クローズアップ 安心して働き、能力を発揮できる職場の環境づくり 第2回 正しい理解から始める、職場内の有効なサポート  障害のある人など多様な人材が安心して働き、その能力を十分に発揮できる職場づくりが、いま企業に求められています。そこで障害者の雇用や就労支援を専門とする上村勇夫さんに、職場において障害のある人の安心感を高め、能力発揮をうながすために有効な環境整備や周囲のサポートのあり方などについて、本連載で解説していただきます。第2回は、正しい理解に基づいた職場でのサポートについてです。 執筆者プロフィール 日本社会事業大学 社会福祉学部 共生社会デザイン学科 准教授、博士(社会福祉学) 上村(うえむら)勇夫(いさお)さん  企業、障害者地域作業所、ジョブコーチ等を経て、現職。障害者雇用における職場内支援のあり方と、生活支援について研究。関連論文で日本社会福祉学会奨励賞受賞。就労継続に関する著書も執筆。 はじめに― 職場でのサポートは「正しい理解」から始まる  前回の第1回(※)では、障害者雇用において「採用」と同じかそれ以上に「入社後の定着」が重要であり、そのためには仕事だけでなく「生活の土台」を視野に入れることが不可欠であるとお伝えしました。  定着への第一歩を踏み出すにあたり、まず向き合わなければならないのは、障害者雇用を正しく理解するための「基礎知識」の習得です。現場の従業員や人事担当者が、障害に対する誤解や先入観を持ったままでは、どれだけ熱意があっても空回りしてしまいます。今回は、障害者雇用担当の初任者が押さえるべき基礎知識を確認したうえで、それを現場の「人的サポート」や「実践的な思考法」へとつなげていくアプローチを解説します。 企業が押さえるべき 障害者雇用の基礎知識  障害のある従業員を職場の戦力として迎えるために、まずは以下の五つの基礎知識について社内で共通理解を形成することが大切です。 @障害特性の「正しい理解」と個別性  知的障害、精神障害、発達障害など、障害の種別によって得意なことや苦手なことの傾向(特性)は異なります。しかし、もっとも重要なのは「〇〇障害だからこうだ」と一括りにしないことです。特性は一人ひとり異なり、体調や環境によっても変化します。診断名にとらわれず、目の前にいる「その人自身」の強みと困りごとに目を向けることがスタートとなります。 A合理的配慮の提供  2016(平成28)年4月より、雇用の分野における障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化されました。これは、働くうえでの障壁(バリア)を取り除くための配慮や工夫を、企業側が負担になりすぎない範囲で行うことです。特別な待遇ではなく、だれもが対等に力を発揮するための「スタートラインを揃(そろ)える環境調整」であると理解してください。 B指導における心構え  障害のある従業員への指導の基本は、「指示の具体化」と「肯定的なフィードバック」です。「適当にやっておいて」といった曖昧な指示を避け、例えば、「緑色の洗剤ボトルを持ってください」、「洗剤のキャップのこの線まで液体を入れてください」、「その液体をバケツに入れてください」というように、具体的な言葉で伝えます。@で触れたように、個人によって理解の仕方などは変わりますが、いかにわかりやすく伝えるかが大切になってきます。  また、できたことをその都度「ポジティブにフィードバックする」、「感謝を伝える」ことで、障害のある従業員の自己効力感を高めることができます。 C職場環境の「見える化」  物理的な段差などの解消だけでなく、「仕事の進め方のバリアフリー化」を進めます。例えば作業の手順を時系列でまとめたマニュアルの作成、一日のスケジュール表の作成など、仕事の進め方を「見える化」することで、障害のある従業員は安心して業務に取り組めるようになります。 D社内の支援体制と支援機関との連携  障害者雇用を人事担当者や特定の部署だけに任せてはいけません。経営層が障害者雇用の明確な方針を示し、受入れ部署の従業員に対して雇用管理についての研修を行うなど、会社全体でサポートする体制を構築することが大切です。  