働く広場増刊号2013
22/79

20「働く広場」増刊号 2013「れいめい」の考えは、こうした家事サービスだけがヘルパーの仕事ではなく、「利用者の気持ちに沿うことが第一」と、「お年寄りの話し相手をしていて時間が伸びてしまっても焦らずに、時間が多少超過してもいい」、「食事作りの時間が間に合わなければ、弁当を買ってもいい」という柔軟な考え方である。こうした「れいめい」のヘルパーたちの働きぶりは、普通とはちょっと違う。いわゆる健常者のヘルパーは能率的でテキパキと手際がよいが、次の利用者宅へと慌ただしく急ぐこともある。入浴サービスにしても、お年寄りによっては、もう少しゆっくりしたい、お風呂もササッと済んでしまって味気ないという人もいる。助けられたり、助けたり「れいめい」のヘルパーたちは、社適訓練を通じて利用者にもヘルパーの訓練にも時間をかけている。その訓練の第一歩は、会社と同じアパートの隣棟に住む75歳の全盲のマッサージ師、駒田次男さんが、新人に理解ある稽古台になってくれているのだ。身のまわりを世話していた奥さんを10年前に亡くして、途方に暮れていた駒田さん。その日々の世話をしながら、「れいめい」のヘルパーは育てられてきた。ヘルパーの基礎訓練には目の不自由な方への接し方や、コミュニケ―ションの取り方など学ぶことが多い。例えば、お茶をいれるときも、「駒田さん、ここにお茶を置きますよ」と湯飲みにそっと手を添えて知らせる心遣いを忘れない。「れいめい」では新しい利用者につく場合、トップやヘルパーの責任者と一緒に訓練生が必ず事前に訪問する。障害者であることをオープンにしたうえで、「この人が担当としてお宅に伺っていいか」と、まずは様子を見て納得していただくことを前提としている。夢はお嫁さんをもらうこと高橋さんと同じ病院に通院する赤しゃく藤どう英樹さん(統合失調症・35歳)も、以前はいろいろな仕事に就いても続かなかった。同じ病院の仲間がやっているなら、「できるかな?」と、この仕事に入ったという。社適訓練のあと、精神障害者に特化した「ステップアップ雇用」をふまえての雇用で、今年で4年になる。初めは失敗ばかりで、きつかったようだ。約束の日に訪問すると、認知症の方から「帰れ!」といわれて、先輩が来るまであせってしまったこともあった。いまでは帰り際にわざわざ送ってくれるお年寄りに、「ありがとうね」と言葉をかけられると、「この仕事について本当によかった」と思う。利用者からすると、「サービスをしてあげる」と「上から目線」のように感じられることもあるようだが、ここのヘルパーは、自信はなくても、わからないことは素直に聞く「下から目線のヘルパーだ」と感じるようだ。ある認知症のお婆ちゃんは、まるで孫が来るかのように、「今日はあの子が来るから、私がしっか全盲の駒田さん宅で、ホームヘルパーとして仕事をする赤藤英樹さん 働きたいが、直ちに就労は難しい精神障害者が、職場での訓練を通じて働く習慣や職場でのマナーなどを学び、仕事の技術を身に付けながら集中力・継続力を高める訓練。熱心な協力事業所(職親)が各都道府県などの自治体と要綱によって契約を結び、委託費を受給する。古くは、精神病院の院外作業として始まり、1982(昭和57)年度から国庫補助事業となり、1995(平成7)年からは「精神保健福祉法」上に位置づけられた。2012年度には同法から削除されたが、多少形を変えて全国の約7割の自治体がこの訓練事業を継続しており、一般の雇用に結びつくケースも多い。● 社適訓練(精神障害者社会適応訓練事業)

元のページ  ../index.html#22

このブックを見る