研究開発レポート 中高年齢障害者の雇用継続を支える職場の取組 ―「中高年齢障害者の雇用継続支援及びキャリア形成支援に関する研究」の紹介― 障害者職業総合センター研究部門 社会的支援部門 1 はじめに  障害のある労働者の高齢化が進むなかで、中高年齢層の障害者が職場で力を発揮して働き続けるためには、障害者と事業主の双方を支える取組が重要となっています。  本稿では、当センター研究部門が2023(令和5)〜2025年度にかけて実施した「中高年齢障害者の雇用継続支援及びキャリア形成支援に関する研究」で得られた知見のなかから「加齢に伴いどのような職業生活面の困りごとが生じるのか」、「その困りごとに対し職場はどのような支援を行っているのか」に関する調査結果について紹介します。 2 経年的な変化に伴う困りごとにはどのようなものがあるか  2024年4月から5月にかけて、一般企業と特例子会社を対象としてWeb調査(以下、「事業所調査」)を行い、948件の回答を得ました。この調査では「経年的な変化(健康状態・体力や家庭環境の変化など)により、今までできていたことができなくなったために、何らかの支援や配慮を実施した従業員はいましたか」と質問したうえで、当該従業員がどのような困りごとを経験し、それに対して職場がどのような支援を行ったのかなどについて、あわせてたずねました。  まず、経年的な変化により支援や配慮を実施した従業員の年齢層を分析したところ、「45〜55歳未満」が24.1%と最も多かったものの、「35〜45歳未満」も16.2%を占めていました。この調査結果から、加齢に伴う就労上の支援や配慮のニーズは、30代の従業員にも一定程度存在することがわかります。  次に、具体的にはどのような困りごとがあり、その背景に何があるのかについて、経年的な変化により生じた困りごとを事例単位でたずねました。すると、報告された約半数の事例について「健康管理」や「生産性」が困りごとの内容として選択されていました。困りごとの具体的内容の例は表1に示しています。  さらに、困りごとの背景をたずねたところ、4割以上の事例について「疾病や障害の進行や不調を繰り返すなどの問題が生じるようになった」や「体力や運動能力などの問題が生じるようになった」が選択されていました。この結果からは、加齢による障害の重症化や身体機能の低下が職業生活における困りごとに関連している可能性が示されています。 3 困りごとに対し職場はどのような支援を行っているのか  経年的な変化により支援や配慮が必要になった従業員に対する職場からの支援状況をたずねたところ、4割以上の事例について「健康管理に関する配慮」、「就業時間や柔軟な休暇の取得に関する配慮」、「同じ部署内での業務内容の見直し」が選択されていました。なお、「業務内容の見直し」について、具体的にどのような変更を行ったかについては表2に示した通りです。変更の対象は「業務内容」そのものだけでなく、「業務範囲」、「業務の実施方法」、「業務の実施体制」、「業務場所」、「業務負担」と多岐にわたっていました。事業所は障害のある従業員の状況に合わせて柔軟に職務を再設計することで、本人がつちかってきた知識や経験を最大限に発揮できるように配慮しているといえます。  そして、このような支援の結果、約7割の事例で「課題が解決した」または「課題が一部解決した」と報告されていました。この調査結果からは、経年的な変化に伴う困りごとは職場からの支援によって一定程度解決できることがわかります。 4 相談しやすい職場風土の醸成が支援のカギ  では、このような支援を受けやすい職場はどのような職場なのでしょうか。  この研究では、35歳以上の障害の診断のある 従業員を対象としたWeb調査も実施しています。この調査では、回答者が働く職場が「従業員同士がお互いを理解し認め合い、信頼関係や情報共有に基づく協働が行われている職場」にどの程度あてはまるかという質問と、経年的な変化により仕事のパフォーマンスが低下したときに職場から受けたサポートの種類を問う質問の両方に答えてもらいました。  調査の結果、「従業員同士がお互いを理解し認め合い、信頼関係や情報共有に基づく協働が行われている職場」にあてはまる程度が高い職場で働いていた回答者の方が「上司や同僚への理解促進」、「職務内容の見直し」、「作業環境・設備の整備」といった支援が得られている割合が高いという結果が見られました。  