働く広場2019年4月号
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19働く広場 2019.4『障がい者の就活ガイド』著者 紺野大輝 私は大学を出てから17年間、これまで2社での就業を経験しています。1社目は新卒の一般採用で老舗ホテルに入社、購買部で5年間勤務しました。その後、障害者枠で転職、情報提供を行うサービス業の会社に入社しました。今回から2回にわたり、一般採用と障害者採用、それぞれで経験したことについて書きます。  大学生のとき、塾講師のアルバイト(※前号で紹介)で自信をつけた私は、それまで考えていた〝安定した公務員〞という道を選ぶことをやめ、子どものころから好きだった旅行関係の仕事を目ざすことにしました。選んだのはホテル業界。当時、「障害者採用」の制度を知らなかった私は、障害のない学生と同じ「一般採用」で就職活動をしていました。 まず私は、障害者手帳の等級を変更することを考えました。当時、私の等級は出生時に取得した、重度を表す2級。このままでは書類選考で落ちてしまうと思ったからです。このときの私の症状は、手帳取得時よりもよくなっていたので、病院で検査を受けた結果、4級に変更となりました。 しかし、私の思惑は外れ、手帳の等級を変更したものの、就職活動は苦戦しました。書類選考は通過しても、一次面接が通りません。ある会社では、面接室に入って2歩歩いたところで「うちは新卒で障害者は雇わない。時間の無駄だから、早く出て行け」と大声で怒鳴られました。椅子に座らせてももらえず、わずか3秒で面接が終了。私は「このような会社は入ってから苦労する。入社前にわかってよかった」と何度も自分に言い聞かせましたが、一方で「どの会社も本音はこうなのではないか」と不安になりました。そしてその不安を表すかのように、その後も面接での不合格が続きました。 初めて面接を通過したのは、応募50社目でした。その会社は、一次面接が最終面接という一発勝負の選考を行っていました。私は、「いままで一次面接すら通過したことがない私が、役員面接に合格するわけがない」と思っていましたが、結果は内定。私は、たった一回の面接合格で内定を得たのでした。  その会社は説明会で「新卒は全員現場に配属する」と話していたので、私も接客の仕事ができると楽しみにしていました。ところが、2月の内定者懇親会で衝撃の事実が発覚します。 懇親会の終了時、人事担当役員から「紺野君だけ少し残ってください」といわれました。そこで、開口一番「新卒は全員接客といったけれど、君には事務の仕事をしてもらいます。君は、障害者雇用推進の一環として雇っただけ。万が一なにか問題が起きても困る」といわれたのです。 私は、「どうしてこんなに大事な話を最初に話してくれなかったのだろう」と、目の前が真っ暗になりました。「入社しても接客ができない」と就職活動中にわかっていれば、内定は断っていたと思います。しかし、この時点ですでに大学卒業まで1カ月。卒業したら自立して生活しなければなりません。これからどうなるのだろうか。暗あん澹たんたる気持ちで懇親会の会場を後にしました。  2000(平成12)年4月1日、私が配属されたのは購買部でした。2月の懇親会以降、大きな不安を抱えて入社日を迎えましたが、結果的にそれは杞き憂ゆうに終わりました。なぜなら、どのような理由で採用されたかは、その人事担当者以外だれも気にしていないと、すぐにわかったからです。 求められているのは、仕事で結果を出すことだけです。これで、私は精神的に非常に楽になりました。さらに、購買部での仕事が予想以上に面白かったのも、功を奏しました。どの会社にも、自分が知らない仕事がたくさんあり、「まずはやってみることが重要だ」と、このとき学んだのです。4年目からは役職がつき、責任も大きくなりました。 私は仕事への興味は失っていませんでしたが、このころから徐々に、その後のキャリアを考えるようになりました。この会社で働き続けるかぎり、障害者である私が働ける部署は購買部以外はほとんどありません。定年まで30年以上、この仕事を続けるのかと考えると、答えは「ノー」です。そこで私は「勤続5年」という区切りで退職、次のステージに進む決断をしました。つづく一般採用と障害者採用、両方を経験してpart.1紺野大輝(こんのたいき)1976(昭和51)年、札幌市生まれ。「脳性麻痺による脳原性運動機能障害(両上肢機能障害)2級」という障害を持って生まれる。2000(平成12)年法政大学卒業後、一般採用で都内老舗ホテルに入社、購買部で5年間勤務する。2006年、障害者採用で転職。2016年、『障がい者の就活ガイド』(左右社)を出版。2018年8月22日、朝日新聞「天声人語」で紹介される。公式ホームページ:http://konnotaiki.net/◎障害者手帳の等級変更◎事務の仕事をしてもらいます◎目の前のことに全力を尽くす*検索働く広場 3月号※第1回(2019年3月号)は、当機構ホームページでもご覧になれます。第 2 回

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