職場ルポ 観光業を支えるクリーニング工場で、戦力として働き続ける 太洋リネンサプライ株式会社(沖縄県) ホテルのリネン類をクリーニングする工場では、人の手が必要な工程も多く、一緒に働く障がいのある従業員も、大事な戦力として地域の観光業を支えている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野貴 取材先データ 太洋リネンサプライ株式会社 〒907-0004 沖縄県石垣市字登野城(とのしろ)1281 TEL 0980-82-6116 FAX 0980-82-7237 Keyword:知的障害、クリーニング、リネンサプライ、もにす認定、障害者雇用職場改善好事例、優秀勤労障害者、特別支援学校、障害者職業生活相談員 POINT 1 本人の意欲や適性に合わせ、工場内のさまざまな工程を経験させて配属 2 家族を交えた面談や支援機関との連携で、生活環境を含めたサポートも 3 工場の管理職やリーダー、労務担当者が役割分担し多面的な支援を図る ホテル等のリネンクリーニング  沖縄県の石日(いしがきじま)にある「太洋リネンサプライ株式会社」(以下、「太洋リネンサプライ」)は、同じ石垣島で「宮平(みやひら)観光株式会社」が運営する「南の美(ちゅ)ら花(はな)ホテルミヤヒラ」の洗濯部門が独立する形で、1983(昭和58)年に有限会社として創業し、2004(平成16)年に株式会社となった。島内の大型リゾートホテルなど100カ所以上のホテル等へのリネンサプライサービスを提供している。  太洋リネンサプライは、早くから障がい者雇用を積極的に進めてきたことでも知られ、いまでは全従業員83人のうち障がいのある従業員は14人(身体障がい1人、知的障がい12人、精神障がい1人)、「障害者雇用率」は22.89%(2026〈令和8〉年6月1日現在)にのぼるという。2021年に沖縄県第1号の「もにす認定企業」(※1)となり、2022年には当機構(JEED)の「令和4年度障害者雇用職場改善好事例」で独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長賞優秀賞を受賞した。  常務取締役を務める三木(みき)誠(まこと)さんは、これまでの障がい者雇用について、「石垣島という地域性もあり、障がいがあるから特別というよりも、『同じ地域のみんなが一緒に働く』という感覚が近いと思います」と語る。  地域の観光インフラを支えるリネンサプライ企業の現場で、上司や同僚とともに活躍する従業員の姿と、職場全体で進めてきたこれまでの取組みを紹介する。 風疹(ふうしん)流行の影響を受けて  太洋リネンサプライが障がい者雇用を始めたきっかけには、地域の特殊事情があったという。沖縄本土復帰前の1965年ごろ、沖縄本島では米軍基地を経由して風疹が大流行した影響を受け、石垣島でも難聴などの障がいのある子どもが生まれることが少なくなかった。その子どもたちが当時の沖縄県立北城(きたしろ)ろう学校八重山(やえやま)分校を卒業し、就労先が必要との声が高まっていた1983年、ちょうど創業した太洋リネンサプライでも採用を始めたという。  同校は翌年に全生徒が卒業し閉校となったが、その後も石垣島にある沖縄県立八重山養護学校(現・八重山特別支援学校)の卒業生や、障がいのある社会人を採用してきたそうだ。1995年には「重度障害者多数雇用事業所」の認定工場となっている。創業当初から働き続けた従業員も多く、これまでに5人が「優秀勤労障害者」として当機構理事長表彰や沖縄県知事表彰などを受賞している。 勤続33年の大ベテラン  早速、工場を見学させてもらった。午前9時すぎ、朝のラジオ体操から始まる工場内には、使用ずみリネン類を積んだワゴンが、あちらこちらに所狭しと置かれている。ある程度仕分けされたシーツや布団カバー、タオルなどを、それぞれ50kgごとに時間差で洗濯できる大型の全自動連続洗濯機に投入。さらに脱水・乾燥工程を経てラインから送り出される。  そこからアイロンの役割を果たす巨大な仕上げロール機へと流れていくが、1枚ずつセットするのは人の手である。  ロール機の出口ではホテルごとにまとめるため、どのホテルのどの種類のものか一目でわかるよう、シーツの端にさまざまな色の糸で線が縫いつけられている。動き続けるロール機に合わせ、数人の従業員がそれぞれシーツを広げ、短辺の角2カ所を機械に引っかけていた。この作業を慣れた手つきで行っていた1人が、勤続33年になる田島(たじま)朝名義(あさなぎ)さん(51歳)だ。  