研究開発レポート 在職中の高次脳機能障害者の職場再適応に向けた支援技法の開発 障害者職業総合センター 職業センター  障害者職業総合センター職業センターでは、高次脳機能障害者を対象とした支援プログラムの実施を通じて、高次脳機能障害の特性の整理や補完手段の獲得、事業主支援に資する支援技法の開発・普及を行っています。  近年、医療技術の進展等を背景に脳血管障害等を発症した方の入院期間が短縮され、在職中に高次脳機能障害を発症した方が早期に職場復帰するケースが増えています。しかし、タイミングが早まったことで、職場復帰後に課題が顕在化する状況も見られています。  地域障害者職業センターへのヒアリングでは、在職中の支援は就職や復職時と比べてむずかしいとする回答が多く、その背景には、支援が必要と思料される状況であっても、支援介入に至るまでにさまざまな困難があることがあげられました。具体的には、「障害特性や必要な配慮について、本人・会社双方の理解が不足している」、「仕事が任せられず現場担当者が疲弊している」、「キーパーソンの異動で、現場が本人へのかかわり方がわからなくなり、本人も混乱している」といった支援のニーズはある一方で、「本人が支援を受けることに対して抵抗感を示す」、「本人と上司で困りごとの認識が一致していない」などの課題が見られます。  こうした状況をふまえ、本技法開発では、在職中の高次脳機能障害者が支援につながるきっかけづくりと、柔軟な支援方法の工夫に取り組みました。 支援につなぐツール @相談シート「思い当たることはありませんか?」 (図1)  相談シートは、出勤から退勤までの流れに沿って、職場で生じやすい困りごとと対処法を示したもので、例えば「準備がうまくいかない」、「変更に混乱する」などの困りごとに対し、チェックリストや音声認識アプリの活用といった具体的な工夫を提示しています。  この構成により、本人は場面をイメージしながら困りごとを整理しやすくなり、事業所にとっても支援が必要な場面を把握しやすくなります。  ただし、本シートは、本人と事業所が課題について、おおむね共通認識を持った段階で活用することを想定しています。本人に困り感が乏しい段階で活用すると、一方的に課題を突きつけられたという印象を与え、拒否感や不信感を高める可能性があります。そのため、支援者は事業所からの相談要請への対応において慎重にかかわり、導入のタイミングに十分配慮することが重要です。 A共有シート「職場の今≠フ共有シート」 (図2、3)  共有シートは、「活用方法の説明」、「シートA(仕事の流れ・本人の工夫)」、「シートB(会社の配慮・期待)」の三シートで構成されています。本人、事業所および支援者の三者が、課題解決に向けた目標を整理し、支援の方向性を検討するため、職場を訪問した支援者を中心に、面談や行動観察、事業所からの聞き取りなどを通じて記入し、職場の現状を可視化できるように工夫しています。  「活用方法の説明」は、シートの活用目的、記入方法、留意事項を紹介しています。  「シートA」は、業務内容や本人が行っている工夫、起きやすいエラーなどを整理し、強みと課題を可視化します。  「シートB」では、事業所が行っている配慮や本人に期待している行動を整理します。  これにより、三者が同じ理解に基づいて、目標設定や支援計画の検討を行うことができます。 柔軟な支援の取組み @ジョブコーチ支援と支援プログラムのハイブリッド支援の試行  在職中の職場再適応に向けた支援では、ジョブコーチによる職場での直接的な支援が有効ですが、業務と並行し補完手段を習得するには限界があります。一方、職場外での支援プログラムは補完手段の集中的な習得に効果的ですが、何週間も続けて職場を離れ利用することはむずかしい場合があります。  そこで、週に一日、半日といった単位で支援プログラムを活用し、その内容を職場でジョブコーチがフォローするハイブリッド型の支援に取り組みました。 A在職者のためのグループミーティング「仕事のアイディア広場」  プログラムを受講する高次脳機能障害の方のなかには、これまで同様の経験や症状を持つ当事者とかかわる機会がない方が多くいます。また、職場でも同様の状況の他者と働く機会はかぎられています。こうした状況から、働く経験を通して得られる工夫や職場で有用な対処方法の知識、ロールモデルに触れる機会は、職業生活の見通しを持つ手がかりとなり、心理的支えになることが期待されます。  グループミーティング「仕事のアイディア広場」は、参加者同士が職場での工夫や困りごとを共有する場であり、課題への気づきや解決のヒントを得るとともに、自己有用感の向上にもつながります。  本書では、集合形式とオンライン形式で実施したグループミーティングの事例を紹介しています。 おわりに  本書では、在職中の高次脳機能障害のある方の職場再適応に向け、支援につながるきっかけづくりと、事業主や本人が利用しやすい柔軟な支援のあり方について検討しました。あわせて、実際の支援で活用したツールや取組みを具体的に紹介しています。  本書が、在職中の高次脳機能障害のある方が安心して力を発揮できる職場づくりにつながるとともに、事業主にとっても安心して雇用を継続する一助となれば幸いです。  実践報告書No.45「在職中の高次脳機能障害者の職場再適応に向けた支援技法の開発」は、障害者職業総合センター研究部門のホームページに掲載しています(28ページ※1)。冊子の配布を希望される場合は、下記までご連絡ください(※2)。 ※1 実践報告書No.45「在職中の高次脳機能障害者の職場再適応に向けた支援技法の開発」は、以下ホームページよりダウンロードできます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/practice45.html ※2 障害者職業総合センター職業センター TEL:043-297-9043 https://www.nivr.jeed.go.jp/center/center.html 図1 相談シート 図2 シートA 図3 シートB 写真のキャプション 実践報告書No.45(※1)