働く広場増刊号2013
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52「働く広場」増刊号 2013ひと口に精神障害といっても、さまざまな疾患があります。2008(平成20)年の患者調査によると、精神科の患者で最も多いのが気分障害で104万1千人、次いで統合失調症が79万5千人でした。また、精神保健福祉センター59カ所での2009年9月の精神障害者保健福祉手帳の新規交付件数は5561件あり、うち統合失調症が2197件、気分障害が1810件と、全体の72%を占めていました(文献1)。患者数や手帳所持者の割合から考えると、精神障害者の雇用管理は、統合失調症と気分障害への対応が大きな比重を占めることになります。そこで今月号は、統合失調症を取り上げて解説します。統合失調症とは「統合失調症」は、およそ100人に1人がかかる比較的よくある病気です。10代後半から20代前半に発病のピークがあり、学生時代や社会人の門出を迎える時期の発病は、その後の人生に少なからぬ影響を与えることになります。原因ははっきりしていませんが、脳の神経伝達物質の過剰や低下が、さまざまな症状を引き起こすと考えられています。症状には、幻聴(実在しない人の声が聞こえる)や妄想(実際にはあり得ないことを信じ込む)、まとまりのない言動や落ち着きのなさなどの「陽性症状」や、感情表現が乏しくなる、意欲低下などの「陰性症状」がみられます。治療には、薬物療法のほか、精神療法、病気を自己管理するための教育プログラム、社会生活技能の向上をめざした訓練などがあります。比較的短期間で治癒するものや、回復と再発を繰り返すもの、回復が得られずに病気の状態が持続するものなど、発病後の経過は多様です。長期的な追跡調査によると、約半数の人が治癒、または比較的社会的に良好な状態になるとされています。副作用の少ない薬の導入やリハビリテーション技術の進歩などにより、今後は、さらに予後の改善が期待されます。職場で現れやすい「障害」の例ハローワークの障害者窓口から紹介される人は、前述したような「陽性症状」が激しくて治療を最優先することが必要な人ではありません。陽性症状が治まり、就労を考えることが可能な人たちです。ただし、陽性症状が治まっても、日常生活で何らかの「障害」が現れることもあります。職場で問題となりやすい「障害」には、次のようなものがあるといわれています(文献2)。①体力や持続力に乏しい②細かな指先の動作が苦手で作業速度が遅い③生真面目さや過緊張のため疲れやすい④注意や集中が持続せずミスを出しやすい⑤同時に複数のことをこなすのが苦手⑥仕事の段取りをつけるなど全体把握が苦手⑦明確な指示がないと仕事が滞るなど、あいまいな状況で困惑する⑧融通や機転がきかず手順や流儀の変更が難しい⑨経験をほかの場面に応用することが苦手⑩新しい職場環境や仕事内容に不安を覚え、適応までに時間がかかる⑪上司や同僚の評価に敏感で注意や指摘を過度に気にする傾向がある⑫断ることや頼むことが苦手⑬相手の立場に立って考えるなど、視点の転換が苦手⑭失敗により自信を失いやすい「障害」の現れ方は人によって異なる職場で現れやすいといわれる「障害」を列挙しましたが、このようなものがすべて現れるのかといったら、そうでははじめての精神障害者雇用 ②統合失調症について福島障害者職業センター 所長  相澤欽一52「働く広場」増刊号 2013

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