職場ルポ 一緒に働きながら、能力を見きわめ戦力化 株式会社大商金山牧場(山形県) 食肉加工工場では、業務の切り分けやナチュラルサポートを進めながら、障害のある従業員の能力や長所を活かした戦力化を図っている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野貴 取材先データ 株式会社大商金山牧場(たいしょうかねやまぼくじょう) (本社) 〒998-0838 山形県酒田市山居町(さんきょまち)2-3-8 庄内JAビル TEL 0234-43-8629 FAX 0234-45-1018 ミートセンター/産地パックセンター 〒999-7762 山形県東田川郡(ひがしたがわぐん)庄内町(しょうないまち)家根合字(かねあいあざ)中荒田(なかあらた)21-2 Keyword:精神障害、聴覚障害、食品加工、工場 POINT 1 聴覚障害のある従業員の雇用成功を機に、ハローワークや支援機関と連携 2 業務を切り分け、一緒に働きながら本人の能力や長所を見きわめ戦力化 3 ナチュラルサポートを中心に、職場内のコミュニケーションを重視 豚肉の生産から加工・販売まで  豚肉の生産から加工、販売までを手がける「株式会社大商金山牧場」(以下、「大商金山牧場」)は1979(昭和54)年、「株式会社肉の大商」として設立され、山形県内で仲卸業を行っていたが、その後、県内外に食肉流通センターを展開しながら発展してきた。2008(平成20)年に養豚事業を開始し、2012年には他社と合併して現在の社名へ変更。地元農家と連携した循環型農業による自社ブランド豚「米(こめ)の娘(こ)ぶた」を中心に、総合食肉会社として多様な加工商品を展開している。  全従業員421人のうち障害のある従業員は10人(身体障害3人、知的障害3人、精神障害4人)で、障害者雇用率は3.05%(2026〈令和8〉年6月1日現在)という。2021年度には「障害者雇用優良事業所」として独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞を受賞、2023年には山形県から「山形県障がい者雇用優良事業主」に認定されている。  大商金山牧場では、一人ひとりに寄り添った現場のナチュラルサポートを中心に、本人の働く意欲を引き出しながら、安定した就労と戦力化につなげている。今回は、事業の中心である食肉加工工場を訪ねた。 1日1万3000パック製造  大商金山牧場の加工工場「ミートセンター」と「産地パックセンター」は、庄内平野の田園地帯の一角にある。1日あたり約270頭分の豚肉が加工され、スーパーマーケットなどに並ぶ商品約1万3000パックが製造されているという。  まず、ミートセンターのカット事業部を見学させてもらった。専用作業着に着替え、手洗い消毒やエアーシャワーを経て加工エリアへ入っていくと、フロア頭上のレールに豚の枝肉が並んで吊り下げられていた。次々と作業台へ降ろされると、従業員がナイフを使い手際よく切り分けている。そのスピードと鮮やかな手さばきは、思わず見入ってしまうほどだった。公益社団法人全国食肉学校が認定する「豚部分肉製造マイスター」の有資格者が2人在籍し、後進の技術指導にもあたっているそうだ。  作業台のそばの床には大きなケースが並べられ、切り分け作業で出てくる骨や余分な脂身などが次々に入れられていた。作業台の周りでは、やはり素早い動きで満杯になったケースを置き換え、回収する従業員がいる。その1人が、聴覚障害のある佐藤(さとう)祐介(ゆうすけ)さん(42歳)だ。  この日の佐藤さんは、ケースをワゴンに載せて隣の部屋に移動した後、大きな計量機器に載せて手作業で量を調整。さらにプリントアウトしたシールをケースに貼りつけ、出荷向けのエリアに積み重ねるまでの一連の作業をテキパキと行っていた。  作業が一段落ついたところで、インタビューをお願いした。 コミュニケーションに工夫  佐藤祐介さんは生まれつきの感音性難聴で、山形県立酒田聾学校(現・山形県立酒田特別支援学校)を卒業後、山形県立酒田工業高等学校(現・山形県立酒田光陵高等学校)情報技術科に進学した。3年次には、工業系の企業を中心に就職活動をしたが、「2002年はいわゆる就職氷河期だったこともあり、特に障害のある私には厳しかったですね」とふり返る。