働く広場増刊号2013
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55「働く広場」増刊号 2013疾患について、『精神障害者の雇用管理』と一ひと括くくりにすることができるのか」という疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、障害者雇用制度の対象となる精神障害者には、さまざまな精神疾患が含まれ、精神障害者保健福祉手帳を取得すれば、企業の方が精神疾患のイメージを持ちにくい発達障害や高次脳機能障害なども、雇用対策上の精神障害者になります。しかし、ハローワークの障害者窓口から紹介されて就職した精神障害者は、統合失調症48%、気分障害28%、てんかん8%、適応障害や不安障害などの神経症性障害5%、発達障害3%、高次脳機能障害2%でした(文献2)。さまざまな疾患が含まれているとはいえ、「精神障害者雇用」として新規雇用された精神障害者の8割以上は、企業の方が精神科の疾患であるとイメージしやすい統合失調症と気分障害、それに神経症性障害の3つで占められていることがわかります。〈雇用管理上の共通項〉この3つの疾患について雇用管理上の共通項を考えると、以下のようになります。①いずれも病気がベースにあり、通院の確保など健康管理面での配慮が必要です。②また、病気とストレスには深い関連性がありますが、精神疾患に罹り患かんした人の場合、特にストレスに弱い面があり、仕事で過重な負担をかけないなどの配慮が求められます。③さらに、中途障害であることと、精神疾患に対する周囲の無理解・偏見なども相まって、障害による自信の喪失という問題を抱えている人たちもいます。コミュニケーション上の配慮により安心して働ける雰囲気をつくることも重要です。④加えて、認知面の障害(大雑把にいえば、情報を脳にインプットし、脳内で情報を処理し、処理した情報をアウトプットする一連の流れのどこかに障害がある)が見られる人も一部おり、その人に対しては、仕事を簡素化するといった工夫も望まれます。〈支援機関の活用〉もっとも、統合失調症と気分障害では病気が異なり、統合失調症のなかでも症状や重症度が異なるうえ、もともとの能力や性格、発病前に身につけていた技能や経験など、多くの点で違いがあります。このため、個々人の状況を的確に把握し、個別対応していくことが必要になります。個別対応による適切な雇用管理を行うためには、採用時の情報収集を工夫するだけでなく、採用後の状況把握も適宜求められ、ひいては医療や生活面の問題も考慮に入れる必要があります。これらのことを企業だけで行うにはかなりの負担が伴うため、精神障害者の雇用管理を適切に行うためには、支援機関を活用することが効果的です。つまり、「ある程度の共通項(健康管理・ストレス・自信喪失・認知面の障害などへの配慮)をふまえつつ、適切な個別対応をするために必要に応じて支援機関を活用する」ことが、精神障害者の雇用管理のポイントになります。そして、このような取組みを通じて自信を回復し、持っている力を発揮できるようにすることが望まれます。なお、健康管理・ストレス・自信喪失・認知障害への配慮、支援機関の活用などは、発達障害や高次脳機能障害、てんかんのある人にもあてはまることは多いのですが、これらの障害に特化した全般的な解説は左の文献(文献3〜5)をご覧ください。【文献】1 中川正俊「気分障害」(『精神障害者雇用管理ガイドブック』)43〜45頁(2012年)2 障害者職業総合センター『精神障害者の雇用促進のための就業状況等に関する調査研究』調査研究報告書№95(2010年)3 厚生労働省『発達障害のある人の雇用管理マニュアル』(2005年)4 高齢・障害・求職者雇用支援機構『高次脳機能障害者の雇用のために』雇用マニュアル90(2001年)5 「てんかんinfo」www.tenkan.info「精神障害者雇用管理ガイドブック」「発達障害のある人の雇用管理マニュアル」「高次脳機能障害者の雇用のために」(注)2011年、精神障害者保健福祉手帳の診断書の様式改正に伴い、発達障害や高次脳機能障害のある人で手帳取得する人たちが増加する可能性はある。55「働く広場」増刊号 2013

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