また、生活面でのサポートが必要になることもあります。そのときに、外部の支援機関との連携が重要となりますので、障害のある従業員が利用している支援機関と関係を構築しておくことも有効になってきます。 知識を支援の力に変える  これらの基礎知識は、障害者雇用の強力な土台となります。しかし、マニュアルなどを整えるだけで、障害のある従業員が働く現場が円滑に回るわけではありません。知識を支援の力に変えるのは、日々、障害のある従業員とともに働く同僚や上司による一人ひとりの特性をふまえたちょっとした配慮です。  同僚や上司は、日々の指導などを行いながら、障害のある従業員の表情や様子の変化にもっとも早く気づける存在です。例えば、正確に仕事が進んでいても、「今日はいつもより挨拶の声が小さいな」、「作業の手が少し止まりがちだな」といった「かすかなサイン」をキャッチすること。そして、「何か困っていることはない?」と声をかけ、精神的な安心感を提供すること。  知識を活かしつつ、こうした日々の細やかなかかわりや配慮を行うことが障害のある従業員の安心感を高め、能力発揮をうながすための支援へとつながります。 「違和感」を支援に変える 「4K+1K」の思考法  では、職場の同僚や上司が無理なく、かつ的確にこのような支援を行うにはどうすればよいのでしょうか。ここで役立つのが、現場の小さな違和感を具体的な支援に変える、問題を「見立てる」ための「4K+1K」(図)という思考フレームワークです。  職場の同僚や上司は、日々の業務で以下の四つの「K」のサイクルを意識的に回していきます。 @【感じる】障害のある従業員の様子に「いつもと違うな」という些細な違和感や変化を感じとる。 A【仮説を考える】その違和感や変化の背景に何があるのか(睡眠不足か、私生活での不安かなど)を想像し、仮説を考える。 B【検証する】本人への声かけや、支援機関との情報共有を通じて、その仮説を検証する。 C【気づきを得る】検証結果をもとに、「いまの本人にはこの支援や配慮が必要だ」という具体的な方法を導き出す。  そして、この四つのサイクルを支えるのが、もう一つのKであるD【価値・行動規範・知識】です。先述した基礎知識や「一人ひとりの個性を尊重し、ともに働く仲間として大切にする」という共通の価値観・行動規範を持っているからこそ、職場での違和感をよりよい職場環境を創るための契機にすることができるのです。 おわりに― 基礎知識と現場の実践をつなぐもの  障害者雇用における基礎知識は、いわば車の「車体」です。しかし、それだけでは車は走りません。職場の同僚や上司の理解や配慮と、違和感を支援に変える思考法(4K+1K)というエンジンが加わることで、障害のある従業員が活き活きと活躍できる職場が動き出します。  最初から完璧な職場を目ざす必要はありません。まずは基本を正しく理解し、現場での小さな気づきを職場で共有していくこと。その積重ねが、すべての従業員にとって働きやすい組織を創り上げていくのです。 ※第1回(2026年8月号)はJEEDホームページでもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/book/hiroba_202608/#page=1 POINT ワンポイントアドバイス 企業としての大切な「価値」  企業が存続し、従業員の雇用を守るためには「利益の追求」が不可欠です。職場の同僚や上司が障害のある従業員に「どこまで配慮すべきか」と悩むのは、この「企業の論理」とのバランスを模索している証拠です。特別扱いではなく、障害のある従業員が必要な配慮を得て会社の生産性に貢献できる着地点をみつけることが、企業における雇用管理や支援の「価値」となります。 図 問題を「見立てる」ための「4K+1K」 目には見えない、潜在化しがちな問題 4K+1K @感じる 「なぜ…?」 A仮説 「…ではないか」 B検証 「…ですか?」 C気づきを得る D価値・行動規範・ 知識knowledge ※筆者作成