12月に開催された就職面談会で佐藤さんは、企業ブースを出していた大商金山牧場の当時専務で、現在は社長を務める小野木(おのき)重弥(しげや)さんと目が合い、そのまま説明を聞いたという。このときの小野木さんとのやりとりをいまも覚えている。  「聴覚障害があっても大丈夫でしょうかと質問した私に、笑顔で『大丈夫。でも体力は必要だよ』と返してくれた言葉に、救われました」  後日、あらためて面接を受けて内定をもらった佐藤さん。2003年4月の入社時には、当時副社長で小野木さんの母親でもある靖子(やすこ)さんが、ほかの従業員に向けて佐藤さんに配慮が必要なことを伝え、「みなさんで支え合っていけば、何でもできますから」と声をかけた。佐藤さんは「この言葉に、『ここでがんばっていこう』という気持ちになれました」という。  配属先のミートセンターでは、「場合によってはマスクをはずして口の動きが見えるようにしてほしい」と依頼し、快諾してもらった。  最初の担当業務はパック包装。ベテランの女性従業員たちが、ほとんど身ぶり手ぶりで作業を教えてくれた。込み入った内容はマスクをはずして話してくれたが、早口になると佐藤さんには読みとりにくい。  「だんだん言葉のオウム返しをして確認するようになり、相手もゆっくり口を動かしてくれて、お互いコミュニケーションに慣れていけたように思います」(佐藤さん)  その後、佐藤さんは計量や出荷などの現場を経験し、品質管理の資格も取得。後輩の指導役を務めながら仕事の幅を広げていったが、同僚との連携がうまくいかずトラブルになったこともある。当時、佐藤さんはケースに商品を入れる作業をしていたが、「どのケースにいくつ入れるのか」について同僚が口頭で指示をしていた。するとときおり、早口になる同僚からの指示を読みとれないこともあったという。  ミートセンターを取り仕切る取締役の村上(むらかみ)文彦(ふみひこ)さんは「この現場はラインの動きについていけない従業員もいますが、佐藤さんはそれができる人でした。それに甘えてしまい、口頭指示によって無用な負担をかけてしまっていました」とふり返る。  その後、現場では身ぶり手ぶりを交え、よりわかりやすく伝える方法に切り替えた。さらに役割分担も明確にし、作業前には内容を双方で確認してから始めるようにしたという。こうした工夫によって認識のずれが減り、ミスやトラブルの防止につながっているそうだ。  佐藤さんが現在担当する枝肉副産物の回収・計量は、基本的に1人で完結する作業で、本人も能力を発揮しやすいという。「これも佐藤さんが、1日の仕事の段取りをしっかりと組めるからこそ可能なことです」と村上さんがつけ加えた。  いまや戦力として欠かせない佐藤さんには、かつて、試練の時期もあった。「35歳のとき、うつ病を患って3カ月ほど休職しました」(佐藤さん)。後輩の指導などでいいたいことがうまく伝わらず、ストレスを抱えた末のことだった。その後のスムーズな職場復帰をうながしてくれたのが村上さんだった。  佐藤さんの家族とも相談し、短時間勤務から開始したが、村上さんは佐藤さんに「体力づくりも始めよう」と提案。佐藤さんは、約1時間の自宅周辺のウォーキングや簡単な筋力トレーニングなどとともに、「ご飯もしっかり食べて、体重を元に戻す」ことを目標に、毎朝、村上さんに報告するようになった。そうして佐藤さんは、パソコン上で状況を記録しながら、着実に回復していけたという。  佐藤さんが安定して働けるようになった背景には、職場内で仕事以外のつながりができたこともあるようだ。その一つが、有志でつくるソフトボールチーム。「私自身は大した活躍もできませんでしたが、練習や飲み会が楽しかったですね」と佐藤さん。  このチームに誘ってくれたのが、カット事業部課長の阿部(あべ)雄也(ゆうや)さん。2005年入社の阿部さんに、佐藤さんが話しかけたのを機に、休憩時間などを一緒に過ごすようになった。いまでは佐藤さんにとっては「ちょっとした相談にも乗ってくれる仲間」だという。  阿部さんは日ごろ、集会などでの周囲の発言内容を、あとで個別に佐藤さんに伝えている。阿部さんは「特に心がけているわけではなく、ごく自然にやっているだけです。