八重山養護学校を卒業した1993年に入社した田島さんは、「先輩たちの教えがよく、ここまで働いてきました。特に、掛け布団カバーの扱い方が少しむずかしかったのですが、いまではきれいに機械へ流せるようになりました」と話す。  高齢の両親と同居し、一家の大黒柱のような存在だという田島さんは、「お給料をもらったら、いつも母親に報告しています」と笑顔を見せた。また、中学生時代から沖縄空手を続けており、いまでは師範代として指導にもあたっているという。「これからも健康で、長く働き続けることが目標です」と語る田島さんは、2020年に「優秀勤労障害者」として当機構理事長努力賞を受賞している。  三木さんは、田島さんのように長く勤める従業員について、「仕事との相性がよかったこともあると思います」と説明する。  「リネン業務には、コツコツ続ける力やていねいさ、決まった動作を続ける力を活かせる作業が多くあります。一人ひとりが、得意な部分をもっとも発揮できる工程や部署で、自信をつけながらやりがいも感じているようです。そして何より、現場を支える大きな戦力になっています」 「やってみたい」との意欲に応える  田島さんたちがロール機に流し込んだシーツは、きれいに折りたたまれた状態で出てくるが、それを種類別に結束する作業にも人の手が欠かせない。この工程を担当しているのが、2022年に入社した上地(うえち)貴海斗(きみと)さん(22歳)だ。  「昔からきれい好きで、小学生のころから洗濯物をたたむ手伝いもしていました」という上地さん。八重山特別支援学校在籍時に職場実習を経験するなかで、太洋リネンサプライがもっとも自分に合っていると感じたそうだ。「スーパーなどでの職場実習は、商品の賞味期限を確認しながら売り場に並べる作業が不得意でした」(上地さん)  入社後は、田島さんたちと同じロール機への流し込み作業からスタートしたが、2〜3カ月ほど経ったころ、生産部の主幹を務める喜舎場(きしゃば)孫人(まごと)さんに、「結束作業をやってみたい」と申し出たという。  しかし喜舎場さんによると、結束作業は機械を使って行うものの、配送前の検品も兼ねているため責任の重い仕事だという。  「同じ種類のシーツごとに流すなかでも、切り替わりのタイミングなどで別の種類が紛れ込みます。それを目視で素早く選り分けるのですが、もし紛れ込んだまま結束されると、洗い直すことになります」  そのため以前は、喜舎場さんたちベテラン2人が担当していたが、上地さんの意欲を買った喜舎場さんが「じゃあ教えるから、一緒にやろう」と応じ、マンツーマンでの指導が始まった。  まず、見分けるポイントとなるシーツ端の縫い糸の色について「どの種類を示すのか」を3桁の番号で覚える必要があった。現場では、シーツの束をめくりながら確認していくが、上地さんは「最初は見逃してしまうミスが何十回もありました」とふり返る。そのたびに見逃した原因を一緒に確認し、少しずつコツを身につけていったそうだ。  1カ月ほどで無事に独り立ちできるようになった上地さんは、「諦めずに努力を重ねたことで腕を上げられたことが、うれしかったです」と話す。「いまでは職場の後輩に教えることもあり、仕事がどんどん楽しくなって、大きなやりがいにつながっています」  喜舎場さんは、上地さんについて「集中力が途切れず、好きなことにはとことんのめり込むところが長所です。今後もいろいろな仕事を任せていけたらよいなと思っています」と頼もしそうに語った。  読書家で落語好きでもあるという上地さんは、職場の忘年会で落語を披露し大好評だったという。現在の目標は一人暮らしを始めることで、いまは自動車教習所に通い運転免許の取得を目ざしているそうだ。 ていねいな配送確認作業  クリーニングずみのリネン類は、工場に隣接する配送エリアへ集められ、取引先からの発注書によって配送準備へと移る。ホテル業と同様に1日も休むことができず、繁忙期は深夜0時まで稼働するため、アルバイト従業員も含めたシフト制を導入しているという。  この配送エリアでは、舟道(ふなみち)麗音(れおん)さん(22歳)が、運ばれてくるリネン類のワゴンの間を行き来しながら、忙しく書類に書き込む作業をしていた。  舟道さんも八重山特別支援学校の卒業生だ。職場実習では複数の企業を回ったが、太洋リネンサプライがもっとも働きやすい雰囲気だと感じたという。もともと人見知りが強い性格だという舟道さんは「周りの人たちが何かと気にかけてくれたのがうれしかったです」とふり返る。  