研究開発レポート 企業における障害者雇用の質の向上に向けた取組の現状と課題に関する調査研究 障害者職業総合センター研究部門 事業主支援部門 1 はじめに  本調査研究は、企業における障害者雇用の質の向上に関する取組の現状と課題および必要な支援の内容を明らかにすること、企業の具体的な取組事例を紹介することで、障害者雇用の質の向上に資するための政策の検討や、支援機関による企業への支援などに役立つものとすることを目的として実施しました。ここではその一部について紹介します。 2 企業アンケート調査  2024(令和6)年10月〜11月にWebアンケートを実施しました。調査対象は、2023年6月1日現在障害者を1人以上雇用している一般企業と特例子会社で、有効回答数は、一般企業2100社、特例子会社195社、有効回答割合は一般企業21.1%、特例子会社32.6%でした。 (1)能力開発、評価・処遇等の取組  回答企業の障害者雇用において、業務とのマッチング、教育訓練(OJT)、教育訓練(Off−JT)、評価・処遇、中長期的なキャリア形成に関する合計25項目の取組を実施した実績について、正社員、非正社員別にたずねました(25項目の取組は表の通り)。業務とのマッチングに関する取組については、一般企業、特例子会社とも多くの企業が何らかの取組を実施している一方、中長期的なキャリア形成に関する取組は、一般企業において取組の実施数が「0」の企業も3割弱あり、まだ具体的な取組を実施した実績のない企業も一定数あることがわかりました。正社員と非正社員の比較では、特例子会社においてはすべての項目、一般企業においても大半の項目で、「正社員に対し実施したことがある」のほうが「非正社員に対し実施したことがある」よりも回答割合が高い結果でした(29ページ図)。  一般企業と特例子会社の比較では、25項目中23項目において、特例子会社のほうが一般企業よりも「正社員/非正社員に対し実施したことがある」の回答割合が高い結果でした。 (2)取組の効果  能力開発、評価・処遇等の取組によりもたらされたと思われる、取組の効果に関する10項目について、「あてはまる」と「ややあてはまる」の合計で見ると、一般企業では、「障害者が元々有していた能力を適切に発揮できる機会が増加した」が43.5%と最も高く、次いで「障害者の業務や職場に対する満足度が向上した」が42.3%でした。特例子会社では、「障害者の業務や職場に対する満足度が向上した」が81.1%と最も高く、次いで「障害者の職業能力やスキルが向上した」が78.5%でした。職場や企業全体に対する効果に関する項目へのポジティブな回答は、一般企業ではいずれも20%未満でしたが、特例子会社では、30〜60%の回答割合でした。 3 企業ヒアリング調査  2025年2月〜5月に、事業所への訪問調査またはオンライン会議システムを用いたヒアリング調査を実施しました。調査対象は、アンケート調査協力企業のなかで障害者雇用の質の向上に向けた取組を積極的に実施している企業13社(一般企業8社、特例子会社5社)を選定しました。  企業ヒアリング調査を通じ、「障害者雇用の質としてイメージするもの」、「質の向上に向けた具体的取組と取組を開始したきっかけ、促進要因」、「障害者の意向・希望などを把握するための工夫」、「質の向上に向けた取組の効果」、「課題点、必要な制度や支援」について把握することができました。企業が障害者雇用の質としてイメージするものについては、安心して働ける職場環境、高い処遇、キャリア形成などの「障害者にとっての雇用の質」と、障害者が業務をしっかりと実施して、企業の業績に貢献するといった「企業にとっての雇用の質」が見られました。障害者雇用の質の向上に向けた取組の障害者本人への効果の事例としては、@障害者の自発性や責任感の醸成、A障害者の定着率の向上、B障害者の処遇の向上、C障害者の満足度の向上などが見られました。職場全体への波及効果の事例としては、@障害のない従業員の障害者への理解の促進、A障害者雇用を生かした職場環境のバリアフリー化、B企業ブランド価値の向上などが見られました。取組事例は後述の調査研究報告書およびパンフレットに掲載していますので、ぜひご覧ください。 4 おわりに  2022年障害者雇用促進法改正では、事業主の責務として障害者の能力開発および向上が含まれることが明確化されました。厚生労働省の「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会報告書」では、障害者雇用の「質」として特に重視されるべき五つの要素があげられ、制度的対応として障害者雇用の「質」のガイドライン等の創設、および「質」の向上に向けた事業主の認定制度について、大企業を含むすべての企業を新たに認定制度の対象としたうえで、認定基準等をあらためて見直す方向性が示されました。