働く広場増刊号2013
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53「働く広場」増刊号 2013ありません。障害者雇用に関するシンポジウムで、統合失調症に罹患した人が専門家に混じって登壇し、込み入った議論になっても専門家よりもわかりやすく話をし、融通や機転のなさを微塵も感じさせない人もいます。また、ノーベル経済学賞を受賞し、その人生が「ビューティフルマインド」という映画にもなったジョン・ナッシュのような人もいます。「障害」の現れ方は、発病の時期や病気の症状、もともとの能力や性格、周囲の環境などによって変わってきます。前述の「障害」例にとらわれすぎないように、気をつけましょう。ところで障害には、「機能障害:心身の機能や構造上の問題」、「活動制限:個人が活動を行うときに生じる難しさ」、「参加制約:個人が何らかの生活・人生場面に関わるときに経験する難しさ」の3つの側面があります。脊髄を損傷した人の場合でいえば、足が動かなくなる(機能障害)、移動・活動が制限される(活動制限)、職業生活の継続に支障が出る(参加制約)といったことが考えられます。この場合、足は動かなくても手だけで運転できる車をマスターし、職場をバリアフリーにすれば、活動制限や参加制約は軽減します。このように、周囲の配慮や支援によって、機能障害が活動制限や参加制約につながらないようにすることが重要です。脳機能の障害から統合失調症を考える障害を3つの側面で見ると、統合失調症の場合、例えば活動制限では対人関係が苦手、参加制約では就職先を見つけにくいなどが考えられます。機能障害にあたるものが何かわかりにくい面もありますが、脳機能の障害という側面から考えると理解しやすいでしょう。統合失調症は、次のような脳機能の障害が発生しやすいと指摘されています(文献3)。①認知障害(「さまざまな情報を脳にインプットする↓処理(蓄積・照合・判断など)する↓アウトプットする」という過程のどこかに支障があり、注意の幅や処理容量の狭さ、情報の文脈を読み取ることの困難さ、技能を学習したり学習したことを一般化させることの困難さ、他者の感情や言動の認知に関する障害などが出やすい)②脳機能の不安定性(疲れやすかったり、ストレスで機能が低下したり混乱しやすい)③再燃への脆弱性(発病した人はいったん症状が治まっても何らかのきっかけで症状が再燃しやすく、二度三度と再燃を繰り返すとさらに再燃しやすくなる)このような脳機能の障害をふまえ、表のような対応が望まれています(文献4)。どこに何があるかわからない、作業手順が決まっていない職場より、表の①のように、どこに何があるか明確で、標準化された作業手順が図示されている職場の方が働きやすいでしょう。また、新入社員や目の前の仕事でいっぱいいっぱいの社員には②や③の対応は必須ですし、自信のない職員には頭ごなしの叱責よりも、④や⑤の対応が効果的でしょう。このように、統合失調症の脳機能の障害をふまえた対応は、障害のない社員にとっても有効な対応になるといえます。表 脳の機能障害をふまえた対応方法① 生活や働く場を構造化された明確なものにする② 指示は具体的に、誤解の余地なく、タイミングよく、  一度にたくさんいわない③ 混乱した状態は整理してやり、いつまでも迷わせない④ 成功体験と達成感を重視する⑤ ミスに対しては具体的な対応策を一緒に考える【文献】1 障害者職業総合センター『雇用対策上の精神障害者の認定のあり方に関する調査研究』資料シリーズ52(2010年)2 中川正俊「統合失調症」『精神障害者雇用管理ガイドブック』(2012年) 41〜43頁3 熊谷直樹「障害の理解」『精神障害者のための就労支援ガイドブック』 (1998年)92〜99頁4 熊谷直樹「障害への対処」同右、100〜107頁53「働く広場」増刊号 2013

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