私だけでなく、職場の人たちはみんなそうですね」と話す。  佐藤さんは、「いまの職場では、みなさんが協力してくれて『指差し』と『読唇(どくしん)』(※)によるコミュニケーションが根づいています。おかげで安心して作業ができています」としたうえで、「海外からの実習生とも問題なく意思疎通を図ることもでき、やりがいのある職場になっています」と伝えてくれた。佐藤さんは2022年、「優秀勤労障害者」として独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞を受賞している。 記憶力が低下、メモ活用し業務習得  ミートセンターで部位ごとに分けられた豚肉は、隣接する産地パックセンターでパック包装される。ここも見学させてもらった。  温度がマイナス1度で保たれたエリア では、さまざまな種類のパック商品が入ったケースが積み上げられていた。出荷先であるスーパーマーケットなどの店舗ごとに並んでいるという。ここで1人、貼りつけられたラベルと伝票を照らし合わせながら出荷先と商品数を確認していたのが、産地パック事業部で検品担当を務める小熊(おぐま)康志(やすし)さん(39歳)だ。  小熊さんは2014年に採用されたが、当時は、病院でのリハビリを経て就職活動をしていたそうだ。「2011年ごろでしょうか、日常生活のなかで、どこかに頭をぶつけたらしくて、脳挫傷で入院しました。当時のことは本当に覚えていなくて」と小熊さん。  退院後もリハビリ専門の病院や施設に通っていた小熊さんは、ハローワークを経由して採用が決まった。入社前には「記憶力がよくないことと、判断力が鈍いことを伝えていました」という。  受け入れ側にいた村上さんは、「とにかく本人が実際にできること、苦手なことをみんなで見きわめながら、担当を決めていこう」との方針を示した。実際に複数の作業を試した結果、小熊さんが任されたのは、ライン上を流れていく商品パックのラベル、印字などの検品作業だった。  目の前のものを見比べる作業のため、あまり記憶力は問われないが、村上さんによると「どんどん流れていく商品ラベルの不備をみつけるのは、なかなかたいへんな仕事です。しかも小熊さんは、大事なバーコードの印字欠けも発見してくれて、何度も助けられました」とのことだ。  その後、担当していた真空パック事業が他拠点に移管されたため、小熊さんは現在の産地パック事業部に配属となった。おびただしい数の出荷先と商品の種類があるため、小熊さんは、「どの店舗にどんな商品がどのぐらいあるか」といったことも頭に入れなければならなかったそうだ。  「もともとメモを取る習慣をつけていたので、少しずつ慣れていくうちに、自然と頭の中に入っていったように思います。一連の作業を1人でできるようになったときは、うれしかったですね」  小熊さん自身、ここで働き始めた12年前に比べ、記憶力などに関する症状はかなり改善されているという。  産地パック事業部課長の武田(たけだ)繁和(しげかず)さんも、「現場では、小熊さんの症状を意識したことがありません」と明かす。2026年春に異動してきた当初は、小熊さんから仕事の流れを教わり、「似ている店舗番号の一覧表を書いたものをもらって『こことここは特に間違えやすいので注意です』とアドバイスしてもらい、とても助かりました」という。  そして、この職場には、障害のある従業員が複数人いるほか、海外からの実習生も多い。「日ごろから、あいまいな指示や抽象的な表現は使わず、だれにでもわかりやすいコミュニケーションを心がけています」(武田さん) 見守りながら見きわめ  これまで大商金山牧場では、地元の障害者就業・生活支援センターやハローワークと連携しながら雇用を続けてきたという。当初から採用を担当してきた、執行役員で総務部長を務める福山(ふくやま)雅一(まさかず)さんは「現場で切り分けた業務について、どんな人が向いているか、職場環境も含めてハローワークなどに相談し、求人票を作成しています」と説明してくれた。  職場での実際の受け入れ方について、村上さんはこう語る。  「障害種別は気にしていません。ただ、どういう経緯で入社してきたか、これまでどんな仕事をやったことがあるかは聞いておきます。