この調査結果からは、従業員が困りごとを相談しやすく、上司や同僚と一緒に解決策を考えられる職場風土が、加齢に伴って生じる職業生活上の困りごとへの支援や配慮につながっている可能性がうかがえます。例えば、体調の変化や作業のむずかしさを早い段階で相談できれば、職場は勤務時間の調整、作業方法の工夫、業務内容の見直しなどを検討しやすくなります。なかでも業務内容の見直しは、単に仕事を減らすことではなく、本人の経験や能力を活かしながら、現在の状況に合った役割を考える取組です。そのためには、従業員本人のキャリアに関する希望と、雇用者が期待する役割をすり合わせ、必要な調整について率直に話し合える関係性を築くことが重要といえます。 5 最後に  本研究の調査研究報告書(※1)には、上記で紹介した事業所調査、障害者調査の詳細な結果のほか、障害者就業・生活支援センターを対象とした調査の結果や中高年齢障害者の雇用管理事例に関するインタビュー調査の結果を掲載しています。また、調査で収集した中高年齢障害者の雇用管理事例を収録した事例集(※2)も公開しております。ぜひご活用ください。 ※1 調査研究報告書No.186「中高年齢障害者の雇用継続支援及びキャリア形成支援に関する研究」 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku186.html ※2 マニュアル、教材、ツール等 No.88 「取組事例から学ぶ『中高年齢障害者の雇用継続・キャリア形成支援』のポイント〜活き活きと長く働ける環境づくりのヒント〜」 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai88.html 表1 経年的な変化による困りごととその内容の例 困りごと 具体的な内容の例 健康管理 ・急な体調不良で休みがちになった ・経年とともに体力の低下や体調変化(血圧・疲労の蓄積等)が見られ、仕事を休むことが増えてきた 労働能力・生産性 ・業務(清掃)での所要時間がだんだん長くなってきた ・ケアレスミスの増加 労働条件 ・体調悪化による労働日数変更 ・通勤困難 職場の人間関係 ・コミュニケーションがとりにくくなってきた ・些細なことでイライラし他の従業員とトラブルになった 就労選択 ・経年とともに健康への配慮や相談を行うことが多くなり、ご本人より就労継続支援B型事業所への変更の意向が確認された 表2 仕事のパフォーマンス低下への対応としての職務再設計の例 類型 変更前 変更後 業務内容の変更 運搬→清掃 見回り業務→受付業務 生産ライン業務→パソコン作業・掃除・軽作業 事務作業への変更 設計業務、外部業者との交渉→内部の事務作業 自動車整備→一般事務 機械オペレーター→パソコン作業 業務範囲の変更 清掃作業→清掃作業の中で、同一作業の時間を増やした 生産〜出荷までの一連業務→移動や選別業務はなくして、単純作業のみ 事務全般にて、データ入力の他、電話応対も→データ入力メインにて、電話応対は実施しない 業務実施方法の変更 出張健診における事務補助(立ち仕事)→事務所内で着座にてできる事務補助 清掃業務→雑巾を使う内容をなくした 業務実施体制の変更 単独で行う業務→健常者と一緒に取り組む業務 製造ラインでの業務→1人工程 業務場所の変更 畑での農作業→室内で栽培できる作物の栽培、出荷準備 出社しないとできない業務も一定数あり→基本的に在宅勤務で処理できる業務のみを抽出 全ての受注先からの交通誘導業務→トイレに配慮した現場での交通誘導業務 業務負担の変更 コミュニケーションを必要とする清掃作業→作業が定型化している清掃作業 納期のある業務→納期のない業務 管理職として顧客からのクレーム対応を行う→本人の希望により管理職を解き、管理部門での対人業務の少ない業務とした 写真のキャプション マニュアル、教材、ツール等 No.88 「取組事例から学ぶ『中高年齢障害者の雇用継続・キャリア形成支援』のポイント 〜活き活きと長く働ける環境づくりのヒント〜」 ◇お問合せ先 研究企画部企画調整室 (TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp)