいます。このため、作業管理の流れと各段階で必要な行動などを記載したオリエンテーション資料(図2)を作成しました。各段階で必要な行動に対する自己評価をつけてもらいながら、課題に取り組む目的を確認できるような構成としています。就労経験の少ない人など、対象者の状況に応じて活用できます。 ●「できたこと」に着目したアセスメント  WSSPでの実践から、作業管理上の問題は体調、生活習慣、思考の傾向や感覚過敏など、多くの要因に影響されると考えられます。このため、本報告では、問題の原因を考えるだけでなく、「できたこと」とその状況や条件などをふり返るという視点に着目しています。これをふまえ、新たに「作業スキル発見ノート」(図3)を作成しました。  作業スキル発見ノートは、課題実施中、うまく対応できていたことに注目し、それをほかの場面でも再現していくことをうながす構成としています。例えば、「手帳を持ち歩いたことでミスなく進められた」など、成功の条件を対象者と整理していきます。また、対象者が自身の行動を「うまく対応できたときもあれば、できなかったときもあった」と評価したものがあれば、「うまく対応できたとき」の方をふり返り、それを増やしていくことを考えます。利用は必須ではありませんが、できなかったことに注目しやすい対象者とふり返り相談を行うときなどに活用できます。 柔軟な実施方法  課題は毎日定時に実施するもの、完成形が見出しにくいものなど、実行機能上さまざまなスキルを要するタスクを組み合わせて設定しますが、前述の「対象者の状況に合わせた運用」、「『できたこと』に着目したアセスメント」という視点から実施する場合、必ずしも既定のタスクをすべて実施しなくてはならないというものではありません。  実際にWSSPでは、実施日数とタスク数を絞って課題を設定することがあります。例えば、スケジュール管理について苦手意識が強く、既定の実施方法では体調を崩す可能性が高いと考えられる場合に、1回目は過去に経験したことのあるタスクを3日間設定し、2回目は未経験のタスクを含む既定通りの内容で課題を設定したという事例があります。経験があり、各タスクに必要な時間の予測がしやすい状況であれば、過度な負担とならずスケジュール管理に挑戦しやすいと考えたためです。課題終了後、「作業にかかる時間がわかっていればスケジュール管理ができた」とふり返ることで自信をつけ、見出した対処方法の継続をうながしていけるよう工夫しました。  本報告には、こういったより目的を絞った短期間での実施方法の例を掲載しているほか、課題を設定する際の留意点などを付録のQ&A集に取りまとめています。これらは、作業管理支援を実施する際の参考にしていただけます。 *****  実践報告書43「作業管理支援の改良」は、障害者職業総合センターホームページに掲載しています(★2)。また、冊子の配付を希望される場合は、当センターに直接ご連絡ください(★3)。 ★1 「実践報告書No.39」は、以下ホームページでご覧になれます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/practice39.html ★2 「実践報告書No.43」は、以下ホームページでご覧になれます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/practice43.html ★3 障害者職業総合センター 職業センター TEL:043-297-9043 https://www.nivr.jeed.go.jp/center/index.html ◇お問合せ先 研究企画部 企画調整室 (TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 図1 作業管理支援の工程 フェイズ1 課題で必要とされる基礎的な対応力の習得を図る準備段階 5週間程度を想定 フェイズ2 課題を実施し、作業管理上の能力をアセスメントし、その結果に基づく対処方法を検討する ※課題 →1週間  振返り・対処方法の検討→2週間程度 2〜3週間程度を想定 フェイズ3 再び課題を実施し、対処方法の実践的活用に向けたトレーニングを行う 2〜3週間程度を想定 図2 オリエンテーション資料(抜粋) 1.指示 1 指示 2 作業予定・計画 3 作業実施 4 結果確認 5 指示者に報告・相談 異常・緊急時 「1 指示」の中には… □ 必要な行動 □ 指示を集中して聞く □ 指示を記憶する、メモを取る □ 不明点について自分から質問する などが含まれます。 「1 指示」を完了するために… ・指示を受ける時には、素早くメモを取る準備をし、指示を正確に記憶すること ・不明点やあいまいな理解になっていることについては自分から相手に質問すること ここまでがあなたの役割となります。 図3 作業スキル発見ノート(抜粋) 3.伸びしろの発見 ふりかえりシート〜できたことの分析〜の「±(できたり、できなかったりした)」と評価した項目について振返ります。 「±(できたり、できなかったりした)」と評価した項目は、少しの工夫で「できる」に変化する可能性があります。 「できたり、できなかったりしたこと」が「できた」ときは、なぜ、できたのか整理しましょう。 <指示受け> (例)落ち着いて話を聞けたときは、指示をメモし、復唱できた <作業予定・計画立案> (例)1ブロックの作業時間が5〜10分の作業は、作業量が多くても作業時間の見積もりができた 写真のキャプション 実践報告書No.43