本人の希望も聞き、最低限の工数から作業を始めて、どこまで何をやれそうか、職場のみんなで見守りながら見きわめていく流れです」  なかには、残念ながら安定就労に至らなかったケースもある。ハローワーク担当者から相談を受け、知的障害のある男性を短時間の就労体験を経て採用したが、3年半足らずで退職してしまったそうだ。家族によると、それまでの職歴で最長の勤続年数だったそうだが、福山さんは反省点をあげてくれた。  「最初は管理職がうまくサポートし、少しずつ担当業務も増えていくなど順調でした。しかしその後、異動で上司・担当者が変わった際の引継ぎが十分ではなかったようで、現場でかかわる従業員が、指示を出す際に配慮が足りない場合があったことなどがわかりました。また、かぎられた人員と作業内容で、本人の望む業務に配置できなかったことも要因の一つでした」  その後は、責任者や担当者の配置換え時に配慮事項の引継ぎを徹底する、担当業務の幅を柔軟に変えられるよう複数の業務を切り分けるなどの工夫のほか、面談などで本人の不安や悩みを早めに察知するよう心がけているそうだ。  また、半年ごとに実施している、事業部の上長らによる全従業員との個別面談も「職場の小さなほころびみたいなものをみつけられるようで、トラブルになる前の対応につなげられています」(福山さん)。  こうしたなか、入社後に働き始めてから療育手帳を取得した従業員の例もあった。  そのことを職場で共有することにより、「万が一ミスがあってもカバーしやすいよう作業は複数人数によるチームで行う」、「計算が苦手(本人談)であることから、作業中に必要な計算後はみずから責任者に数値確認を求める」などの工夫が行われているそうだ。 就労継続支援A型事業所からの採用  2024年からは、地元の就労継続支援A型事業所への業務委託も始めている。福山さんによると、「先方からの依頼で、施設外就労として来てもらうことになりました」とのことだ。  最初は製造工程の一部を担当してもらったが、少しむずかしかったようで、コンテナの洗浄作業をしてもらうことにしたそうだ。洗浄といっても、その工程はいくつもある。ラベルシールをはがし、積み重ねて、洗浄用の機械に流し込む。そこから出てきたコンテナを台車に重ね、さらに乾燥機に入れて出てきたものを運んで棚に並べる、という流れだ。  「日々の活動時間が決まっているそうで、実働は3時間程度ですが、毎回事業所から多くの利用者が来てくれています」(村上さん)  また、村上さんは日ごろから、現場の従業員たちに「(利用者のなかで)そのまま一緒に従業員として働いてくれそうな人がいたら推薦してください」と呼びかけているそうだ。実際に採用した例もある。  2026年2月に入社した男性は、施設外就労中は出荷前の商品ふり分け作業を担当していた。一緒に働いた従業員たちから「まじめで元気がよく、仕事への意欲が感じられる」などと満場一致の推薦があり、採用が決まったのだという。 コミュニケーションを重ね  ミートセンターと産地パックセンターでは現在、障害のある従業員が7人配属されている。かぎられた人員配置ならではのナチュラルサポートも、試行錯誤を経ながら醸成されてきた。福山さんは、これまでの障害者雇用をふり返りつつ、今後の方針について語ってくれた。  「障害のある従業員の小さな変化を周囲が見逃さないよう、やはり日ごろからコミュニケーションを重ねることがもっとも大切だと思います。上司や同僚を信頼してもらい対話するなかで、新たに必要な配慮事項がみつかることもありますし、何より本人の意欲の向上にもつながっていると感じます。今後も一人ひとり、仕事以外のことにも目を向けながら、本人の得手不得手や、さまざまな事情に合わせた働き方ができるような職場にしていきたいと考えています」 ※読唇:相手の唇や口の動きを見て話している内容を読みとること 写真のキャプション 株式会社大商金山牧場は、豚肉の生産から加工、販売までを手がける ミートセンターのカット事業部 佐藤さんは、枝肉副産物の回収・計量を担当している カット事業部で働く佐藤祐介さん 取締役の村上文彦さん 産地パックセンター 小熊さんは、出荷前の検品作業を担当している カット事業部課長の阿部雄也さん 産地パックセンターで働く小熊康志さん 産地パック事業部課長の武田繁和さん