2023年に入社した舟道さんは、まず工場内の仕事をひと通り経験することになった。工場長代理を務める宜保(ぎぼ)潤(じゅん)さんによると、「本人の適性を見きわめるため、枕カバーのロール機投入や乾燥後のタオルの仕分け作業などを経験してもらいましたが、どの業務もきちんとこなしました」という。  その後、配送準備の専門部署を新たに設けることになり、舟道さんもその一員として抜てきされた。宜保さんは、「舟道さんはミスがとても少ないところが長所です。発注表の数字を何度も確認するていねいさのおかげです」と評価する。  舟道さん自身も、日ごろから「間違えないこと」を心がけている。  「とにかく紙に書くようにしています。ノートを見ながら種類を書き出して確認しています。いまはずいぶん慣れました」  いまではもっとも経験が長い担当者だという舟道さんは「任される仕事が増え、急な手伝いも対応できるようになって、やりがいを感じています」と笑顔を見せる。  また、「この職場では、休憩時間にも周りのみなさんが話しかけてくれるので、自分からコミュニケーションをとれるようになりました」という舟道さん。取引先などの来客があったときも、自然に対応できるようになったそうだ。  宜保さんは、「舟道さんは、いまの担当からなかなか外せないほど優秀ですが、将来はさらにさまざまな部署を担当し、現場リーダーのような立場に育ってほしいですね」と期待を寄せていた。 家族と本人と三者面談  太洋リネンサプライでは2017年以降、家族と本人を交えた三者面談を定期的に行ってきた。三木さんは「前年にこの職場に来た私自身が、一人ひとりのことを理解しておきたいと考えて始めましたが、全体としてもよい効果が生まれました」と説明する。  最初の面談では、入社の経緯や家族の状況、本人の生活習慣や休日の過ごし方などを可能な範囲で話してもらった。職場側からも、本人の長所を含めた仕事ぶりなどを伝えることで、互いの理解や信頼関係が深まったという。  「本人の成長を知ったご家族からとても好評だっただけでなく、家族の前で評価してもらったことで、本人のモチベーションアップにもつながったようでした」  日ごろも、職場での様子や健康診断の結果など、心配なことがある場合、宜保さんや喜舎場さんが家族と直接連絡をとり、情報共有や相談をしてきたそうだ。  ときには、障がいのある従業員同士でトラブルになることもある。喜舎場さんたちが間に入っても収まらないときは、「家族に連絡を入れ、しばらく有給休暇を取って気持ちを落ち着かせてもらうこともあります」(宜保さん)  通常採用で従業員が入社するときには、三木さんが「知的障がいのある人や、耳が聞こえにくい人、声が出にくい人、外国人など、いろいろな人が一緒に働いているから、みんなで協力していこう」と伝えている。  現場をまとめる宜保さんも「特別な扱いをするわけではありませんが、周囲には、長い目でゆっくり育ててほしいと話しています。いまでは一緒に働く従業員が一番よく理解していて、やわらかい口調で話すなど配慮してくれています」とのことだ。三木さんがつけ加える。  「担当者だけでなく、現場の先輩やパートさんたちが自然に声をかけ合いながら支えてくれていることも大きいですね。この積重ねが、本人の『ここなら安心して働ける』という気持ちにつながっているのではないかと感じています」 支援の役割を分散化  障がい者雇用については数年前まで、宜保さんや喜舎場さんが従業員一人ひとりの面倒をみるような形で対応していた。しかし、生産現場全体の業務量が拡大してきたことから、いまは労務担当者を置いているそうだ。役割を分散化することで、偏りがちだった負担を軽減するだけでなく、より多面的な支援ができるようになったという。  現在その労務担当者が、総務部の係長を務める古堅(ふるげん)美樹(みき)さんだ。従業員の勤怠管理をはじめ各種手続き、家庭とのやりとり、ハローワークや支援機関との連携、実習生の受入れ準備などをになっている。2022年には「障害者職業生活相談員」の資格認定講習(※2)を受け、従業員への精神的なサポートにも自信がついたそうだ。  日ごろは社内専用SNSを使い、従業員の体調を気遣うなどちょっとしたコミュニケーションを交わして、さりげなく見守る環境づくりにも取り組んでいる。  「例えば女性従業員の場合、女性にしか相談できないこともありますから、様子を見ながら直接話を聞くこともあります」と古堅さん。  