障害者雇用の質の向上が求められるなかで、企業や事業主支援を行う支援機関がその取組を行う際に今回の調査研究がその一助となれば幸いです。  本レポートの元となる調査研究報告書No.184(※1)はホームページからご覧いただけます。また、関連する研究成果物として、マニュアルNo.86「障害者雇用の質の向上に向けて」(事業主、就労支援機関向けパンフレット)(※2)を作成しましたので、あわせてご活用ください。 ※1 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku184.html ※2 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai86.html ◇お問合せ先 研究企画部企画調整室 (TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 表 能力開発、評価・処遇等の取組 カテゴリ 項目 業務とのマッチング 「複数の手段による、障害者の能力や特性の把握(面接、作業観察、支援機関からの情報提供等)」、「入社前の実習やインターンシップ」、「担当職務についての障害者本人の希望の確認」、「個々の障害者の能力や特性に合った職務の創出又は再構成」、「障害者の能力や特性と業務とのマッチングの定期的な状況確認」 教育訓練(OJT) 「多様な業務への取組機会の提供」、「担当する作業の手順やスケジュール等に関する、一定の責任や裁量の付与」、「障害者が指導役やチームリーダー役を経験する機会の提供」、「障害者の業務パフォーマンスに関する振り返り・フィードバックの定期的な実施」 教育訓練(Off-JT) 「障害のない従業員と共通の研修」、「障害のある従業員に向けた独自の研修」、「自己啓発に関する補助金の支給」、「資格取得に対するインセンティブの付与」、「社内表彰制度」 評価・処遇 「昇進・昇格・賞与等について、障害のない従業員と共通の基準の適用」、「障害に配慮した昇進・昇格・賞与等の基準の設定または基準の明確化」、「障害者の希望・能力を踏まえた業務目標の設定」、「業務実績等を踏まえた人事評価の実施」、「人事評価に基づく待遇の実施」 中長期的なキャリア形成 「会社の人材育成方針や身につけるべき知識・能力の伝達」、「個別のキャリアプラン、教育訓練の計画等の作成」、「特定の仕事を極める、様々な業務を経験する、リーダーや管理職に昇進するなど、複数のキャリアパスの提示」、「キャリアラダー(職階や年次等の段階ごとに職務内容や必要なスキルを整理したもの)等の適用」、「障害者も参加可能なキャリアに関する研修の実施(キャリアデザイン研修等)」、「キャリアに関する相談の実施(上司、人事担当者、キャリアコンサルタント等)」 図 業務とのマッチング、中長期的なキャリア形成の取組(一般企業)〔複数回答〕 業務とのマッチング (n=2,100) 正社員に対し実施したことがある 非正社員に対し実施したことがある 実施したことがない 無回答 @複数の手段による、障害者の能力や特性の把握(面接、作業観察、支援機関からの情報提供等) 40.2% 39.4% 34.3% 2.0% A入社前の実習やインターンシップ 21.8% 29.7% 53.5% 1.9% B担当職務についての障害者本人の希望の確認 50.5% 45.8% 21.0% 2.1% C個々の障害者の能力や特性に合った職務の創出又は再構成 34.9% 36.0% 39.8% 2.0% D障害者の能力や特性と業務とのマッチングの定期的な状況確認 41.7% 42.4% 30.1% 1.9% 中長期的なキャリア形成 (n=2,100) @会社の人材育成方針や身につけるべき知識・能力の伝達 47.3% 24.6% 34.7% 7.3% A個別のキャリアプラン、教育訓練の計画等の作成 25.9% 10.8% 61.1% 8.0% B特定の仕事を極める、様々な業務を経験する、リーダーや管理職に昇進するなど、複数のキャリアパスの提示 25.7% 6.8% 63.5% 7.9% Cキャリアラダー(職階や年次等の段階ごとに職務内容や必要なスキルを整理したもの)等の適用 18.9% 4.8% 70.6% 8.2% D障害者も参加可能なキャリアに関する研修の実施(キャリアデザイン研修等) 19.0% 7.7% 69.7% 8.0% Eキャリアに関する相談の実施(上司、人事担当者、キャリアコンサルタント等) 31.5% 17.4% 53.0% 7.4%