あるときは、休みがちになっていた従業員と話をしたところ、気持ちがすっきりしたのか、その後は仕事も前向きになったという。「従業員のなかには私の同級生の子どももいて、ざっくばらんに踏み込んでサポートできることもありますね」(古堅さん)。場合によっては、本人の生活環境を改善できるよう家族とも連絡しながら「夜中までスマホばかり見ているのはよくないよ」、「朝ごはん、しっかり食べてきてね」と声をかけ続けることもあるという。  これについて三木さんは「本人の働きぶりには、家庭環境の課題や生活習慣の乱れが影響していることも少なくありません。これは、障がいのあるなしに関係なく同じですね」と語る。  最近は、障がいのある従業員の高齢化といった課題も出始めている。職場では、比較的体力負担の少ないカラーダスターの製品化作業(※3)や配送補助などへ配置転換する工夫もしているが、「本人の生活全体を含めた課題も出てきています」と三木さん。  本人や家族だけで問題を抱え込まないよう、定期的な三者面談を行うほか、障害者就業・生活支援センター、石垣市障がい者基幹相談支援センターなど就労支援機関と連携しながら、将来的に福祉的支援へスムーズにつながるよう情報共有を進めている。 工場火災を乗り越えて  太洋リネンサプライには大きな試練もあった。2024年1月初旬、工場火災が発生したのだ。全焼は免れたものの、機械などが使えなくなり、一時は操業停止という厳しい状況に陥った。復旧完工式を迎えるまで約1年を要したが、その間、沖縄本島などの同業者から協力を得たほか、仮復旧した現場は最大一日18時間稼働したという。現場対応をしていた宜保さんは、「慣れない夜間勤務にも、多くの従業員が自ら手をあげてくれたおかげで、なんとか乗り切れました」とふり返る。  三木さんも「障がいのある従業員も含め、多くの人が不安を抱えていたはずですが、辞めずに残ってくれたことは、本当にありがたいことでした。あらためて、会社は設備だけでは成り立たない、最後は『人』なのだと実感しました」と語ったうえで、「火災を乗り越えられた団結力も、障がい者雇用に長年取り組んできたなかでつちかわれたものかもしれないです」と話す。  「職場内ではこれまで、障がいのある従業員に対し『どうすれば伝わるか』、『どうすれば働きやすいか』を自然と考える社風が育まれ、その結果として、職場全体のコミュニケーションやチームワークの向上にもつながってきたと感じます」  最後に、太洋リネンサプライの今後について、三木さんが語ってくれた。  「太洋リネンサプライでは現在、若年者、70歳近い高齢者や外国人技能実習生、子育て・介護世代など、“多様な人材”が働いています。そうした職場で、相手を理解する姿勢や支え合う文化が育ってきたことは、会社としても、大きな財産だと考えています。今後も、障がいの有無にかかわらず、『ここで働いてよかった』と思ってもらえる職場づくりと、地域のためにできることを続けていくつもりです」 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、太洋リネンサプライ株式会社様のご意向により「障がい」としています ※1 「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)」については、厚生労働省ホームページをご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/monisu.html ※2 「障害者職業生活相談員資格認定講習」については、JEEDホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/employer/employer04/koshu.html ※3 カラーダスターの製品化作業:洗濯・乾燥した3種類のマイクロファイバー製ダスターを、色ごとに仕分けし、20枚ずつ束ねてセットにする作業 写真のキャプション 太洋リネンサプライ株式会社は、リネン類のクリーニングを手がけている 太洋リネンサプライ株式会社常務取締役の三木誠さん 仕上げロール機にシーツをセットする工程では人の手が欠かせない 大型の全自動連続洗濯機からリネン類が送り出される 勤続33年の田島朝名義さん シーツの端を仕上げロール機にセットする田島さん 入社4年目の上地貴海斗さん 舟道さんは配送確認作業を担当している ロール機で折りたたまれたシーツを検品する上地さん 生産部主幹の喜舎場孫人さん 入社3年目の舟道麗音さん 工場長代理の宜保潤さん 総務部係長の古堅美樹さん